ーー Prologue ーー
「ーー君は、“怒らない人間”というものを見たことがあるかい?いや、もっと正確に言うなら、“怒っていたとしてもその怒りを滅多に表に出さない人間”だね。ーーそれが、僕なんだ」
僕は深く、静かに息を吸った。
まるでこの呼吸一つで、過去と決別できるかのように。
これから話すのは、僕自身の罪についての告白だ。誰にも話したことがない、けれど、もう黙っていられないほどの過去の話だ。
「最初に言っておくよ。これから語る僕の話は、決して短くはない。そして、できることなら、どうか信じないでほしい」
少しだけ、口元に皮肉な笑みを浮かべた。
「なぜかって?僕は、昔から“オオカミ少年”と呼ばれていたんだ。どれだけ真剣に話しても、誰も信じてくれなかった。だから、僕の言葉に価値なんてないよ」
それでも僕は語る。
信じてもらえないとわかっていても、話さなければいけないと思ったからだ。
言葉にすることだけが、僕がまだ“人間”である証明のように思えたから。
「それじゃあ、始めよう。僕の、取り返しのつかない罪の話を」
そうして、僕の過去ーー惨劇の始まりが幕を開ける。