やれやれ、ザベスちゃんとの雇用交渉がようやく終わりました。
最終的に、月給神聖金貨3枚、週休2日、年次有給休暇12日に……あれっ!? 何か所々増えてませんか?
……ザベスマジック恐るべし。
いえいえ、そんなことはどうでもいいのです。
考えるべきは、闇商人と手を結んで行う新たな仕組みの構築。
闇商人の行っていることは……密輸、非合法な奴隷売買、麻薬の密造密売、ですか。
密輸は、こっそりと色んな商品を輸出したり、輸入することですね。
人間は、やれ関所やら何やらと、荷を運ぶだけで税金を課されるそうです。
それで、税金が課されないよう、こっそり荷抜けをする。これが密輸。
非合法な奴隷売買。
正規の奴隷売買から外れた、奴隷売買のことらしいですね。
奴隷とは、金銭で購入できる人間のことみたいです。
主に、劣悪な環境での労働力とするのだとか。
麻薬、これは、私の誘惑の魔石とどこか似ています。
強い依存性のあるやべーやつなのです。その上、体に害を与える毒にもなるのだとか。
その点、魔石は健康上には何の問題もないので、とっても優しいアイテムですね!
「むむむ……やっぱり気になるのは、麻薬ですねえ」
魔石に似た性質のある薬物。魔石があれほど、人間に効果覿面なのだから、こちらも期待できそうですが……。
「しかし理解できません。人は何故、麻薬にはまるのでしょう?」
魔石なら分かります。人はその脅威を知りません。
未知であるが故に、知らず手に取り虜にされる。気付いた時にはもう手遅れ、という寸法です。
でも麻薬は? 麻薬は広く人に知られた、既知の薬物。身を滅ぼすと分かっているのに、どうして……。
「マスター、人の子は利口な子ばかりでない。むしろ愚かな子も多いのです。……身を滅ぼすと分かっていても、一時の快楽に手を伸ばしてしまうのです」
ザベスちゃんが訳知り顔で言います。
「ふむん……そんなものですか」
イマイチ理解できませんが、取り敢えずそういうものだと割り切ることにします。
「ええ。だからこそ、御禁制品として、製造販売が固く禁じられているのです。……ああ、それに、自ら望んで、ではなく、強要されて服用することもあるとか」
「ん? 強要、ですか?」
「ええ。マスターは、亜人大陸をご存知ですか?」
亜人大陸? 予備知識君がフル稼働します。
――亜人大陸。
人間が住まう大陸から海を越えて西にある亜人が住まう大陸。
ここ百年ほど前から、人間が侵略し、大半が植民地化している。
植民地の亜人は全て奴隷にされ、現地の金鉱山や大規模農場で重労働を強いられている。
採掘された金銀、栽培された農作物、そして亜人奴隷そのものが、人間大陸への主な輸出品となっている。
「亜人大陸、把握しました。で、この亜人大陸が何ですか?」
「あちらでは、奴隷の食事に麻薬を混ぜるのだそうです。麻薬に依存させて、逃亡奴隷が出るのを防いでいるのだとか」
「んー、でも、麻薬は体を壊すのですよね? 折角の労働力が台無しじゃないですか?」
ザベスちゃんは無表情のまま肩を竦めます。
「あちらの奴隷は、それは、それは過酷な環境下にあるとか。なので、麻薬で体が壊れる前に、使い潰されるみたいですね」
ははあ、何と容赦のない。人間にしては中々やるじゃないですか!
「それにしてもザベスちゃん、詳しいのですね?」
「私はシルフ、風の精霊なれば。風は世界を巡るもの。私の同胞たちには、噂好きも多いことですし」
「ほほう。そうなのですね。……ふむん、今の話によると、亜人大陸では麻薬が頻繁に使われているみたいですね。あちらでは、法に触れないのですか?」
「人が亜人に何をしたところで、咎める法はありませんね」
へー、他種族に対する排他性と残虐性、人間にも侮れない所がありますね!
「なら、あちらでは盛んに麻薬が栽培されているのですね」
「いえ、そういうわけではありません」
「ほえ?」
「亜人大陸の風土は、麻薬の栽培に適していないのです」
「では?」
「人間大陸からの輸出ですね」
「でも栽培は違法なのですよね?」
「はい。ただ、亜人大陸の植民地政策の為に、国から特別に認可が下りた農場でだけ、麻薬の栽培が許されているのです」
ほうほう、あれれ? ぴーんと、一つの線に結びついてきましたよ。
「こっそりと麻薬を栽培して、こっそりと密輸して亜人大陸へ。お土産に、亜人奴隷を持ち帰る。そういうことですか?」
「ついでに、亜人大陸で採掘された金銀の密輸も、ですね。確かに闇商人はそんな販路も持っています。ただ……」
「ただ?」
「国の取り締まりが厳しいですね。お上は甘い汁を自分たちだけで独占したいのですから。なので、闇商人たちが持つ販路は、細々としたものです」
なるほど、では、その販路を拡大すれば、闇商人たちはにっこり、ですかね。
「こっそりと、かつ、ド派手にやるには何がネックでしょう?」
「密輸自体は、港湾の役人を闇商人は抱き込んでいるので、それほど困難ではないでしょう」
「では?」
「麻薬の大量栽培です。こればっかりは。大規模な麻薬農園など、人の目に留まらぬはずもありません」
なるほど、では、そこをクリアすれば……。これは面白いことになりそうです。
まず、麻薬用の麻の苗を闇商人から我々へ、我々はそれを元に、大規模な栽培をする。
大量に採れた麻薬を再び闇商人に返す。
闇商人はそれを亜人大陸へ持ち込み販売。得た金銭で、金銀・亜人奴隷を購入して持ち帰る。
そして、麻薬の大量栽培の見返りに、持ち帰った奴隷の大半を私のダンジョンに。それを喰らってDPとする。
あれれ、これは名案なのでは?
「ねえねえ、ザベスちゃん――」
私は今しがた思いついた案をザベスちゃんに話してみる。
「三角貿易ですね」
「三角貿易?」
「そのような三者による貿易のことです。もっとも、ここまで邪悪な三角貿易なぞ、聞いたこともありませんが」
「いやー、そんなに褒められても……」
「褒めてませんよ、マスター」
え? 褒められてなかったのですか?
「しかし、どうやって、人目につかず麻薬の大量栽培をする積りで?」
ザベスちゃんの問いに、私はきょとんとする。
「え? 普通にあるじゃないですかー。人の目に触れず、大量の栽培が可能な広大な空間が。しかも、そこには毎日24時間休まず、文句の一言も漏らさないで働き続ける、素敵な労働力まで完備されてます。ま、文句も何も、ゴーレムは話せもしませんが」
ザベスちゃんは納得顔になる。
「つまり……」
「はい! ダンジョンを大規模農園にすることを宣言します!」
私はまずは形から? と、早速自分の名前を変更します。
27位 名前:石ころダンジョン@農業を始めます!
DP:80,109,125P 稼働日数:1年2ヵ月