目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

005 殺したのは、僕だ

 ここまで聞けば、もうわかるだろう?


 僕は、ほんの些細な誤解と、たった一度の裏切りで──


 そう、間違いなくそうだ。


 どれほど「信じない」と決めても、その言葉を胸に刻んでも、


 僕の心は最後まで、『彼女』を信じ続けていたんだ。


 それほどまでに、『彼女』という存在は、


 僕の心の中で大きくて、温かくて、壊せない光だった。


 だけど、最後の最後に、裏切りは──残酷にも、完全だった。


 悲しみは胸の奥底で激しく渦巻き、


 苦しみは、骨の髄まで染みわたり、


 張り裂けそうな胸に、呼吸すら困難だった。


 世界は灰色に染まり、


 希望は粉々に砕け散った。


 現実は、あまりにも冷たくて、


 涙は止まらず、


 何もかもが嫌になった。


 その時、僕の中で何かが切れたんだ。


 自分でも気づかぬうちに、


 ──僕は、『彼女』を殺した。


 それは、形のない、手で掴めない“何か”だったかもしれない。


 けれど確かなことは、


 僕の手で、僕の意思で、


 僕の中にあった“物語”の主要な存在が消え去ったということだ。


 その瞬間、僕は静かに、物語の幕を下ろした。


 もう、戻れないことを知りながら。


 物語は、悲しみに包まれたまま、終焉を迎えたのだ。


 ……どうだい?


 僕の話を聞いて、どんな感情を抱いただろう?


 惨めだろう?


 小さくて、取るに足らない存在だろう?


 本当に、バカみたいだよ。


 見てくれよ。


 今も、この手は震えている。


 自分で終わらせた物語の結末を知りながら、


 今なお、深い後悔が胸を締めつけている。


 僕が殺したのは、ただの“彼女”ではない。


 僕が殺したのは、かつて信じていた希望であり、


 心の中の神だったんだ。


 だから、僕は言う。


 ーー神は、もう死んだんだ。だって、僕がその神を殺したのだから。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?