俺は皇太子からガラテア帝国と光の騎士団がつながっているらしいと言うことは聞いた。
そして、光の騎士団と前学院長たちがつながっていたことも。
だが、皇太子はそこにゲラルド商会がガラテア帝国や光の騎士団とつながっているとは言っていなかった。
「それはしかるべき機関は知っている情報なのか?」
「もちろんです。私どもはしかるべき機関に情報を提供し、その代わりに別の情報を頂いたりしておりますから」
商人には独自の情報網がある。
国の機関とも連携することもあるのだろう。
この場合の、しかるべき機関とは近衛魔導騎士団になる。
近衛魔導騎士団が知っているならば、皇太子も知っているはずだ。
俺に言わなかったのは言う必要がないと思ったか、裏取りの最中だったからだろう。
「ヴェルナー卿にはお世話になっておりますし、先日襲われたとお聞きしましてお耳に入れておこうと思いまして」
「ありがとう。気をつけるよ」
「はい。なにごともないことを祈っております」
心配しているオイゲンを見て、俺はあることを思い出した。
「そうだ。オイゲンさん。ほどよい長さの剣はないだろうか?」
「剣、でございますか?」
「ああ、先日戦ったときに、武器があった方が便利だと痛感したんだ」
ロッテの剣を借りて、敵の剣を防いだぐらいだ。
「そうですね、ではこちらにお越しください」
そして、俺はオイゲン商会の売っている短剣の中から、適度な長さのものを選んで購入したのだった。
その後、俺とロッテ、ハティは帰宅の途についた。
ロッテの馬車に乗って、辺境伯家へと向かうのだ。
馬車の中から、外を見ると、太陽が大分傾いていた。
「そろそろ夕方だから、ロッテは王宮に帰るべきかもしれないが……」
「いえ! 今日の勉強が終わっておりませんから! いざとなれば泊まっていきます!」
「そうか」
「あの、…………ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑ではないぞ」
「良かったです」
「ロッテはもっと泊まっていくといいのじゃ」
そう言ってハティがロッテの頭を撫でる。
本当にハティは頭を撫でるのが好きらしい。
ロッテがハティに頭を撫でられながら言う。
「あの、お師さま」
「ん?」
「お師さまが魔道具師の方々にみせたサンプルの中に、私の作ったパン焼き魔道具がありましたけど……」
「まずかったか?」
「いえ、まずくはないです。でも、私の作ったクオリティの低い魔道具を混ぜても良かったのでしょうか?」
サンプルは手本ともされる。
だからロッテは心配なのだろう。
「オイゲン商会の魔道具師たちが気付かなかったレベルだ。何の問題もない」
「……ですが」
それでもロッテはあまり納得できていないようだ。
「俺がチェックして、問題ないと判断しているんだ」
「はい」
「恐らく、この中にロッテの作った物があるから当てて見ろと言えば、多分当てられる。だが、その程度だ」
意識しなければわからないレベルだ。
「そのぐらいロッテの作った魔道具の水準は…………」
そこまで言って、少し迷った。
褒めるべきか褒めざるべきか。
偉大なる我が師匠を見習うならば、あまり褒めるべきではないのだろう。
師匠としては、弟子が調子に乗らないように手綱を握らなければならないのだ。
「まあ、ロッテの作った魔道具の水準は高いと言ってよいだろう。少しだけ自信を持っていいぞ」
ロッテがあまり調子に乗らないようにベタ褒めしないようにした。
師匠を見習ってのことである。
だが、本当に優秀だと思ったので軽くだけ褒めておく。
ちなみに師匠はあまり褒めないタイプだった。
俺が何かする度、「ふーむ、出来たんだな。ちなみにわしはこんなことも出来る」とアピールしてきたものだ。
おかげで、あまり調子に乗らずに済んだというのは間違いなくある気がする。
それに「こんなことが出来る」と見せられた技術が本当に凄くて、向学心が刺激されたとも思う。
軽くしか褒めていないというのに、ロッテは嬉しそうに目を輝かせた。
「お師さま。本当ですか?」
「お、おう。嘘はついていないぞ」
「ありがとうございます! ……えへへ」
本当に嬉しそうに、頬を赤くして喜んでいた。
「ロッテは頑張り屋さんなのじゃ〜」
ハティがいつものように頭を撫でに行く。
ハティは本当にわずかな隙さえ見逃さずに頭を撫でに行くようだ。
辺境伯家の屋敷に到着して、俺達は馬車から降りる。
護衛は母屋に向かうようだ。
俺は知らなかったが、どうやら、ロッテが来ている間は母屋に近衛魔導騎士が待機しているらしい。
夜間担当護衛との交代も母屋で行なうようである。
そして、護衛と別れて、離れに向かう俺たちのところに執事が来る。
「ヴェルナーさま。荷物が届いております」
「荷物? どんな?」
「中身はわかりませんが、皇太子殿下からです」
「…………ああ、魔道具関連道具か。送ってくださるとおっしゃられていたな」
学院長襲撃事件の捜査のために色々なものが押収されていた。
俺が学院をクビになったときに取り上げられた研究ノートや試作品などが中心だ。
「荷物は離れへ運びましょうか?」
「あ、頼む」
「かしこまりました」
俺たちが離れの中に入るのと、ほぼ同時に皇太子からの荷物が運び込まれたのだった。