皇太子の部屋を出た後、俺は辺境伯家の王都屋敷へと帰ることにする。
侍従の一人に先導されて、外へと向かう。
その途中、ハティが嬉しそうに羽をゆっくりとパタパタさせた。
「おいしかったのじゃ! 皇太子はいい奴なのじゃ!」
ハティは凄く上機嫌だ。完全に餌付けされている。
俺の従者であるハティが、皇太子に殿下もつけずに呼ぶのは良くない気もする。
だが、ハティは古竜の大王の娘。問題ないかもしれない。
「……おいしかったか。よかったな」
「よかったのじゃ〜」
王宮は広い。ちょっとした町と言ってもいいぐらいだ。
外に出るためにそれなりに歩く必要がある。
「あっ。兄上!」
「これは、ティル殿下。おはようございます」
ティル殿下に会ってしまった。
俺を慕ってくれるティル殿下はとても可愛い。
妹の婚約者であるティル殿下は、俺のことを兄上と呼んでくれるのだ。
「王都に帰ってこられたのですね!」
「はい。皇太子殿下にご挨拶した帰りです」
「そうだったのですね! ……その肩の上に乗っているのはなんでしょう?」
早速ティル殿下はハティに興味を持った。
ハティは可愛いので、興味を持つなというのが無理だろう。
俺は小声でささやく。
「……殿下。内密にお願いします」
「は、はい。内緒ですね!」
ティル殿下は真剣な表情でうなずく。
「皇太子殿下はご存じのことですが、実はこの者はハティ。私の従者にして
「え、古竜? え、すごいです!」
「ハティ、殿下に自己紹介しなさい」
「ハティじゃ! わらわは主さまの従者にして、古竜の大王の娘なのじゃ!」
「す、すごい! ティルです! よろしくお願いいたします!」
ハティの紹介を済ませると、ティル殿下のテンションは高くなった。
「ぜひ、お話をお聞かせください!」
「私で良ければ、よろこんで」
基本的に皇族に誘われて、断るという選択肢はない。
ティル殿下の部屋でお話をする。
ハティを抱っこしたティル殿下に色々と聞かれた。
荒野での生活とか、魔道具について、ティル殿下は興味があるらしかった。
俺は聞かれたことに丁寧に説明をしていった。
ハティはハティで、ティル殿下に撫でられながらお菓子を食べさせてもらっている。
とても嬉しそうだ。
そして、一時間ほどで、ティル殿下の次の予定の時間が来て退室する。
退室する前に、結界発生装置を進呈しておいた。
「ありがとうございます! 凄く嬉しいです!」
ティル殿下はとても喜んでくれた。
作ったばかりの結界発生装置が、皇族の方々に喜ばれて嬉しい限りだ。
その後、俺は辺境伯家の屋敷に戻る。
辺境伯家の屋敷では、姉ビルギットが歓迎してくれた。
姉にも結界発生装置をプレゼントして、実家にも送ってもらうことにしたのだった。