夏草が生い茂る平原、その中を切り進むように、一本の街道が延々と細長く続いています。
私はガタガタと揺れる乗合馬車の上にいました。
今日はとても良い天気で、雲一つない青空が広がっています。
一羽の鳥がゆったりと旋回していました。
その姿をぽけーっと見上げていると、ガタン! と一際強く馬車が揺れます。
うう、お尻が痛い。
油断していたのもあって、私のプリティなお尻への会心の一撃となりました。
私は自分のお尻をさすさすと擦ります。
この馬車というのは、あまり好きになれません。乗り心地は決して良いものとは言えないのです。
かといって、徒歩だと時間がかかり過ぎる。
シュシュリからダンジョンまでは、『リターン』で一っ飛びですが、その逆はそうとはいかない。
むむむ、何か、良い移動手段はないものでしょうか?
考え込んでいると、お空を飛ぶ鳥がまた視界に入りました。
おお! お空を飛べたならどうでしょう? きっと、今よりも小マシな移動が出来る筈です!
叶える手段はないものかと、DPで取得できるスキルやクリエイトできる宝物、魔物をチェックします。
んー? それらしきものがないなあ……む?
水晶龍(クリスタルドラゴン) 798万DP
……お空飛べそうですけど、移動手段の為だけに798万DPは流石に、ねえ?
ないわー。ザベスちゃん、およそ8体分じゃないですか。
いえ、単なる移動手段だけでなく、戦力として見るのが本来の在り方でしょうけど。
でも、ドラゴンとか悪目立ちしすぎです。
ダンジョンの外で使えないでしょうし、ダンジョンでは……そもそも、戦闘が起きたことがゼロです。
過剰戦力、ハッキリ言っていらない子です。
そもそも、798万とか、あざとすぎる数字設定も何かむかつきます。
誰が設定したのか知りませんけど、全くお得感が出てないですからね。
はあ、仕方ありません。この不便な移動手段とは、これからも長い付き合いになりそうです。……やだなー。
シュシュリに戻り、まず私のお店に真っ直ぐ向かいます。
――カランコロン
玄関ベルを鳴らしながら入ると――その中はすっかり変わっていました。
「いらっしゃいま……ああ、マスターでしたか」
エプロンを付けた無表情な金髪幼女が出迎えます。――ザベスちゃんです。
いえ、それはいい。それよりも……。
私は店の中を見回します。
店の中には所狭しと大小さまざまな鉢が並びます。その中には、赤、青、黄、ピンク、白と、色とりどりの花が咲き誇っていました。
「ザベスちゃん、これは?」
「カモフラージュの為に、何か適当にお店を開くのでしょう? マスターの手を煩わせるわけにいきませんからね。準備しておきました。お花屋さんです」
「なるほど。でも……」
私はこてんと小首を傾げます。
「どうしてお花屋さん?」
ザベスちゃんは、さっと視線を逸らしました。
「その……特別な意味はありませんが。ええ。ひょっとすると、マスターは闇商人に卸す以外にも、ご自身でいくらかの麻薬を保有するかも、と。お花屋さんなら、大麻が紛れ込んでいても、分かり辛いかもと、それででしてね……」
私は生温かい目で、ごにょごにょと言い募るザベスちゃんを見ます。
ザベスちゃん、お花屋さんがしたかったのかあ。なるほどなー。
「そんなことより、マスター! ダンジョン改造の首尾はどうだったのです?」
「それなら、上手くいきましたよー」
精霊幼女な店番がいるメルヘンなお花屋さんの中で、大量の麻薬栽培が可能、かつ、奴隷をスムーズに処理できる屠殺部屋が完備された、素敵な素敵なダンジョンの自慢をしたのでした。まる。