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154 古竜の魔道具

「りゃ? りゃ〜?」

 どうやら、ユルングはコラリーとハティにも撫でてもらいたいらしい。


「そういえば、コラリーとハティはどこいったんだ?」

「りゃ」


 コラリーとハティの姿は見えなかった。


「コラリー、ハティ、どこだ?」

「む? どうかしたかや?」


 宝物庫の奥の方、けっこう遠くから声がした。

 古竜の宝物庫は広大で、色々な物が置いてあるので、見渡せないのだ。 


 どうやら、俺たちがラメットの剣を囲んで話し合っている間、コラリーとハティは宝物庫を見てまわっていたらしい。


「いや、特に用はないんだが、姿が見えなくて心配しただけだ」

「すぐ戻るのじゃ」


 そういって、ハティとコラリーが一緒に戻ってきた。

 ハティは小さな体に腕輪型の魔道具を二つくっつけている。

 一つは小さな尻尾に嵌めて、もう一つは頭に乗せていた。


「お待たせしたのじゃ! お、ロッテ、いい剣をみつけたのじゃな!」

「はい。おかげさまで」

「りゃあ〜」


 ユルングはハティがくっつけている物に興味津々だ。

 足で俺のお腹を掴んで、両手をハティの方に伸ばしている。


「ハティ、それは?」

「これかや? これはコラリーが使えそうな物を見繕ったのじゃ」

「……私は別にいいのに」


 遠慮がちにコラリーが言う。

 そんなコラリーに大王が諭すように言う。


「よくはないぞ。コラリー殿はヴェルナー卿や王女殿下と行動を共にするのであろう?」

「……うん」

「ならば、強くなっておいて損はなかろう。それがヴェルナー卿や王女殿下、我が娘や妹のためにもなるであろう」

「……わかった」


 大王とコラリーとの会話をハティはうんうんと頷きながら聞いていた。


「それで、ハティ。そのコラリーが使えそうな物とやらを見せてくれ」

「わかったのじゃ」

「りゃっりゃ!」


 ハティが近づいてくると、ユルングが目をキラキラと輝かせる。


「ユルング、いたずらしたらダメだよ。」

「りゃあ〜?」


 俺はハティが頭に乗せていた腕輪型魔道具を受け取った。


「りゃ!」

「触りたいの? そっとね」

「りゃあ〜」


 ユルングも触れるように、ユルングの近くで魔道具を調べた。

 ユルングは魔道具に触れられることが嬉しいのか、尻尾を勢いよく振っている。


「これは……うん。装着者の魔力を消費して、一時的な魔法障壁を発生させる魔道具かな?」

「さすが、ヴェルナー卿、一目見ただけで気付くとは」


 それはケイ先生の体系とは違う作り方をされた魔道具だった。

 強力な障壁を展開できる魔道具だ。

 結界に似ているが、結界は球状などで空間を覆う形で展開するのに対して、障壁は壁として展開する。


 障壁は結界と違って、全方位防御できるわけではないし、敵を閉じ込めることもできない。

 だが、展開が速いので、咄嗟の攻撃への対応力に優れている。


「使いこなせたら、有用ですが……しかし、消費魔力が多過ぎますね。小さいですが古竜用ですか?」


 その魔道具が作り出す障壁は俺が全力で放った魔法でも防ぎきるだろう。

 だが、人族の魔導師が使えば、一瞬で魔力が尽きて気絶するだろう。

 使いこなせるのは魔力が無尽蔵にある古竜ぐらいだ。


「いや、人族用である」

「これを……使いこなせる人族がいたのですか?」

「ヴェルナー卿がそれを尋ねるのか」


 大王は楽しそうに笑う。


「大賢者やヴェルナー卿なら使えるであろう?」

「それは、まあ……使えるでしょう。ですが、私でも何度も使えば倒れますよ」

「そんなことはないだろうが……。消費魔力が大きいのは事実だな。懐かしい」


 大王は俺の持つその魔道具に触れる。


「……前にこれを使っていたのはどんな人?」

「大昔の、確か五千年前の大賢者である。とても強い人族であった」

「……作ったのは? その大賢者?」

「違うぞ。その大賢者と仲が良かった古竜であるな」


 それを聞いて俺は少し安心した。

 その魔道具の水準は高い。

 もし、五千年前に人族がその魔道具製作の水準に達していたならば、五千年もの間、人族は進歩していないということになる。

 古竜が作ったのならば、納得できる。


「我ら古竜も中々やるものなのじゃな〜」

「当然だよ。古竜の方が全般的に人より高い技術を持っているものだよ」

「そうなのかや?」

「もちろんだ」


 不世出の天才であるケイ先生が千年間で一気に技術水準を高めたのは間違いない。

 とはいえ、古竜の方が寿命が長く、知識と経験の蓄積がある分、有利なのも間違いない。


「ハティ、その尻尾につけている魔道具は?」

「これであるか? これは攻撃用の魔道具なのじゃ」

「それも、同じ五千年前の賢者が使っていた魔道具であるぞ」


 同時に装備するために作られた魔道具なのかも知れない。


「ハティ、それも見せてくれないか?」

「もちろんなのじゃ」


 俺はハティの尻尾から魔道具を受けとって調べる。


「ふむ。魔力の放出を助ける魔道具かな」

「そうなのじゃ! これをつけると魔法の威力を高められるはずなのじゃ」

「確かに威力は上がるだろうけど……」


 これも出力が高すぎる。

 普通の魔導師がこれを使って初級の魔法を放てば、一撃で魔力が無くなり気絶するだろう。


「コラリーこの魔道具の効果はわかるか?」

「……大体わかる」

「扱えそうか?」

「……やってみる」


 可能か不可能かではなく、やってみると意志をコラリーは示した。

 コラリーは不可能でも、必要だと思えば、無理矢理使ってみせるだろう。

 その結果、気絶しても、いやたとえ死ぬとしても、構わずにだ。


「大王、この二つの魔道具、コラリーに扱えると思いますか?」

「うーむ、そうであるな」


 大王は真剣な表情でコラリーを見る。


「……私なら使える」


 コラリーは大王の目を見てはっきりと言った。


「そうだな。出力を抑えた方が良いかもしれぬ」

「ですよね」

「……必要ない」

「いや、コラリー。必要だ」

「……気遣いは必要ない」

「そうではない。むしろ出力を抑えて回数を増やした方が戦術的に有効だ」

「…………そうなの?」

「そうだ」


 俺の目をコラリーはじっと見つめた。

 まるで、嘘をついているのか見極めようとしているかのようだ。


「……ならば、抑えて欲しい」


 コラリーは俺が嘘を付いていないと判断してくれたのだろう。


「ああ。任せろ。大王、構いませんか?」

「こちらから頼みたいところだ。製作者の古竜も呼んでおこう」

「それはありがたいです」


 古竜の魔道具技術の専門家とも会えそうだ。

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