目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

邪悪なる三角貿易

 やれやれ、ザベスちゃんとの雇用交渉がようやく終わりました。


 最終的に、月給神聖金貨3枚、週休2日、年次有給休暇12日に……あれっ!? 何か所々増えてませんか?

 ……ザベスマジック恐るべし。


 いえいえ、そんなことはどうでもいいのです。


 考えるべきは、闇商人と手を結んで行う新たな仕組みの構築。


 闇商人の行っていることは……密輸、非合法な奴隷売買、麻薬の密造密売、ですか。


 密輸は、こっそりと色んな商品を輸出したり、輸入することですね。

 人間は、やれ関所やら何やらと、荷を運ぶだけで税金を課されるそうです。

 それで、税金が課されないよう、こっそり荷抜けをする。これが密輸。


 非合法な奴隷売買。

 正規の奴隷売買から外れた、奴隷売買のことらしいですね。

 奴隷とは、金銭で購入できる人間のことみたいです。

 主に、劣悪な環境での労働力とするのだとか。


 麻薬、これは、私の誘惑の魔石とどこか似ています。

 強い依存性のあるやべーやつなのです。その上、体に害を与える毒にもなるのだとか。

 その点、魔石は健康上には何の問題もないので、とっても優しいアイテムですね!


「むむむ……やっぱり気になるのは、麻薬ですねえ」


 魔石に似た性質のある薬物。魔石があれほど、人間に効果覿面なのだから、こちらも期待できそうですが……。


「しかし理解できません。人は何故、麻薬にはまるのでしょう?」


 魔石なら分かります。人はその脅威を知りません。

 未知であるが故に、知らず手に取り虜にされる。気付いた時にはもう手遅れ、という寸法です。


 でも麻薬は? 麻薬は広く人に知られた、既知の薬物。身を滅ぼすと分かっているのに、どうして……。


「マスター、人の子は利口な子ばかりでない。むしろ愚かな子も多いのです。……身を滅ぼすと分かっていても、一時の快楽に手を伸ばしてしまうのです」


 ザベスちゃんが訳知り顔で言います。


「ふむん……そんなものですか」


 イマイチ理解できませんが、取り敢えずそういうものだと割り切ることにします。


「ええ。だからこそ、御禁制品として、製造販売が固く禁じられているのです。……ああ、それに、自ら望んで、ではなく、強要されて服用することもあるとか」

「ん? 強要、ですか?」

「ええ。マスターは、亜人大陸をご存知ですか?」


 亜人大陸? 予備知識君がフル稼働します。


 ――亜人大陸。

 人間が住まう大陸から海を越えて西にある亜人が住まう大陸。

 ここ百年ほど前から、人間が侵略し、大半が植民地化している。


 植民地の亜人は全て奴隷にされ、現地の金鉱山や大規模農場で重労働を強いられている。

 採掘された金銀、栽培された農作物、そして亜人奴隷そのものが、人間大陸への主な輸出品となっている。


「亜人大陸、把握しました。で、この亜人大陸が何ですか?」

「あちらでは、奴隷の食事に麻薬を混ぜるのだそうです。麻薬に依存させて、逃亡奴隷が出るのを防いでいるのだとか」

「んー、でも、麻薬は体を壊すのですよね? 折角の労働力が台無しじゃないですか?」


 ザベスちゃんは無表情のまま肩を竦めます。


「あちらの奴隷は、それは、それは過酷な環境下にあるとか。なので、麻薬で体が壊れる前に、使い潰されるみたいですね」


 ははあ、何と容赦のない。人間にしては中々やるじゃないですか!


「それにしてもザベスちゃん、詳しいのですね?」

「私はシルフ、風の精霊なれば。風は世界を巡るもの。私の同胞たちには、噂好きも多いことですし」

「ほほう。そうなのですね。……ふむん、今の話によると、亜人大陸では麻薬が頻繁に使われているみたいですね。あちらでは、法に触れないのですか?」

「人が亜人に何をしたところで、咎める法はありませんね」


 へー、他種族に対する排他性と残虐性、人間にも侮れない所がありますね!


「なら、あちらでは盛んに麻薬が栽培されているのですね」

「いえ、そういうわけではありません」

「ほえ?」

「亜人大陸の風土は、麻薬の栽培に適していないのです」

「では?」

「人間大陸からの輸出ですね」

「でも栽培は違法なのですよね?」

「はい。ただ、亜人大陸の植民地政策の為に、国から特別に認可が下りた農場でだけ、麻薬の栽培が許されているのです」


 ほうほう、あれれ? ぴーんと、一つの線に結びついてきましたよ。


「こっそりと麻薬を栽培して、こっそりと密輸して亜人大陸へ。お土産に、亜人奴隷を持ち帰る。そういうことですか?」

「ついでに、亜人大陸で採掘された金銀の密輸も、ですね。確かに闇商人はそんな販路も持っています。ただ……」

「ただ?」

「国の取り締まりが厳しいですね。お上は甘い汁を自分たちだけで独占したいのですから。なので、闇商人たちが持つ販路は、細々としたものです」


 なるほど、では、その販路を拡大すれば、闇商人たちはにっこり、ですかね。


「こっそりと、かつ、ド派手にやるには何がネックでしょう?」

「密輸自体は、港湾の役人を闇商人は抱き込んでいるので、それほど困難ではないでしょう」

「では?」

「麻薬の大量栽培です。こればっかりは。大規模な麻薬農園など、人の目に留まらぬはずもありません」


 なるほど、では、そこをクリアすれば……。これは面白いことになりそうです。


 まず、麻薬用の麻の苗を闇商人から我々へ、我々はそれを元に、大規模な栽培をする。

 大量に採れた麻薬を再び闇商人に返す。

 闇商人はそれを亜人大陸へ持ち込み販売。得た金銭で、金銀・亜人奴隷を購入して持ち帰る。

 そして、麻薬の大量栽培の見返りに、持ち帰った奴隷の大半を私のダンジョンに。それを喰らってDPとする。


 あれれ、これは名案なのでは?


「ねえねえ、ザベスちゃん――」


 私は今しがた思いついた案をザベスちゃんに話してみる。


「三角貿易ですね」

「三角貿易?」

「そのような三者による貿易のことです。もっとも、ここまで邪悪な三角貿易なぞ、聞いたこともありませんが」

「いやー、そんなに褒められても……」

「褒めてませんよ、マスター」


 え? 褒められてなかったのですか?


「しかし、どうやって、人目につかず麻薬の大量栽培をする積りで?」


 ザベスちゃんの問いに、私はきょとんとする。


「え? 普通にあるじゃないですかー。人の目に触れず、大量の栽培が可能な広大な空間が。しかも、そこには毎日24時間休まず、文句の一言も漏らさないで働き続ける、素敵な労働力まで完備されてます。ま、文句も何も、ゴーレムは話せもしませんが」


 ザベスちゃんは納得顔になる。


「つまり……」

「はい! ダンジョンを大規模農園にすることを宣言します!」



 私はまずは形から? と、早速自分の名前を変更します。


 27位 名前:石ころダンジョン@農業を始めます!

 DP:80,109,125P 稼働日数:1年2ヵ月


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?