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055 帰ってきた魔導具の調査をはじめよう

 皇太子から届けられたのは、二人ぐらい人が入れそうな大きめの木箱だった。

 離れに荷物を運び込むと、使用人たちは帰って行った。


 ハティがわくわくした様子で言う。


「お菓子が入っているのに違いないのじゃ!」

「その期待はしないほうがいいぞ」

「そうなのかや? きっとお菓子も入っているに違いないと思うのじゃ」


 ハティは希望を捨てないらしい。

 目を輝かせながら、箱を開けようとする。


「ハティ、ちょっと待て」

「どうしたのかや?」

「開ける前に調べないと駄目だからな」


 贈り物は、全て調べるのが基本だ。

 贈り物に爆弾を仕込まれていて、屋敷ごと爆殺されるという事件だってある。


 上級貴族の屋敷には、最低一人は贈り物を調べるためにそれなりの腕前の魔導師がいるものだ。

 勿論それ以外にも専属魔導師の仕事はあるが、贈り物を調べることが重要な仕事なのは間違いない。


「皇太子はいいやつなのじゃ。何も仕込まないと思うのじゃが……」

「もちろん皇太子殿下を疑っているわけではないよ。皇太子殿下の名を騙って送りつけられる場合もあるからな」

「そうなのじゃな。恐いのじゃ」


 ハティは尻尾をプルプルさせている。

 一方、ロッテは興味深そうに俺の作業を見守っていた。


「ロッテは、荷物を調べる方法をどこかで習ったか?」

「いえ、どこでも教えて貰ってないです」

「そうか。まあそのうち賢者の学院で教わるはずだが、ここで教えておこう」

「ありがとうございます!」


 ロッテに調査方法を、教えつつ調べさせながら、自分も調べる。


「ロッテは筋がいいな。もう調査技術を身につけたか」

「あ、ありがとうございます」


 そして、無事に箱に危険物や怪しい物がないことを確認しおわった。


「もうあけてもいいのじゃな?」

「いいぞ」

「やったのじゃ!」


 ハティは大喜びで箱を開ける。


「お菓子があったのじゃ! さすが皇太子じゃ」


 ハティはお菓子の箱を見つけて大喜びしている。

 皇太子もハティに気を遣ってくれたようだ。


 お菓子はハティに任せて、俺は魔道具関連の品を確認していく。

 学院をクビになったときに奪われた研究ノートや部品類がほとんどだ。

 それは今必要ないので、整理しながら空いた机の上に置いておく。


「……これは前学院長が身につけていた魔道具だった物だな」


 それは大気中の魔力を集める魔道具の欠片だった。


「完全に壊れちゃっていますね」

「これを送ってくるということは、調べて欲しいのかもな」


 近衛魔導騎士団でも調べているはずだが、製作者である俺が詳しく調べたらわかることもあるかも知れない。

 どのような改造を加えられたかがわかれば、敵の技術水準を推測できる可能性もある。


「それにこっちは……犬の散歩用魔道具を無理矢理改造されたものだな」


 こちらは俺が丁寧に壊したので、原型は残っている。

 ほとんどの部品も回路も無事だ。


「こっちの方が調べ甲斐がありそうだな」


 開発途中だったものを、前魔道具学部長が完成させて改造したのだ。

 その改造を前魔道具学部長一人でするのは無理だろう。

 調べたら何かがわかるかも知れない。


「主さま。遠くと話す魔道具の開発を後回しにして、これを調べるのかや?」

「……そうだな。遠くと連絡する魔道具の開発は行き詰まっているし、それもいいかも」

「お師さまでも行き詰まることがあるのですね」

「もちろんだ。そして行き詰まったときは別のことをやるのが良かったりもする」

「はい! 肝に銘じます!」


 ロッテは真剣な表情で、メモを取っていた。


「いや、そこまで凄いことは言っていないから、メモは取らなくていいよ」

「はい!」


 メモを取らなくてよいという言葉までメモをとりそうな勢いである。

 元々、ロッテは教えたことを細かくメモを取るタイプの弟子だった。

 だが、最近はメモを取る量が増えた気がする。

 勉強熱心でいいことだとは思う。



「ロッテ、今制作中の魔道具はなかったな?」

「はい。パン焼き魔道具を完成させたばかりなので!」

「それなら、調査を手伝ってくれ」

「はい!」


 ロッテはとても元気に返事をした。


「お師さまの作業を手伝えるなんて、とてもうれしいです」

「そんな大げさな」

「いえ! 私にとっては凄いことです」


 そこまで言って、ロッテは少し不安そうな表情を浮かべた。


「でも、お師さま。私なんかが手伝ったら、お邪魔ではないでしょうか?」

「難しい仕事を任せるつもりはないぞ?」

「それはわかっていますが……」


 まだロッテは自信がないようだ。

 師匠は俺を調子に乗らせないように色々していた。

 だが、俺はロッテに自信を与えてやるべきなのかも知れない。


「ロッテはお湯を作る魔道具とパン焼き魔道具を一人で完成させられたからな」

「はい」

「もはや魔道具師を名乗ってもいい」

「……ありがとうございます」


 ロッテは嬉しそうに頬を赤くし、そんなロッテの頭をハティが撫でに行った。


 そして、俺はロッテを助手として、犬の散歩用魔道具の調査を始める。


「……随分と改造されてるな。そして改造技術が凄いな」

「どのくらい凄いのじゃ?」

「魔道具学部長よりも、ずっと凄い」

「へぇ〜?」


 ハティはピンと来ていないようだ。

 だが、仮にも賢者の学院の魔道具学部長にまでなった男だ。

 一流の魔道具技術と理論を身につけているのは間違いない。


「…………すごいですね」

「ああ、かなり凄い」


 ロッテには、その技術の高さがわかったようだ。


 俺とロッテは調査を続ける。

 バラバラにして、どこをどう改造されているのか。

 どんな部品を何に使っているのか。

 詳しく調べていった。


「これ……。師匠の理論体系だな」


 改造部分を調べれば調べるほど、師匠であるケイ博士の魔導理論に基づいていることがわかっていった。

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