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エリザベス・ジャンヌ・ド・アブスブール・テレジア・エスターライヒ

 あの老紳士、アルファルド老との出会いから二日後のことです。

 アルファルド老が言い残した通り、彼の部下が私の店を訪ねてきました。


 30から30半ば辺りの年齢の男で、まるで役人か! ――人間はかっちりした者をそう評するそうですね――というような雰囲気をまとった男でした。


 個人の持ち物としては珍しい眼鏡を掛け、しっかりと撫でつけた髪形で、一部の隙もないかっちりした服に身を包んだ男。

 名前を、テッドというそうで、アルファルド老の秘書だそうです。そして――闇商人。


 このテッドから、アルファルド老がどのような人間で、どんなことを生業としていることを教わりました。


 曰く、アルファルド老は闇商人である。――闇商人とは非合法な商いをする商人たちの総称であることも教わりました。

 また、ローゼン領の闇商人たちの元締め、ボスのような立場でもあるということ。


 非合法な商いの中身は、密輸、非公認の奴隷売買、麻薬など禁制品の販売、などと多岐に渡るとのこと。



「ふむん、アルファルド老の立場や、お仕事内容は分かりましたですよ。それで? 老は私に何をさせたいのですか?」

「それですが、老は我々の仕事内容を告げた上で、互いにとって益のある商売を、貴女主導で行って欲しいとのことです」

「んん? つまり……」

「貴女に自由裁量を与えるということです」

「ようは、仕事は自分で考えろ、そういうことですか?」

「平たく言えば」


 アルファルド老の言葉が聞こえて来るようです。――お手並み拝見、と。


 やっぱりむかつくわー、あのジジイ。上から目線ですか、そうですか。

 上等! ですよ! 私の鮮やかな手並みで、おじいちゃんの腰を驚きでぎっくりさせてやるのです!


「取り敢えず今日のところはこれで。私と連絡を取りたければ、パーメル通りにある雑貨屋、『ルーベン』の店主が取り次いでくれます」

「分かりました」


 テッドは椅子から立ち上がる。私も見送ろうと立ち上がると、『そうだ』とテッドは思い出したように話し出します。


「この店ですが、偽装のために何か適当な商いをしておいて下さい。もっとも、貴女が店番に時間を取られてもいけません。誰ぞ、人員をこちらから派遣しましょうか?」

「ご厚意どうも。でも、それには及びません」


 人員を派遣? 監視役をわざわざ懐に取り込むわけないのです。


「そうですか。では……」


 ――カランコロン。


 テッドは店を去っていきました。


 さてさて、宿題は二つ。


 一つは、何か、私と闇商人が手を結んでできる、スーパーでワンダフルな仕事を考えること。

 それは、闇商人に金銭での利益をもたらし、私にDPという利益をもたらすものであることが最適でしょう。


 もう一つは、重要性は低いですけど、ここでカモフラージュの為に商売をすること。

 その際、店番を誰かに任せる。

 つまり、私がオーナーで、雇われ店長が店を切り盛りするという形ですね。


 ただ、ここシュシュリで人を雇うのは頂けません。その人物に、アルファルド老の息がかかってないという保証もないのですから。

 懐に、信用のおけない者を置くつもりなどありません。なら……。


 27位 名前:石ころダンジョン@闇商人むかつくわー

 DP:81,109,125P 稼働日数:1年2ヵ月


 ふむん、DPは豊富にあるのです。

 ここらで多少DPを弾んででも、後々まで私の手足として働けるモノをクリエイトしますか。

 無論、それはゴーレムのような機械的な行動しかできないおバカさんではいけません。


「クリエイト――精霊石」


 私は100万DPを消費して、精霊石をクリエイトします。


 精霊石、それは、その名の通り精霊を宿した宝石です。

 そう。この宝石の持ち主に忠誠を尽くす精霊を。

 この精霊は、言うなれば、一種の使い魔のようなもの、でしょうか?


 クリエイトされた、私の手の中にある宝石から眩い光が放たれます。

 その光が収まると、私の目の前に、10歳くらいの女の子が無表情に立っています。


 私はその娘をまじまじと観察しました。


 金砂の髪はさらさらで、碧い目はどこまでも透き通るようです。

 ほっぺは、つつかなくてもぷにぷにしているだろうことが分かります。

 肌はまるで滑らかな白磁の様。そこにある紅色の唇が鮮やかさを添えます。


 総じて、とんでもなく可愛らしい容姿をしています。――無表情ですけど。

 これが、精霊、なのでしょうか?


 可愛らしい女の子は、私を見上げるとゆっくりと口を開きます。


「問おう。貴女が……『それはいけません!』」


 よく分かりませんが、それを言わせてはいけないような気がしました。

 宇宙の法則が乱れるような、そんな直感を覚え、精霊ちゃん? の言を遮りました。


「……貴女が、私のマスターと認識しました。マスター、私の名前を付けて下さい」

「名前、ですか?」

「はい。それが、マスターたる者の務めです」


 名前、名前ですか……。


「では、精霊ちゃんで」

「まんまですね」


 精霊ちゃんは無表情のままですが、不服そうなのが見て取れます。だめかー。


「では、宝石ちゃん」

「変わりません。却下です」

「むむ……」


 弱ってしまいました。名前、名前……。


「マスターが、絶望的にネーミングセンスがないのを理解しました。なら、命名権の譲渡を、私に」

「あっ、そういうことも出来るんですね。いいですよー、自分で好きな名前を付けて下さい」


 精霊ちゃんは一つ頷きます。


「では、私の名前は――エリザベス・ジャンヌ・ド・アブスブール・テレジア・エスターライヒ、でお願いします」

「……ご立派なお名前ですね」


 エリザベス・ジャンヌ……精霊ちゃんは無表情のままですが、どこか満足げな空気を醸し出しています。


「普段呼ばれる時は、エリザベス、あるいは、ザベスちゃんとお呼びください」

「はあ……」


 よく分かりませんが、精霊とはこういうものなのですかね?


「とにかく、名前も決まりましたし。よろしくです、ザベスちゃん」

「いいえ、まだです。マスター」

「え?」

「次は雇用条件を詰めませんと。私としては、月給神聖金貨2枚、週休二日制、年次有給休暇10日を希望します」



 ――精霊石、それは持ち主に忠誠を尽くす精霊が宿る宝石。


 ……忠誠とは何ぞや?

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