やはり、巨大魔道具の近くに、潜んでいた敵がいたらしい。
「ハティに任せた」
ハティには聞こえていないだろう大きさの声でつぶやくと結界発生装置を発動させる。
敵の放った魔法の矢は結界にあたって消える。
そして、巨大魔道具の腕も結界にぶつかって止まった。
「これでよしと」
結界発生装置は、建物ごと覆う大きな結界を張ることができる。
巨大魔道具とはいえ、全体を覆うことも可能だ。
だから、ひとまず大きな結界を発生させて、巨大魔道具を丸ごと大きく包んでおく。
結界で包んだことで、巨大魔道具はこれ以上王都に向けて進むことも出来なくなった。
それに近くにいる敵がもし自爆命令を出しても、大丈夫だろう。
同時に、俺はもう一つ結界発生装置を発動させている。
内側に展開した結界は、俺と魔力の奔流の発射口だけを覆ったのだ。
巨大魔道具は外殻が分厚い。
だが、魔力の奔流を放つ機構があるここは外殻に覆われていない。
内側に展開した結界に守られる形になって、腕による攻撃を気にせず解析に集中できる。
「GOOOOAAAAA……」
悲しそうで苦しそうな咆哮が、魔道具の中から直接響いてきた。
かなり大きな声だ。
それと同時に魔力の奔流が発射口から撃ち出される。
「少し待っていろ」
至近距離から打ち出される魔力の奔流の威力は高い。
それを俺は左手に展開させた障壁で逸らした。
そして、魔力の奔流がおさまると、その発射口から解析していく。
「……これは、……なかなか」
わかっていたことだが、複雑な構造の魔道具だ。
ガラテア帝国の魔道具技術も馬鹿にできない。
「やはり、この魔道具の根幹にある理論体系ケイ先生の理論だな」
大賢者ケイの弟子の弟子あたりがガラテア帝国にいる可能性は高くなった。
師匠の弟子の弟子。つまり俺の甥弟子か、姪弟子か。
なんにせよ、そいつは優秀な魔道具師らしい。
「優秀でも、竜をこんなめに合わせる奴のことは、認めたくはないよな」
ハティやコラリーを操る魔道具も好きではない。
それに竜を魔道具のコアにするのも好きではない。
——キイイイイイイン
再び魔力の奔流が撃ち出される。
撃ち出される魔力量が多いと言うのに間隔が短い。
「どういう仕組みなんだよ。魔力が足りなくならないのか?」
俺は独り言をつぶやきながら、解析を進めていく。
解析をはじめてすぐに爆弾がつけられていることに気付く。
「……やっぱりか」
想定より高威力の爆弾だった。
近衛魔導騎士団を全滅させるには充分だろう。
俺はまず爆弾から解除していく。
解除途中にも魔力の奔流が撃ちだされる。
それを逸らしながら爆弾の無力化を進めていった。
「これで良しと。次は……」
魔力の奔流を止めたい。
逸らしながら解析するのは面倒だからだ。
さらに解析を進めて、魔力の奔流を撃ちだす構造を把握する。
「これは俺の作った魔道具の構造をそのまま使ってるな」
魔力を蓄積し凝集する機能を持つ魔道具。
元々は魔力が枯渇する病を治療するための医療用魔道具だ。
そして、前学院長が襲撃してきた際に使っていた魔道具でもある。
それを巨大にして威力を高めたものだ。
「魔力の奔流を撃ちだす頻度が高いと思ったが……」
大気中の魔力や精霊力をかき集めて撃ちだしていたようだ。
「俺の魔道具を悪用するのは、まさか嫌味のつもりか?」
少しだけ腹立たしくなってくる。
だが、基底にあるのは自分の作った魔道具だ。
どんな理論でどんな構造かも、手に取るようにわかる。
「これで良しと」
あっさりと、魔力の奔流を撃ちだす機能だけを破壊した。
爆弾機能を破壊し、遠距離攻撃機能を破壊した。
次に壊すべきは石でできた外殻だろう。
外殻もただ石が付いているわけではない。
魔力回路が張り巡らされており、強度を高め、簡単に破壊できないようになっていた。
つまり外殻自体が魔道具なのだ。
当然、その魔力回路は、外殻の内側、奥に張り巡らされている。
魔力回路を壊すには、魔力の奔流の発射口から内部へ魔力を流し、適切に解体しなければならない。
「外殻の魔力回路を壊すこと自体はそう難しくないな」
単純な回路だ。
単純だと言うことは、魔道具としての品質が低いことを意味しない。
同じ用途を実現しつているならば、単純な方が品質は上である。
それが魔道具というものだ。
「これで良しと。おおっと」
魔力回路を破壊した途端、石で出来た外殻がガラガラと大きな音をたてて崩れていく。
外殻にしがみついていた俺も一緒に落ちるところだ。
だが、今は魔力の奔流の発射口を中心として展開した結界のおかげで、落ちずに済んだ。
外殻が落ちると、魔道具の内部が見える。
外殻の中には二足歩行の金属で作られた骨格があった。
その骨格は人の骨格を模しているようだった。
だが、首はなく、肋骨の中に竜がいる。
「やっと会えたな」
「GUOOOOOOOO……」
竜は悲しそうに苦しそうに鳴く。
「いま、助けてやる」
ついそう言ってしまった。
竜は俺が考えていたよりもはるかに小さく、幼く見えたからだ。
小さくなったハティよりも小さい。
そして、色が白く形体はハティに似ていた。