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057 犬の散歩用魔導具タロ

 犬の散歩用魔道具の形状は、どこかコガネムシっぽい感じだ。

 甲虫のような足が六本あり、機動性も高い。

 一般的な犬の全力の走りについて行けるぐらいの速さは出せる。

 段差も大型犬が飛び越えられる高さならば、ついて行けるように作った。


 大きさ自体は、俺が両手でギリギリ抱えられるぐらいの大きさだ。

 高さは股下程度まである。


「これが犬の散歩用魔道具なのですね。全然形が変わりましたね」

「ああ、暗殺者にするために、めちゃくちゃ改造されていたからな」


 首を切るために、首に手が届くように二足歩行にしてあった。

 加えて、水を出す機能を高圧にして、水ではなく油を噴出すようにしてあったのだ。


「全くの別物だったからな。……一から作ればいい物を」


 俺の魔道具をベースにしたのは嫌がらせなのかもしれない。


「主さま。動かして欲しいのじゃ!」

「ああ、いいぞ」


 俺は魔道具を起動させる。


「ピピ」


 正しく起動音が鳴った。


「よし、無事起動したな。次は名前を付けるんだが……。タロにしよう」


 俺は魔道具に手を触れて、名前を設定した。


「ピピピ」

「よし、名前も無事認識したな。次は動作チェックだが……」


 この部屋に犬は居ない。


「ハティが犬の代わりするかや?」

「いや、その必要はないぞ。犬の予測できない動きをハティが再現するのは難しいし」

「そっかぁ」

「辺境伯家の犬の散歩をやらせてみるか」

「それがいいのじゃ!」


 辺境伯家には五頭の大きな魔獣の犬がいるのだ。

 体高が成人男性の胸ぐらいまである大きい犬である。


 俺たちは研究室の外に出て、犬小屋へと向かう。

 犬小屋と言っても、小さなものではない。小さめの平屋の家ぐらいの大きさだ。


 俺が近づいていくることに気付いた犬たちが犬小屋から出てきてかけてくる。


「はっはっはっはっは」

 五頭とも嬉しそうに尻尾を振って、俺に頭を撫でろとアピールしてきた。


「可愛らしい犬ですね」

「可愛いのじゃ」

 ロッテとハティにも撫でられて、犬はとても嬉しそうでに尻尾を振る。


「本当に可愛らしいんだが、人懐こすぎてな。番犬には不適なんだ」

「そういえば、この前襲撃があったとき、吠えもしなかったのじゃ」

「聞いた話だと、犬小屋で尻尾をまたに挟んでプルプルしていたらしい」

「人なつこいと言うより、臆病なのかや?」

「そうかもしれないな」

「もっとしっかりするのじゃ!」

「わふぅ」


 ハティもぐっすり眠っていて全く気付かなかったというのに偉そうに言った。

 俺は一頭の犬の首輪にひもを付ける。


「さて、タロこっちに来なさい」

「ピピピ」


 後方から魔道具のタロがかけてくる。

 一斉に犬たちが逃げ出した。犬小屋の中へと駆け込んでいく。


 ひもを付けられた一頭だけは、俺がひもを掴んでいるから逃げられない。

 全力でバックして首輪から頭を抜こうとして、顔がくちゃくちゃになっていた。


「……きゃうきゃう」

「落ち着け」

「……ひーんひーん」


 犬は尻尾をまたに挟んで、怯えていた。

 大型の魔獣の犬とは思えない怯え方だ。


「タロ、もどって」

「ピピ」


 かわいそうになったのでタロを後方に下がらせた。


「タロは恐くないぞ?」

「…………」


 タロが見えなくなったというのに、まだブルブルと震えていた。


「辺境伯家の番犬は、ちょっと情けなさ過ぎるな」

「きゅーん」 


 もしかしたら姉ビルギッドの愛玩犬の可能性すらある。

 俺がひもを外すと、犬は大急ぎで犬小屋に駆け込んでいった。


「犬が怯える可能性を考えてなかった」

「そうですね」

「まあ、仕方がない」


 俺はタロを連れて研究所に戻った。


「タロ。それじゃあ、この部屋の掃除を頼む」

「ピピピ」

「机の上はいじらなくていい」

「ピピピ」


 タロはカシャカシャ動いて、掃除を開始した。


「すごい。掃除も出来るのですね」

「元々、犬の糞を掃除する機能が付いているからな。当然部屋の掃除も出来るぞ」

「なるほど、機能の応用と言うことですね」


 タロはちょこちょこ動いて掃除を始めた。


「掃除してもらって、どのくらいの性能があるか、後で確認しよう」

「楽しみです」

「タロは可愛いのじゃ。犬たちがどうして怯えたのかわからないのじゃ」

「ハティは何でも可愛いというんだな」

「でも、ちょこちょこ動いて、可愛くないかや?」

「……確かに私もそう思います」


 ロッテもハティに同意して、うんうんと頷いていた。


「主さまは可愛いと思わないのかや?」

「まあ、そういわれたら、確かに」

「であろー」


 カシャカシャ動いて一生懸命掃除をしているタロを見て和んでいると、研究所に誰かが近づいてくることに気がついた。


「む? 誰だろうか」


 俺は玄関に向かって、外を窺う。

 すると使用人の一人が血相を変えてドアを叩いていた。


「……何事だ?」

 俺が扉を開けると、慌てた様子の使用人が

「ヴェルナー様、すぐにお越しください」

「なにがあった?」

「子爵閣下が何者かに襲われました!」

「姉さんが?」


 この屋敷で子爵閣下と呼ばれるのは、俺の姉であるローム子爵ビルギッドだけである。


「すぐにおいでください」

 そう言われて、俺は、ロッテとタロを研究所に残して使用人に急いでついて行った。

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