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031 ティル皇子

 皇太子の部屋を出た後、俺は辺境伯家の王都屋敷へと帰ることにする。

 侍従の一人に先導されて、外へと向かう。


 その途中、ハティが嬉しそうに羽をゆっくりとパタパタさせた。


「おいしかったのじゃ! 皇太子はいい奴なのじゃ!」


 ハティは凄く上機嫌だ。完全に餌付けされている。

 俺の従者であるハティが、皇太子に殿下もつけずに呼ぶのは良くない気もする。

 だが、ハティは古竜の大王の娘。問題ないかもしれない。


「……おいしかったか。よかったな」

「よかったのじゃ〜」


 王宮は広い。ちょっとした町と言ってもいいぐらいだ。

 外に出るためにそれなりに歩く必要がある。


「あっ。兄上!」

「これは、ティル殿下。おはようございます」


 ティル殿下に会ってしまった。

 俺を慕ってくれるティル殿下はとても可愛い。

 妹の婚約者であるティル殿下は、俺のことを兄上と呼んでくれるのだ。


「王都に帰ってこられたのですね!」

「はい。皇太子殿下にご挨拶した帰りです」

「そうだったのですね! ……その肩の上に乗っているのはなんでしょう?」


 早速ティル殿下はハティに興味を持った。

 ハティは可愛いので、興味を持つなというのが無理だろう。


 俺は小声でささやく。

「……殿下。内密にお願いします」

「は、はい。内緒ですね!」


 ティル殿下は真剣な表情でうなずく。


「皇太子殿下はご存じのことですが、実はこの者はハティ。私の従者にして古竜エンシェント・ドラゴンの幼竜です」

「え、古竜? え、すごいです!」

「ハティ、殿下に自己紹介しなさい」

「ハティじゃ! わらわは主さまの従者にして、古竜の大王の娘なのじゃ!」

「す、すごい! ティルです! よろしくお願いいたします!」


 ハティの紹介を済ませると、ティル殿下のテンションは高くなった。


「ぜひ、お話をお聞かせください!」

「私で良ければ、よろこんで」


 基本的に皇族に誘われて、断るという選択肢はない。


 ティル殿下の部屋でお話をする。

 ハティを抱っこしたティル殿下に色々と聞かれた。

 荒野での生活とか、魔道具について、ティル殿下は興味があるらしかった。


 俺は聞かれたことに丁寧に説明をしていった。

 ハティはハティで、ティル殿下に撫でられながらお菓子を食べさせてもらっている。

 とても嬉しそうだ。


 そして、一時間ほどで、ティル殿下の次の予定の時間が来て退室する。

 退室する前に、結界発生装置を進呈しておいた。


「ありがとうございます! 凄く嬉しいです!」


 ティル殿下はとても喜んでくれた。

 作ったばかりの結界発生装置が、皇族の方々に喜ばれて嬉しい限りだ。


 その後、俺は辺境伯家の屋敷に戻る。

 辺境伯家の屋敷では、姉ビルギットが歓迎してくれた。

 姉にも結界発生装置をプレゼントして、実家にも送ってもらうことにしたのだった。

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