俺は俺のわかることを、全て細かく報告した。
近衛魔導騎士団による、敵の男たちと部屋の調査も進む。
「ヴェルナー卿。その地上の酒場の捜査もしたいのですが……」
「ああ、そうか。まだ結界を張ったままだったな」
しばらく待ったら、さらに近衛魔導騎士団の応援が到着した。
地上の結界も解いて、捜査が始まる。
特に敵の使っていた魔道具について、俺は丁寧に時間をかけて調べていく。
コラリーが付けていた魔道具は二つ。
行動を支配し、魔人へと変質させる頭につけられていた魔道具。
そして、胸に装着された、音声での命令を受け取り、頭の魔道具へと送る魔道具だ。
胸につけられた魔道具に爆発する機能もあった。
音声命令を受け取る魔道具は、アジトの男も持っていた。
そちらは爆発機能がない点以外、コラリーの胸についていたものと同じだ。
俺は調べてわかったことを全て隊長に伝えていった。
「新しい魔道具はその二種かな。他は目新しいものではない」
「ありがとうございます。我らの魔道具師ではなかなかわからないことも多いので非常に助かります」
「お役に立てたのならよかったよ」
近衛魔導騎士団の魔道具師も非常に優秀だが、解析は難しいのだ。
「それにしても、細かな命令を与えられるというのは、恐ろしいですね」
「ああ、悪用すれば暗殺の類が簡単になる」
「至急、何らかの対策を取らなければならないでしょう。その際は是非ヴェルナー卿にも……」
「勿論、協力させてもらう」
「ありがとうございます」
それから、隊長はコラリーにも事情を尋ねる。
コラリーは、ゆっくりと、だが、聞かれたことには素直に答えていた。
一通り聞いた後、隊長はコラリーに言う。
「コラリーさん。長くなりそうなので、続きは暖かい場所に移動していただいてもよろしいですか?」
「……うん。罪を償う覚悟はできている」
「いえ、まずは事情を聞かせていただくだけですので」
「……わかった」
コラリーは少し不安そうだ。
「くれぐれも丁重に扱ってほしい」
「わかっております」
コラリーは近衛魔導騎士団の馬車で王宮へと連れていかれた。
そして、俺は送迎を断って、徒歩で自宅へと戻る。
帰る途中、服の中からハティが尋ねてくる。
「主さま、どうして送ってもらわなかったのじゃ?」
「近衛魔導騎士の馬車で、辺境伯家の屋敷に乗り付けたら、ひと騒動おこるだろう」
「たしかにそうかもしれないのじゃ」
「こっそり研究所に帰って、すぐに眠りたいからな」
「そっかー」
拠点を潰している間に、雪は激しくなっていた。
完全に猛吹雪である。
この天候に加え、夜ということもあり、人ひとり歩いていない。
「静かで、気持ちがいいのじゃ」
「寒くないか?」
「主さまが一緒だから、寒くないのじゃ!」
「そうか」
たまには二人で夜道を歩くのもいいものだ。
吹雪は寒いが、ハティがいるからお腹は暖かかった。
天候は最悪だが気分は良い。
「主さま。聞いていいかや?」
ハティが俺の服の間から顔だけだしていう。
「どうした?」
「復讐は不毛だとかむなしいとか、色々聞くのじゃが……実際にやってみてどうだったかや?」
姉を襲撃した組織の拠点を壊滅させたのだ。
復讐以外の意味ももちろんあるが、復讐であるのは間違いないだろう。
「……さほど悪い気分ではないな」
「そうなのかや。ならよかったのじゃ」
朗らかにハティは言う。
身内に手を出した組織には、痛い目を見てもらわねばならない。
今後、俺の身内に手を出す奴は、色々と覚悟しないといけなくなるだろう。
それが抑止力ともなるのだ。
「これから、平和になったらいいのじゃ」
「そうだな」
ハティは上を向く。
そして口を開けて降りしきる雪をパクパクと食べようとしていた。
「お腹壊すぞ」
「大丈夫なのじゃ! ハティはお腹も強いのじゃ!」
「それならいいが……」
そんなどうでもいいことを話しながら、ゆっくりと歩いて行った。
とても、晴れやかで、のんびりとした気分になる。
一方、天候は俺の気分とは真逆に、ますます荒れていく。
雪も風も激しくなっていた。
——ゴウォォォォォ
「!! 主さま。あれって——」
「そうだな。竜だな。古竜ではなかろうが」
吹雪いている風の音に紛れて竜の咆哮が聞こえてきた。
まだ遠い。
竜の声を聞いたことのある俺と、竜であるハティだから気づけたのだ。
普通の者は気づくまい。
「ただごとじゃないのじゃ。王都に竜が近づくなんて」
「ハティ、竜の元に向かうぞ。大きくなって乗せてくれ」
「わかったのじゃ!」
ハティは俺の服の中から出ると、俺を小さな両手で掴んだ。
そして、俺を掴んだまま、小さい姿で上昇していき、徐々に大きくなる。
王都の町並みを壊さないようにというハティの配慮だ。
「小さい姿でも俺を持ち上げられるとは、さすがだな」
「ハティにとっては、たやすきことなのじゃ!」
そう元気に言うと、俺を掴んだままハティは空を飛んでいく。
吹雪の中を高速で飛んでいるのだ。体感風速は凄まじい。
体温が一気に奪われかねない。
俺は死なないために魔法を使って向かい風を防いだ。