俺はハイロードの体内を魔法で探索していった。
「む? これは?」
怪しげな魔力反応を示す魔道具らしき物を見つけ出す。その場所は心臓と横隔膜の間だ。
その魔道具らしき反応を、俺は右手で掴んで、えぐり出した。
「ぐうぅぁああああああああ」
ハイロードは絶叫した。
魔道具を体内に入れていたことによる強化もハイロードから失われたようだ。
みるみるうちに並のハイロード程度の魔力に落ちていく。
「体内に魔道具を入れて強化するとか、お前らの考えていることはわからないな」
そんなことを言いながら、俺は魔道具を魔法で調べる。
魔道具は握りこぶし程度、人間の心臓と同じぐらいの大きさだった。
素材は愚者の金と魔石の欠片とオリハルコンだろうか。
事態が解決したら、フィリーに解析を依頼したいところだ。
そして、魔術回路は複雑怪奇だった。
魔力探査で回路の全体図を把握したにもかかわらず、機能を把握出来ないほどだ。
「これは、凄まじいな」
俺は思わず呟く。
「返せ! 下等生物が!」
激昂したハイロードが躍りかかってくるので、左手でいなす。
そうしながら、右手で魔道具の調査を進めていく。
恐らくこれが神の加護に穴を空けている魔道具なのは確実だろう。
このような複雑な魔道具は単に力任せに壊せばいいという訳でもないので厄介だ。
解析し、構造を把握したうえで適切に壊さなければならないのだ。
力任せに壊しても、恐らく五割ぐらいの確率で魔道具の機能は消えて、神の加護の穴は塞がるだろう。
だが、残りの五割は予測不可能なことが起きかねない。
暴走し、短期的に穴が急激に広がる可能性もある。
他にも暴走の結果、神の加護のコアそのものを破壊する可能性すらある。
「これは複雑だなぁ」
「手を離せ!」
怒り狂ったハイロードをあしらいながら分析するのは面倒だ。
「お前は死んでおけ」
俺は左手にもった魔神王の剣でハイロードの首をはねる。
そして、さらに縦に斬り裂いた。
「……神罰が下るであろう」
「黙れ」
霧に変わろうとしたところで、ゲルベルガさまが鳴いてくれる。
ハイロードは、なすすべもなく灰へと変わっていった。
『助かった。ゲルベルガさま』
「ここぅ」
『眷属が灰になったわ!』
『それはなにより。こっちのハイロードが奴等の主だったんだろう』
眷属にしたヴァンパイアが死ねば、眷属は死ぬ。魅了された者の魅了も解ける。
恐らく先ほど部屋に閉じ込めた魅了された者たちも正気を取り戻しているに違いない。
後で確認しに行くべきだろう。
「さてと……」
ハイロードの邪魔もなくなったので、解析に集中できる。
と思ったのだが、
「……あっさり死におって」
「真祖さまの勅命すら満足に果たせぬ恥知らずが……」
床からヴァンパイア二匹が生えていくように出現した。
その二匹は、今まで魔法による探知にも全く反応していなかった。
まるでレイスが壁を通り抜けるときのように、床を通り抜けて出現したのだ。
そのヴァンパイアの肉体は半透明である。半分霧化しているようにも見えた。
ゲルベルガさまもそう判断したのだろう。
「コケッコッコオオオ」
高らかに鳴いてくれる。
だが、ヴァンパイア二匹が灰になることはなかった。
「ふん。神鶏か。我らには効かぬ」
「ここ?」
ゲルベルガさまが驚愕している。
『なにか、からくりがあるんだ。ヴァンパイアである以上、ゲルベルガさまの鳴き声が通用しない分けないからな』
「こぅ」
そして二匹のヴァンパイアは完全に出現しおえて、床の上に立つ。
今は完全に実体のある、ヴァンパイアハイロードにしか見えない。
『新種が現れたのね? 応援に向かうわ』
『大使は完全に縛り付けたでありますよ』
眷属が灰になった今、大使一人が、シアたちの相手になるはずがない。
『頼む。今は俺は解析に集中したいところなんだ』
『任せて!』
すぐにシアとセルリスが駆けつけてくれる。
そして、ハイロード二匹に飛びかかった。
「我はそこの魔導士を殺しに来たのだ」
「猿の小娘は引っ込んでいろ!」
ハイロードは魔法を放ち、シアとセルリスに攻撃を仕掛ける。
だが、その魔法を、シアたちは全てかわし斬り掛かった。
シアとセルリスの斬撃は鋭い。ハイロード二匹も剣を抜いて斬撃を防ぐ。
ハイロード二匹は、驚愕に目を見開いていた。
まさか年若いシアとセルリスがこれほど強いとは思わなかったのだろう。
「あんたたち程度、ロックさんが相手をするまでもないわ!」
「そうでありますよ。お前たちには小娘程度がお似合いであります」
「舐めやがって!」
ハイロードは攻撃を激しくするが、シアもセルリスも受け流し痛烈な攻撃を加えていく。
二匹のハイロードは徐々に徐々に追い詰められ、顔に焦りが浮かんでいた。