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287 大使館の真の主

 俺はシアたちの方を振り返らず、爆発した扉の奥をにらみながら尋ねた。


『みんな大丈夫か?』

『ええ、無事よ。ありがとう」

『おかげさまで無事でありますよ!』

「がう」

『それはよかった』


 念話で会話をしながら、俺は扉の奥を観察し、魔法で探索し続ける。

 扉の奥の部屋はそれなりに広かった。五十人ぐらい参加するパーティーを開けそうなぐらいだ。

 そして、窓が一つも無く、薄暗い。


 大使館には似つかわしくない玉座のような椅子が高い場所に置かれていた。

 そこには、ヴァンパイアが堂々と座っている。

 真祖ではないが、膨大な量の魔力を持っている。邪神に強化されたハイロードだろう。


「お前がここのボスか?」

「……頭が高いぞ、猿が」


 玉座から見下ろしたまま、ハイロードは低い声でそう言った。

 俺はゆっくりと部屋の中へと入る。ガルヴも慎重についてきた。


「誰が入っていいと許可を出した!」

 ハイロードの怒声と同時に、雷が落ちる。その雷をとっさに躱す。


「随分とイライラしているな。まるで計画が失敗しそうで慌てているかのように見えるぞ?」

「……猿風情が、調子に乗るな」


 俺はゆっくりとハイロードに歩みよりながら、魔法による探査を進める。

 神の加護に穴を空けている魔道具を見つけるためだ。


 だが、見つけるのは容易ではなさそうだった。

 隠蔽されていて、反応がないわけではない。逆に魔力探知に大量の反応がひっかかったのだ。

 部屋の中には、魔道具や魔石、ヴァンパイアのメダルだらけだ。

 その中から、神の加護に穴を空けている魔道具を特定するのは非常に面倒だ。


「……こそこそと何を探っている?」


 俺が魔法で探索していることに気がついたようだ。

 ハイロードだけあって、魔導士としてもかなりの力量を持っているらしい。


「聞かなくてもそのぐらいわかっているだろう?」


 そう適当に返事をしながら、念話で連絡する。


『シア、セルリス。こっちは任せてくれ』

『わかったであります。大使は任せて欲しいでありますよ』

『うん、こっちは任せて』


 シアたちのいる部屋から大使のわめく声が聞こえていた。

 そして、その声を聞いた大使の部下たちが駆けつけてきて戦闘が始まった。

 戦士や魔導士を含む戦闘員が十名。


『全員眷属でありますよ!』

『なら、遠慮しなくていいわね。戦いやすいわ!』


 シアとセルリスならば大丈夫だろう。

 俺は俺のすべきことを、速やかに実行しなければならない。

 だが、神の加護に穴を空ける魔道具は見つからなかった。


「……嫌な予感がするんだが」

「…………」


 ハイロードはこちらを無言で見つめていた。

 俺は虚を突いて、一足飛びで間合いを詰めて玉座に腰掛けているハイロードに斬りかかる。


「ちぃ!」


 ハイロードは軟体生物のように身体をよじり、魔神王の剣を回避しようとする。

 だが、俺の剣はその変化に対応して軌道を変える。

 魔神王の剣は、ハイロードの腹を斬り裂いた。


「……猿のくせになんという動きだ」

「お前らは本当に気持ちの悪い動きをするな」


 ヴァンパイアどもは、まれに脊椎動物にはあり得ない動きをする。

 まるで海に住むという蛸のような、軟体動物の如き動きをするのだ。

 見かけが脊椎動物に似ているので、つい対応が遅れてしまう。

 だが、俺は前に見たことがある。だから対応ができた。


「貴様ぁ……」

 ハイロードは俺が斬り裂いた腹を手で押さえている。


「どうした? 化け物。その程度の傷、化け物らしく再生すればいいだろう?」

 だが、ハイロードは腹の傷を再生せずに、手で押さえ続けている。

「まるで再生出来ない理由があるみたいじゃないか」

「舐めやがって!」


 ハイロードは、その優れた身体能力を生かして爪を使い襲いかかってきた。

 俺はその攻撃を躱しつつ、ハイロードに尋ねる。


「再生できないのは、その腹の中に入っているものが原因か?」

「っ!」


 ハイロードは絶句し、ごくごく一瞬動きが鈍った。

 先ほど村で倒したロードは邪神の加護を発生させる魔道具を体内に埋めていた。

 そしてその事で強化もされていたのだ。


 だから、こいつも体内に何かを隠していると俺は考えた。

 しかも今は神の加護に穴を空ける魔道具が俺の魔法による探索で見つからない状況だ。

 ならば、高確率でハイロードが体内に隠している物は神の加護に穴を空けている魔道具だろう。

 そう考えたのだ。


「どれ、再生出来ないのはお前も辛かろう。原因を取り除いてやろうじゃないか」


 俺はハイロードの猛攻を回避しながら、間合いを詰めて腹の傷口に右手を突っ込んだ。

 そしてドレインタッチを発動する。


「うがああああああ!」


 みるみるうちに、ハイロードは萎んでいく。

 ドレインタッチを食らわせれば、ハイロードの動きが鈍くなる。

 だから、腹の中をゆっくり探れるようになるのだ。

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