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112 コラリーの悩み

 遠距離通話用魔道具において、構造上送信と受信の二つ魔道具が必要なのは変えようがない。


「むう、だが、……いや、中継……させればいいか?」


 製作しながら考えていると、ふと思いついた。

 送信と受信ではなく、送信と受送信と受信とすればいいのではないか?

 間で中継する送受信機能を持つ魔道具は、研究所に厳重に保管すれば良い。

 距離が近ければ、同じ魔石を綺麗に分割した物でなくとも、情報の伝達は可能だ。


「理論上は可能……だが……いや、こうすれば……むむ」


 乗り越えなければならない課題はある。

 だが、不可能ではないように思えた。

 そうなると、諦めにくい。

 かならず俺はそれを作る気がした。


「だが、今ではないな」


 ハティが恐らく明日、遅くとも明後日には帰ってくる。

 もし許可がもらえたのならば、すぐにハティの実家へと出発だ。


 開発を開始したら、恐らく徹夜することになる。

 その状態で、ハティの実家へ出発するのは避けたい。


「明日に備えて、寝るか」


 遠距離通話用魔道具が一つ完成したので、俺は寝ることにした。

 ファルコン号を端に寄せて、ユルングを枕元に置いて、横になる。

 まだ、日没からそれほど時間は経っていない。


 かなり早いが、魔道具を集中して作ったし、ロッテの訓練で魔法を放ち続けたので疲れたのだ。


「思ったより俺の訓練にもなってるな」


 魔力消費自体は大したことは無い。

 正確に、ロッテがかわせるぎりぎりの威力で正確に魔法を放ち続けるのだ。

 当然繊細な魔力制御が必要となり、集中し続けることになる。

 一度横になると、あっというまに睡魔に襲われ、眠りに落ちた。


 …………

 ……


 夜中、研究所の結界が開かれたことに気が付いた。

 ハティか、ロッテか、コラリーか。

 ハティならば、帰還が早すぎる。

 ロッテかコラリーだろう。


 開かれた結界はすぐに閉じる。

 そして、侵入者はこちらに静かに歩いてきた。

 ベッドまで歩いてくると、無言で布団の中に潜り込んでくる。


「コラリーか」

「……ごめん、起こした」

「それは良いんだが、母屋の方に部屋があるだろう?」


 母屋に部屋を用意してくれるように頼んである。

 だからコラリーは自室を持っているのだ。


「……襲われたら困る」

「そうか」


 辺境伯家の人間に襲われるという意味でない。

 ロッテは光の騎士団やガラテア帝国の工作員に襲われることを懸念しているのだ。


「まあ、可能性はあるな」

「……そ」


 だが、若い男性のベッドに潜り込んだら、別の意味で襲われる可能性があると言うことを知って欲しい。

 とはいえ、今言うべきではないだろう。

 変に意識されても困る。

 朝になって、できれば別の者を経由して伝えたい。


 俺はコラリーに背を向けて、そのまま寝ることにした。


「……寝た?」

「ん? 起きているが」

「……きいて」

「わかった、なんだ?」


 コラリーに向き直ろうとしたら、ぎゅっと抱きつかれた。

 ささやかな胸の膨らみが背中に押しつけられる。


「……そのまま」

「わかった。このまま聞こう」

 どうやら、コラリーは顔を見られたくないらしい。


「……わるいことをいっぱいした」

「うん。知ってる」


 悪いことをしていない人間などいない。

 だが、きっとそんな言葉はコラリーには響かないだろう。


「……ヴェルナーの姉さんを殺しかけただけじゃない」


 俺自身も殺されかけた。


「……人を殺したこともある」

「うん。知ってる」

「…………」

「魔道具で操られていたのだから、コラリーが悪いわけではないよ」

「……でも」


 その手で殺したのは間違いない。

 その記憶がコラリーに残っているのだろう。


 ハティはロッテを殺す前に俺が止めることができた。

 ユルングも王都の民を虐殺する前に俺が止めることができた。

 だが、コラリーを止める者はいなかったのだ。


「罪の意識は消えないだろうが、コラリーは悪くない」


 コラリーは魔道具で身体の自由を完全に奪われていたのだ。

 悪いのは魔道具を使って、コラリーを操った者だ。


「……でも」

「でも?」

「……ロッテを殺しかけた」

「それは本当にすまない。俺の配慮が足りなかった」


 ロッテを殺しかけたとコラリーが思い込めば、過去の罪を思い出すのは当然だ。

 それに配慮できなかったのは俺の罪だ。


「……いや、ヴェルナーはわるくない」

「いや」

「……私がわるい。私の魔法は人を殺す魔法だから」

「うーん」

「……きっとこれからも私の魔法は人を殺す」


 やってしまったことへの罪の意識だけではないらしい。

 コラリーは自分のの持つ能力への不信があるようだ。

 実際、身につけた魔法を悪事に無理矢理使わされ続けたのだ。

 そう思い込むのも当然かもしれない。


「なんというか」

「……なに?」

「少し話を聞いてくれ」

「うん」

「俺も人を殺したことはある」


 そういうと、俺の背中に抱きついているコラリーはびくりとした。

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