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079 巨大な魔導具

 ハティは高速機動を続けながら言う。


「主さま。その哀れな竜を助けられないかや?」

「…………難しい」

「主さまでも、難しいのかや?」

「ああ」


 ハティの場合、魔道具を頭に付けられていただけだった、

 だから、暴れるハティを押さえつけ、魔道具を壊せば良かった。


「この竜の場合、全身が覆われているんだ」

「壊したらだめなのかや?」

「そうだな。俺は、この悪趣味な石の魔道具を作り出したのは光の騎士団、いやガラテア帝国だと思っている」

「それにはハティも同意なのじゃ」


 これほど高度な魔道具技術を扱えるのは、ガラテア帝国ぐらいだろう。

 だが、さすがにガラテア帝国の機関が皇国の中で破壊工作するわけにもいかない。


 それはもう戦争行為だ。

 実際に行動を移す前に、帝国国内で反対派を説得したり色々する必要があるだろう。

 そうなれば、皇国の諜報部門に気取られる可能性も高くなる。


 ならば、ガラテア帝国とは関係のない機関、つまり光の騎士団に技術提供だけして暴れさせればいい。

 ガラテア帝国としても、ばれてもしらを切り通せばいいのだ。

 皇国は、しらを切っても許すわけがない。

 だが、帝国がしらを切る対象は、自国民と有力貴族に対してである。


 そして、光の騎士団は魔道具の技術力に乏しい。

 ガラテア帝国の技術は喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 ガラテア帝国、光の騎士団、双方にとって都合が良かったのだ。


「もし、これが光の騎士団の手によって運用されているならば……」

「あ! コラリーに付けられていた奴みたいに、無理に壊したら中の竜を殺す仕掛けが付いているかもってことかや?」

「その通りだ」


 コラリーに付けられた魔道具には、壊そうとしたり外そうとしたら、針が飛び出て殺される仕掛けが施されていた。

 だが、むき出しだったので、上手に外すことが出来たのだ。


「これは外殻が分厚すぎる上に巨大すぎるからな。分析するのが難しい」

「どうすればいいのじゃ? 壊せないのじゃ」


 もちろん、多少壊した程度では発動するまい。

 この石の魔物が王都に近づけば、近衛魔導騎士団が攻撃を仕掛けるはずだ。

 それは敵も当然わかっている。

 多少の損耗で、自壊したりはしないだろう。

 だが行動不能なぐらい壊したら、中の竜を殺す仕掛けが発動してもおかしくない。


 そこまで考えて、俺は最悪の事態に思い至る。


「……ある程度壊れたら、爆発する可能性もあるな」

「ば、爆発? そういえば、コラリーも爆弾を付けられていたのじゃ」

「ああ、このまま王都に近づけば、近衛魔導騎士が総動員されるだろう?」

「そこで大爆発かや? 近衛魔導騎士団を全滅させるために?」

「全滅しなくても、大きな被害がでるだろうな」


 巨大な分、爆発の威力を高めることも出来るだろう。

 近衛魔導騎士団を壊滅させることが出来れば、皇国の戦力は大きく減損する。


 いや、爆弾の威力によっては、王都にも大きな被害が出るかも知れない。

 そうなれば、皇国の行政自体が混乱する。


「爆発と同時に、宣戦布告でもするつもりか?」

「そこまでするかや? ガラテア帝国にとっても、皇国は強敵なのではないのかや?」

「そのはずなんだがなぁ」


 帝国内部で何かあったのかもしれない。


「まあ、難しいことは皇太子殿下にお任せしておこう。あと父上にな」


 俺の父、シュトライト辺境伯は帝国との国境を預かる大貴族。

 色々調べたり、色々準備したり、とにかく色々やっているはずだ。



「今は俺に出来ることをしよう。ハティ。とにかく止めるぞ。王都に近づかれること自体が危険すぎる」

「わかったのじゃ! でもどうやって止めるのじゃ?」

「そうだな。あれは魔道具だ。直接触れて調べて見よう」

「ほ、ほんきかや? あれはさすがに巨大すぎるのじゃ」

「だが、魔道具だ。ならなんとかなる。あいつの上を飛んでくれ。飛び移る」

「えっ? んん、ぐう! わかったのじゃ! ハティは、主さまを信じるのじゃ」


 ためらいながら、呻いたあと、ハティは俺を信じることにしてくれたようだ。


「ありがとう」

「ここでは絶対死なないと約束して欲しいのじゃ」

「約束しよう」

「信じたのじゃ!」

「ハティは周囲に誰かが隠れていないか探ってくれ。隠れながらこちらを窺っている敵がいる可能性が高い」

「わかったのじゃ!」

「吹雪いているから、臭いを探るのは大変だろうが……。潜んでいる敵はハティに任せる」

「任せるのじゃ!」


 俺は、力強く返事をしてくれたハティの身体をトントンと叩く。

 そして、ハティが巨大魔道具の上を通過する際に、タイミングを合わせて飛び降りた。

 吹雪の中、慣性に従って斜めに巨大魔道具に向かって俺は飛ぶ。


 そんな俺目掛けて巨大魔道具が、魔力の奔流を撃ちこんでくる。


「ちぃ」


 俺は左手を魔法障壁で覆って、魔力の奔流を防ぐ。

 俺の展開した魔法障壁によって、撃ち込まれた魔力は拡散されて後方に飛んでいった。

 攻撃を凌いで、俺は巨大魔道具に取り付いた。

 取り付いた場所は、胴体部分、魔力の奔流を撃ち出す場所のやや下である。


 ——GUOOOOOOOO!


 巨大な魔道具は咆哮して、胴体にしがみついた俺目掛けて、両腕を振るって攻撃を開始する。

 同時に巨大魔道具から離れたところから、魔法の矢が飛んできた。

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