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161 ラメットの剣

 最後に残ったのはラメットの剣だ。

 それを俺とグイド猊下はつぶさに観察していく。


「これが千年前にケイ先生とシャンタルが刻んだ魔法陣ですか」


 ラメットの剣には、剣にかけるべき魔法効果が一通り付与されていた。

 折れたり欠けたりしにくくなる魔法。切れ味が落ちなくなる魔法。持ち主の魔力を通しやすくなる魔法。

 かけられた効果自体には特色は無い。剣に付与するならば、ごく普通の効果である。


「……弟子としては、どう思う?」

「そうですね。発想がそもそも現代魔法とは違いますね」


 効果は同じでも、刻まれた魔法陣の種類が違った。


「ふむ? つまりどういうことだ?」

「いえ、このときに既に魔法に神の奇跡を混ぜようとしているみたいですね」

「神の奇跡か」「りゃむ?」


 グイド猊下はユルングを優しい目で見つめる。

 魔法と神の奇跡を融合させた技術で、ユルングは巨大魔道具のコアに取り込まれていた。

 ユルングは魔法と神の奇跡の融合技術の被害者といってもいい。


「大王は聖女の祝福とおっしゃっていましたが……」

「まあ、祝福も奇跡も呪いも同じようなものだ」

「はい、問題は、その奇跡の魔法陣、いや魔法陣とよばないのかもしれませんが、それとケイ先生の魔法陣と融合していることですね」


 俺は大王から話を聞いて、剣を軽く調べたとき、別々に刻まれていると判断した。

 だが、しっかり調べると、ケイ先生の魔法陣とシャンタルの奇跡の部分が混じり合っている。

 連携というよりも、一部が融合していた。


「千年前からケイ先生とシャンタルは魔法と奇跡の融合を目指していたようですね」

「うーむ」

「この剣を作った数百年後、今から数百年前、ケイ先生とシャンタルは袂を分かったみたいですが……」

「ならば、この剣にかけられた魔法と奇跡の融合術より、大賢者の知っている技術は数百年分進歩していると考えた方が良いだろうな」


 いまケイ先生は魔法と神の奇跡の融合技術を使っていない。

 だが、技術なのだ。使わずとも知っている。


「そのうえ、魔法単独でいえば、このときより千年分ケイ先生は技術を高めていますから」

「そして、卿は大賢者の弟子だ」

「その通りです。つまり猊下に頼ることになります」


 俺の魔法技術はケイ先生に教えてもらったもの。

 新たに俺が考えたとしても、ケイ先生の技術体系に属することになる。

 それは、ケイ先生にとって、見破って対策するのは難くない。


「古竜の技術が、果たして大賢者に通じるか、自信は無いが……」

「そのようなことはないでしょう。猊下の技術はケイ先生の技術に引けを取らないと思います」

「ふふ、大賢者の弟子にそう言われると、お世辞でも嬉しい」

「お世辞ではありません」

「うむ。どちらにしろ、古竜の技術の方が、いくらかはましであろうな」

「はい」

「まずは、とことん解析するところからはじめるとするかのう?」

「それがよろしいかと」


 俺とグイド猊下は徹底的に解析していく。

 魔法構造とその理論と思想まで調べ上げていった。


「神の奇跡は……、魔力の通し易さを向上させるのに使われているのか?」

「恐らくですが、勇者ラメットの力を剣に流しやすくさせるためではないでしょうか?」

「なるほど。勇者の力は神の奇跡。ならば勇者の魔力の伝わりやすさを向上させるならば、奇跡の方が都合が良いか」

「そうですね。問題は、その部分はいじれないということですね」


 勇者ロッテに持たせる剣なのだ。

 勇者の力を流しやすくする効果は大切だ。

 そして、俺もグイド猊下も神の奇跡は扱えない。


「神の奇跡の部分をいじらずに、他を改良するしかないか」

「はい。ケイ先生の部分は私が改良できますが、メインは古竜の魔法の付与になるかと」

「ふむう、どのような魔法が良いかのう?」「りゃむ〜?」


 グイド猊下と一緒にユルングも考えているかのように腕を組む。


「奇をてらいたいですね。正面からぶつかって勝てると思えませんし」

「奇をてらうか……、強烈な光を発する機能でもつけるか?」


 初回は効果はあるかもしれない。だが、ひるむのは一瞬だ。


「それよりも、刀身に魔力を通しやすくできませんか」

「ふむ?」

「前大王を倒した際、ロッテはただの剣に勇者の力を纏わせて聖剣にしました」

「ふむふむ」

「そして、シャンタルを倒した際は折れた刀身の代わりに結界で刀身を作り出しました」

「ふむ。魔力を通しやすくすることで、擬似的に刀身を伸ばす効果を持たせたいと」

「その通りです」


 纏った勇者の力を刀身にして、刀身を擬似的に伸ばせれば、ケイ先生も驚くだろう。

 ギリギリかわした一撃が致命傷になり得るかもしれない。

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