私は犬面人である。
生まれた時から二足歩行でスーツを着ている。
名前はまだない。
「あなたのお名前はポチでどうでしょうか?」
私の名前が決まった。
「ポチか。……よいぞ」
私に名を付けた少女は微笑む。
「決まりですわね! ポチ、私のお家にいらっしゃい」
私は名前を貰う代わりに彼女の望みを叶えると約束した。
約束は果たさねばならぬ。
「だが、その前に一つ教えてくれ楓殿。私は何故生まれたのだ?」
楓殿は頬に手を当てて考える。
「わかりませんわ。でも、私昔から犬を飼いたかったのです」
「質問の答えになっていないが?」
「今私の住んでいるところは犬禁止令が出ているのですわ」
「……」
それと私の疑問がどう繋がるかわからぬが大人しく聞くとしよう。
「ですが、あなたは体が人間なので、犬扱いにはならないのですわ! 多分!」
「うむ。私は生まれたばかりの都市伝説のはずである」
私は何なのか、私は知りたい。
「都市伝説とかはどうでもいいですわ。顔だけでもワンちゃんであればいいのですわ!」
「ワンちゃんではない。私の疑問に答えるがいい楓殿。何故私は生まれた?」
すると楓殿は満面の笑みを浮かべた。
「そんなの決まっていますわ。きっと私の飼育欲を満たすためですの!」
ふむ、なるほど。
「わからぬ」
「まあまあ」
楓殿はバッグから首輪とリードを取り出した。
「何故私の首に嵌める?」
「え、だってワンちゃんには首輪が必須ですわよね? マナーですの」
「楓殿、私はワンちゃんではない。犬面人だ。都市伝説だ」
「ポチ、お家に帰りますわよ~」
「まて楓殿、私はまだ質問の答えを貰ってな――」
こうして私の名前はポチになった
駅前にあるタワーマンション。
そこが楓殿の自宅だった。
「楓殿はお金持ちか?」
「私のお父様とお母様がそうなだけですわ。ここは海外で働いているお母様とお父様が私に与えたお家ですの」
それをお金持ちというのではなかろうか。
「ポチにもわかるように言うと犬小屋ですわ」
「わからぬ」
私が思い浮かべる犬小屋とはだいぶ違う。
エレベーターの扉が開く。
「つきました。最上階ですわ。ポチ、まずはお風呂に入りましょうか?」
「お風呂はわかる。人間が体を清めるとこだ。私は犬面人だがお風呂に入っても良いのか?」
「当たり前ですわ。ポチはこれから室内犬になるのですよ? 汚れた体でお部屋に入れるわけにはいきません」
「室内犬ではない。私は犬面人――」
「はいはい。行きますわよ~」
いつの間にかタオルとお風呂用品をその手に、楓殿は私を引きずっていく。
ふむ……犬面人は室内犬なのか?