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090 次に作る魔道具

 名前を考えるのは難しい。


「名前かー」

「りゃむりゃむりゃむ」


 元気よくゆで卵を食べる幼竜をみながら考える。


「ユルングとかどうだろうか」

 伝承上の聖なる泉に住む竜の名前だ。


「りゃあ!」

「いいと思うのじゃ」

 幼竜もハティもいい感じだと言ってくれた。

 古竜的にありならば、ユルングでいいだろう。


「じゃあ、これからお前はユルングだ」

「りゃ!」

 ユルングはご機嫌に尻尾をぶんぶんと振った。


「ユルング殿、改めてよろしく頼む」

 姉はユルングのことを撫でる。

 手からご飯を食べてくれないからか、姉は何かにつけて撫でまくるのだった。



 朝ご飯を食べた後、俺はハティとユルングと一緒に研究室へと移動する。


「ハティ。これをあげよう」

 俺は昨日作っておいた遠距離通話用魔道具をハティに見せる。


「主さま! いいのかや? はわぁー」

「ハティが遠くに行ったときに、会話ができたら便利だからな」

「ありがたいのじゃー」


 遠距離通話用魔道具は、大きくはない。

 だが、小さいハティの身体と比べたら大きい。

 人間のように服を着ていないのでポケットもない。

 だから、ハティが持ち歩くのには向いてはいない。


「普段はここに置いておいて、遠出するときにもっていくといいよ」

「ありがたいのじゃー、これ、ユルング、いたずらしたらだめなのじゃ」

「りゃ?」


 ユルングが噛もうとして止められていた。


「よいか? ユルング、魔道具を噛んではいけないのじゃ」

「りゃあ?」

「そもそもなのじゃ。なんでも勝手に噛んではいけないのじゃぞ? 主さまが困るのじゃ」

「りゃりゃあ?」


 ハティがユルングの指導を始めた。


「ありがとうハティ、本当は俺が教えないといけないんだろうけど」

「任せるがよいのじゃ、古竜がやりたいことややらかしそうなことは、古竜のハティの方が、よくわかるのじゃ!」

「ハティは頼りになるな」

「えへへ。若者の指導は先達の役目なのじゃ! 主さまは思う存分研究していて欲しいのじゃ」

「ありがとう」


 俺は机に向かった。

 その後ろでは、ハティがユルングを連れまわしている。


「この子はタロなのじゃ。お掃除魔道具なのじゃぞ」

「りゃ!」

「よいか? ここでシャワーを浴びるのじゃ」

「りゃあ〜」


 そんな声を聞きながら考える。

 最近開発した魔道具は、結界発生装置と遠距離通話用魔道具である。

 それに、パン焼き魔道具と、お掃除魔道具、つまりタロだ。

 開発したわけではないが、お湯を作る魔道具を改良したりもした。


「……欲しい物、あったら便利な物」

 色々とある。


「乾燥パンを温める魔道具とかあったらいいのじゃ」


 独り言に反応して、ハティがやってくる。

 俺の肩にハティが乗って、ユルングはもぞもぞと俺の懐の中に入っていく。

 ハティによる、研究所のルール説明が終わったらしい。


「ハティ、お疲れさま、助かったよ」

「気にしなくていいのじゃ、ユルングは賢くていい子なのじゃぁ」

「りゃあ」


 俺は襟元から顔だけ出しているユルングを撫でる。


「それで、ハティ、乾燥パンはあったかい方が好きなのか?」

「冷たくてもうまいのじゃが、温かいパンもそれはそれでうまいのじゃ」

「なるほどなぁ」


 だが、パンを温めるのは魔法で簡単にできる。

 魔道具ではない道具、かまどなどでも、温めることができる。

 もっといえば、暖炉の傍に置いておくだけで温かくなるだろう。


「魔道具を使わなくても、パンは温められるからなぁ」

 ハティには悪いが、どうしても優先度は低くなる。


「そうであったかー」「りゃぁ〜」

「他に何か欲しい魔道具とかある?」

「うーむ。あ、そうじゃ。洗濯魔道具とかあったら便利なのじゃ」

「洗濯魔道具か」


 以前から、欲しいとは思っていた。

 洗濯だけでなく、乾燥まで全自動でやれたらとても助かる。

 研究で引きこもっているときも、清潔な格好で過ごすことができるだろう。


「洗濯の偉い人も助かるのじゃ」

「それは確かにそうだな」


 辺境伯家の使用人の衣装、ベッドシーツ、テーブルクロスなどなど。

 洗濯しなければならない物は沢山あるのだ。

 魔道具で作業を簡単にできれば、休憩時間を増やすことができるだろう。


「洗濯……揉み洗い、叩き洗い……ううむ」


 揉んだり叩いたり、凹凸のある板を使って洗濯するのが一般的だ。

 俺は基本揉み洗いか、板を使って洗濯している。


「一枚一枚、洗濯するのは手間だから……」

 まとめて洗えた方が便利だろう。


 俺が洗濯魔道具について考えていると、ハティが窓の外を見ながら言った。


「ところで、主さま」

「なんだ?」

「主さまは、よく太陽の位置で時間を推測しているのじゃが、適当すぎないかや?」

「それはまあ、そうだな」

「主さまは、時計買わないのかや? 金持ちなのに」「りゃあ?」


 ハティは不思議そうに、首をかしげる。

 同じように、顔だけ出したユルングも首をかしげていた。

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