名前を考えるのは難しい。
「名前かー」
「りゃむりゃむりゃむ」
元気よくゆで卵を食べる幼竜をみながら考える。
「ユルングとかどうだろうか」
伝承上の聖なる泉に住む竜の名前だ。
「りゃあ!」
「いいと思うのじゃ」
幼竜もハティもいい感じだと言ってくれた。
古竜的にありならば、ユルングでいいだろう。
「じゃあ、これからお前はユルングだ」
「りゃ!」
ユルングはご機嫌に尻尾をぶんぶんと振った。
「ユルング殿、改めてよろしく頼む」
姉はユルングのことを撫でる。
手からご飯を食べてくれないからか、姉は何かにつけて撫でまくるのだった。
朝ご飯を食べた後、俺はハティとユルングと一緒に研究室へと移動する。
「ハティ。これをあげよう」
俺は昨日作っておいた遠距離通話用魔道具をハティに見せる。
「主さま! いいのかや? はわぁー」
「ハティが遠くに行ったときに、会話ができたら便利だからな」
「ありがたいのじゃー」
遠距離通話用魔道具は、大きくはない。
だが、小さいハティの身体と比べたら大きい。
人間のように服を着ていないのでポケットもない。
だから、ハティが持ち歩くのには向いてはいない。
「普段はここに置いておいて、遠出するときにもっていくといいよ」
「ありがたいのじゃー、これ、ユルング、いたずらしたらだめなのじゃ」
「りゃ?」
ユルングが噛もうとして止められていた。
「よいか? ユルング、魔道具を噛んではいけないのじゃ」
「りゃあ?」
「そもそもなのじゃ。なんでも勝手に噛んではいけないのじゃぞ? 主さまが困るのじゃ」
「りゃりゃあ?」
ハティがユルングの指導を始めた。
「ありがとうハティ、本当は俺が教えないといけないんだろうけど」
「任せるがよいのじゃ、古竜がやりたいことややらかしそうなことは、古竜のハティの方が、よくわかるのじゃ!」
「ハティは頼りになるな」
「えへへ。若者の指導は先達の役目なのじゃ! 主さまは思う存分研究していて欲しいのじゃ」
「ありがとう」
俺は机に向かった。
その後ろでは、ハティがユルングを連れまわしている。
「この子はタロなのじゃ。お掃除魔道具なのじゃぞ」
「りゃ!」
「よいか? ここでシャワーを浴びるのじゃ」
「りゃあ〜」
そんな声を聞きながら考える。
最近開発した魔道具は、結界発生装置と遠距離通話用魔道具である。
それに、パン焼き魔道具と、お掃除魔道具、つまりタロだ。
開発したわけではないが、お湯を作る魔道具を改良したりもした。
「……欲しい物、あったら便利な物」
色々とある。
「乾燥パンを温める魔道具とかあったらいいのじゃ」
独り言に反応して、ハティがやってくる。
俺の肩にハティが乗って、ユルングはもぞもぞと俺の懐の中に入っていく。
ハティによる、研究所のルール説明が終わったらしい。
「ハティ、お疲れさま、助かったよ」
「気にしなくていいのじゃ、ユルングは賢くていい子なのじゃぁ」
「りゃあ」
俺は襟元から顔だけ出しているユルングを撫でる。
「それで、ハティ、乾燥パンはあったかい方が好きなのか?」
「冷たくてもうまいのじゃが、温かいパンもそれはそれでうまいのじゃ」
「なるほどなぁ」
だが、パンを温めるのは魔法で簡単にできる。
魔道具ではない道具、かまどなどでも、温めることができる。
もっといえば、暖炉の傍に置いておくだけで温かくなるだろう。
「魔道具を使わなくても、パンは温められるからなぁ」
ハティには悪いが、どうしても優先度は低くなる。
「そうであったかー」「りゃぁ〜」
「他に何か欲しい魔道具とかある?」
「うーむ。あ、そうじゃ。洗濯魔道具とかあったら便利なのじゃ」
「洗濯魔道具か」
以前から、欲しいとは思っていた。
洗濯だけでなく、乾燥まで全自動でやれたらとても助かる。
研究で引きこもっているときも、清潔な格好で過ごすことができるだろう。
「洗濯の偉い人も助かるのじゃ」
「それは確かにそうだな」
辺境伯家の使用人の衣装、ベッドシーツ、テーブルクロスなどなど。
洗濯しなければならない物は沢山あるのだ。
魔道具で作業を簡単にできれば、休憩時間を増やすことができるだろう。
「洗濯……揉み洗い、叩き洗い……ううむ」
揉んだり叩いたり、凹凸のある板を使って洗濯するのが一般的だ。
俺は基本揉み洗いか、板を使って洗濯している。
「一枚一枚、洗濯するのは手間だから……」
まとめて洗えた方が便利だろう。
俺が洗濯魔道具について考えていると、ハティが窓の外を見ながら言った。
「ところで、主さま」
「なんだ?」
「主さまは、よく太陽の位置で時間を推測しているのじゃが、適当すぎないかや?」
「それはまあ、そうだな」
「主さまは、時計買わないのかや? 金持ちなのに」「りゃあ?」
ハティは不思議そうに、首をかしげる。
同じように、顔だけ出したユルングも首をかしげていた。