――ズン! と、重低音を響かせながら屠殺部屋が活躍しています。
闇商人と結託して始めた三角貿易も、都合三度目の取引となりました。
今回も奴隷と輸送員、合わせて優に100人を超える収穫です。
初期投資こそ、そこそこDPを消費しましたが。
通常のダンジョン経営と違って、冒険者に宝物を持ち帰られるようなこともないので、得られるDPが丸々純利益となります。うまうま。
まあ、欠点がなくもないですが。それは、費やされる時間です。
農場で大麻が育つまでの時間、闇商人がどんぶらこと船で亜人大陸を往復する時間。
足し合わせれば決して短い時間ではありません。
ですが、筋道が確立された今、寝ていても勝手にDPが入ってくる。しかも定期的に。
そんな素晴らしいシステムが完成しました。
なれば、三角貿易はそのままに、また新たな動きを模索すべきでしょうか?
そう、劇的に順位を押し上げるような……。
ふっと、ランキングを脳裏に表示します。
24位 名前:石ころダンジョンマスター@食っちゃ寝中
DP:91,017,220P 稼働日数:2年7ヵ月
んー、何かいい手は……んん? この感覚は……なるほど、またですか。
『やあ、石ころちゃん、今少しいいかな?』
「また急にどうしたのですか、降臨パイセン?」
ダンジョンマスター序列第3位、『降臨せし異邦の軍勢』からの接触です。
『前に言ったろう。君が落ち着いた頃に、また連絡を取ると。そろそろ落ち着いた頃かな、と予想して連絡を取ってみたわけだよ』
「なるほどー、良い勘をしてますねー。丁度落ち着いた所で……なんて、私が言うと思ったんですか、パイセン?」
私の返しに、暫しの沈黙が降ります。
『どういう意味かな?』
「そのまんまの意味ですよ。私もいつまでも世間知らずなお馬鹿さんじゃないってことです」
『へえ……』
「パイセン覚えてます? 共生ごっこが終わった直後に連絡を取ってきたあなたが、私に何と言ったのか?」
『さて、ボクは何と言ったのだろうね?』
すっとぼける積りですかー。面の皮の分厚いパイセンだこと。
「パイセンはこう言いました。『風の噂に、君が何をしでかしたのか、それは多くのマスターに伝わっている』と。世界中に点在するマスターたちに伝わっていると!」
『不思議かい?』
「不思議ですとも! 生まれたての頃はよく分かっていませんでしたが、今の私は世界がとーっても広いことを、実感として把握しています。また、噂は人を経由すればするほど、原形からかけ離れていくことも知っています」
そう、おかしいのです。パイセンが、まるでその目で見たかのように、チックタック辺境伯領での共生ごっこの詳細を知っていたのは。
「ねえ、パイセン? あなたのダンジョンがどこにあるかは存じ上げませんが、どうしてそんなにも、私の動向を把握出来るのです?」
『……君の推測が聞きたいな。ボクはどうやって、君の動向を把握していると思う?』
何とも簡単なことを聞いてくるものです。
「スキルか宝物の力でしょう? パイセンの属性由来の。そも、会話を可能としているこのスキルだって、私の取得可能なスキルの中にはありませんでしたよ。……離れた相手と話せるように、離れた相手の動向も盗み見できる。違います?」
『ご明察。やっぱり君は面白い子だね、石ころちゃん。益々気に入ったよ』
「どうもー」
社交辞令で、そう返しておきます。
『君、ボクの派閥に入る気はないかい?』
「はい? 派閥ですか?」
『うん。君は多分知らないだろうけど、ダンジョンマスターたちは、新参の君を除いて、そのほとんどが、序列一桁台のマスターを長とする、いずれかの派閥に属している』
「序列一桁台のマスターの派閥……ですか」
「そう。一桁台のマスターにのみ解放される特殊スキルで、自らの派閥の形成と、10位以降のマスターを眷属とする能力が行使できるようになるんだよ。まあ、眷属化するには相手の同意がいるけどね」
ふむん。眷属化……。あまり良い響きではありませんが……。
「それを受け容れた場合、何かメリットはあります?」
『勿論。派閥に属するマスターにはね、生来の属性と派閥長の属性とを掛け合わせた複合属性に目覚める、というメリットがある。……後はそうだね、君は、派閥長であるボクの庇護下に置かれることとなる』
庇護下云々は置いておくとして……。
複合属性ですか。なるほど、DPで取得可能なものの幅が広がりそうです。が……。
「なるほど、では、デメリットは?」
『ランキング順位に応じた、派閥長へのDPの上納。それから、偶にボクから君にお願いをすることがあるかもね』
「それって、お願いじゃなくて、命令って言うんじゃないですか?」
さて、命令の強制力がどれほどのものか分かりませんが。
気乗りしません。
複合属性という餌に喰いつくのは、どうもよろしくなさそうです。
「パイセン、お断りーって言ったら、どうします?」
かと言って、あっさりと断るのも怖いです。なので、軽く探りを入れましょう。
『よく考え直すよう説得するよ。何せ、どこの派閥にも属さないのは危険だもの。ねえ、メリットに、ボクの庇護下に入れると挙げただろ? 君を害そうとするのは、何も人間だけではない。ダンジョンマスターに襲われることだってあるんだ。困るだろ、ヴァンダル王国ローゼン領の辺境にダンジョンを構える石ころちゃん?』
うわー、露骨な脅しだー。パイセンったら、酷い。
断ったら、潰しに行くぞ。そういうことですよね?
もしもパイセンが私を潰しに来たとして、一体どうなることでしょう?
こちらにはダンジョンがあります。ダンジョンは、マスターにとって強力なお城のようなものです。
籠城する側の方が有利なのは当然のこと。
よっぽどの実力差がない限り、ダンジョンに籠っているマスターが勝つと思います。だけど……。
序列3位と、序列24位、よっぽどの実力差があるのですよねー。
はあ、仕方ありません。今だけは、従っておきましょう。
「あわわ、他のマスターさんたちが襲ってくるかもですか? 怖いですねー。怖いので、是非パイセンの庇護下に置いてください!」
『いいとも。君ならそう言ってくれると思ったよ、石ころちゃん』
何です、この茶番。バッカみたいですね!
ふーんだ! 今に見てるですよ、いずれパイセンをギャフンと言わせますので!
「……ところで、パイセンの属性って何ですか?」
『ああ、言ってなかったね。ボクの属性は――『宇宙』だ』
ほほう、宇宙ですか。何だかすごそうだなー。
なんて、そんなことを思いました。まる。