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023 師匠からの伝令

 オイゲンが来訪した次の日は、開発を終えた魔道具を作っていく。

 部品はあらかじめ余裕をもって作っていたので、組み立てるだけだ。


 夕方になる前は、十の魔道具を完成させることができた。


 それをハティと一緒に一品ずつ品質チェックをしていく。

 ハティが手伝ってくれたおかげで、品質チェックもすぐに終わる。


「ありがとう、ハティ。助かったよ」

「えへへー」


 作業を終えたころには、日が沈みかけていた。


「主さま! なんか大きな鳥が飛んでいるのじゃ!」

「む? こっちに真っすぐ飛んできているな」


 俺とハティは拠点に戻らず、飛んでくる鳥をじっと見る。


「ここで待つか」


 敵だった場合、中で迎え撃つより、外で返り討ちにした方がいい。

 広い場所のほうが、気兼ねなく魔法を扱えるからだ。


 そういう意味で、待つと言ったのだが、

「そうじゃな! 鳥はかわいいのじゃ」

 ハティは優しい目をしてそんなことをいう。


 お友達か何かだと考えていそうな口ぶりだ。


 ハティは、人も猫もかわいいと言っていた。

 それと同様に鳥も可愛いのかも知れない。


「……そうだな」


 鳥が殺気を飛ばしてきたとしても、襲いかかってくるまで何もしないようにしよう。

 そうじゃないと、動物虐待する人でなしだとハティに思われてしまいそうだ。


 そんな心配をしていると、大きな鳥は俺たちの前に着地した。


「……近くでみると、より大きく感じるな」


 その鳥は猛禽類、恐らくは鷲の一種だろう。

 翼を畳んだ状態で大型犬より一回り大きい。

 広げた翼の長さは、一枚あたり大人の身長ぐらいありそうだ。


「……魔獣の鳥かもしれないな」

「そうなのかやー」

「で、鳥。何か用があってきたのか?」

「ふぁあ」


 一声鳴くと、胴体の辺りをくちばしでまさぐる。

 羽毛に隠されていたが、ポシェットのようなものを身につけていたようだ。


 鳥はそのポシェットからくちばしで何かを取り出す。

「くぽぅ」

 それを俺に向かって差し出すように突き出してきた。


「む? それをくれるのか?」

「ふぁる」

 鳴き声の意味はわからないが、きっとくれるのだろう。


「そうか、ありがとう」

 それは握りこぶしより少し長くて細い筒状の容器のようだった。

 その筒を受け取って開封すると、中には丸められた紙が入っていた。


「かわいいのじゃ」

「ふぁふぁる!」


 俺が筒を調べている間、ハティは飛んでいって鳥の頭を撫でていた。

 ハティにとっては、人間を含めたいろんな動物が可愛いのだろう。

 撫でられた鳥もまんざらでもなさそうだ。


 そして、俺は紙を調べる。

「ふむ。手紙か?」


『親愛なるシュトライト


 君の偉大なる師匠だ。

 大切なことを伝え忘れていた。

 だから、我が愛鳥ファルコン号に伝令を頼むことにした。』



「師匠からの手紙かよ。というか、ファルコン号って、師匠は鳥を飼っていなかっただろ」

「ファルコン号というのかー。かわいいのじゃ」

「ふぁる」


『シュトライト君は、偉大なる師匠が鳥を飼っていることに驚いているに違いない。

 実は王都を離れ温泉に入りに行く途中、ファルコン号との感動的な出会いがあったのだが、それについては割愛しよう。



 シュトライト君のことだ。

 ファルコン号が近づいてくるのをぼーっと眺めていたのだろう。


 敵だったらどうするのだ。警戒をわすれるな。慢心が過ぎるぞ。

 わしぐらい強ければ、それでも良いがな。


 ちなみに、わしならば遙か彼方にファルコン号が見えたときから警戒を開始しているぞ。

 わしは心配だ。シュトライト君はこっそり遠くから、そうだな、徒歩で三十分ぐらい離れた位置から敵に見られていても気付かないのではないか?


 そして、この手紙が爆弾だったらどうするのだ。

 自分の作った爆弾が爆発しても自分なら防げるから大丈夫とでも思っているのか?

 まさか、自分の作れる爆弾より強い爆発力を持つものがこの世には存在しないとでも?


 慢心が過ぎるぞ。シュトライト君。わしのほうが強いということを忘れているのではないか?』


 師匠に手紙で説教されてしまった。


「別に自分が最強だとは思っているつもりはないが……」


 痛いところを突かれた。

 確かに慢心と言われても仕方がない所作ではあった。

 たまに師匠は、師匠っぽいことを言ってくる。


「主さまは最強なのじゃ! わらわが保証するのじゃ!」

「ふぁるふぁる」

「ありがとうな」


 ハティと、ハティに撫でられているファルコン号が慰めてくれる。

 だが、反省すべきときは、反省すべきなのだ。


 俺はしっかりと師匠の言葉を刻みつける。


 そして手紙の続きを読むことにした。


『さて、本題だ。

 今頃、シュトライト君は荒野の拠点に引きこもっているに違いない。

 それは構わぬ。好きに使えといったのわしじゃからな。


 だが、少し事情が変わった。

 怪しげな団体が色々うごめいているようだ。戦乱の気配もある。


 その荒野の拠点だが、使い終わったら、跡形もなく消し飛ばしておいてくれ。

 そのまま残しておけば、悪しき者に利用される恐れがあるのだ。

 わしが直接、魔法で防御すれば、そのような心配はいらないがな。


 シュトライト君には、わしと同じことをするのは難しかろう。

 わしの方が強くて凄いのは間違いのない事実で、仕方のないことなのだ。


 だから、きちんと、入念に消し飛ばしておいてくれ。頼んだぞ。


 あと、ファルコン号は長距離飛行により疲れているかも知れない。

 しばらく、泊めてやってくれないだろうか。

 餌は肉がよいのだが、乾燥パンでも構わない。



  君よりも強い君の偉大なる師匠、大賢者ケイ


 追伸、わしのほうが強いということをけして忘れないように』


 読み終わった後、俺は手紙を畳んで筒の中に戻した。


「師匠は相変わらずだな」


 自分のほうが強いとアピールすることも忘れないのも実に師匠らしい。

 恐らく若い俺が慢心しないように、ことあるごとに上がいるとアピールしてくれているのだろう。


 歪んではいるが、これも師匠の愛なのだ。


「ファルコン号。今日は泊まっていくといい」

「ふぁるふぁる」


 そして俺はハティとファルコン号と一緒に研究室に戻ったのだった。

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