なんか、興奮しすぎて寝られなかった。
あの横顔が、あの声が、あの笑顔が、頭から離れない。
次の日――案の定、フラフラ。
しかも倒れたのはよりによって、誠也先生の授業中だった。
教室がざわついてる。声が響いてるのはわかるのに、体が動かない。
隣の高橋は完全にテンパってる。……バーカ。
「熱があるぞ。昨日……あれから雨に濡れたからか?」
“あれから”って言葉に、ざわつくクラス。
……そうです。あれから髪も乾かさず、布団の上で、
誠也先生のこと、ぐるぐるぐるぐる考えてました。
お風呂には入ったけど、のぼせて出てきたらもう寝られなくて。
朝起きたら喉が痛くて、ヤバいかなって思ったけど、
それでも学校行って、職員室までお礼言いに行って、
「ありがとうございました」って伝えたら――
「鼻声だな」
って、先生が少し笑ってくれて。
その笑顔がなんか、やたら素敵に見えて。
ああ、これが、恋なんだ――
……って顔が熱くなったけど、それ、熱だったんですね。はい。
「すまんが、みんな自習してくれ。
高橋くん、自習ノート終わったら職員室の僕の机に置いてくれるか?」
「は、はいっ!えっ……せ、先生、水城さんを……」
テンパりすぎ。ていうか、えっ?先生?自習にしてまで?
――と思った瞬間。
体が浮いた。
ふわっと、視界が揺れて、
ほんのりタバコの香り……。顔を上げると、間近に先生の顔!!
――えっ、うそ。
お姫様抱っこ、されてる……?
あ、だめ。今ので熱、確実に上がりました。
教室はキャーキャー言ってる。見られてる。恥ずかしい。
でも力が入らない。体が動かない。
だから私は、もう――
先生に、身を任せた。
「水城さん、保健室まで運びますよ」
ハッと目を覚ますと――ベッドの上。
保健室だ。
頭の下にはアイスノン。少しひんやりして気持ちいい。
「起きた? もう一度、熱を計りましょう」
保健の先生の優しい声。……でも、わたしの目は探してた。
誠也先生は……?
「あなたの担任の先生、素敵ね。あなたをお姫様抱っこして連れてきたのよ」
……はい。知ってます。覚えてます。
……恥ずかしすぎて、思い出したくないけど。
わたしは布団に潜りこむように横たわる。
熱は38.0度。……そりゃ倒れるよね。
それにしても――保健室のベッドって、なんか特別な感じがする。
シーツはパリッとしてて、毛布はちょっとくたびれてるけど、安心感がある。
自分の部屋とは違う匂い。違う空気。違う時間の流れ。
もう少し、このまま横になってたい――
「水城さん。大丈夫かね」
!! 誠也先生!!
わたしは反射的に布団をばさっとかぶった。顔を見られたくなかった。
「先生、まだ熱が下がらないから、お母様に迎えに来てもらったほうがいいかもしれないわね」
「はい。……先ほど連絡したんですが、お母様しか在宅でなかったようで。運転免許がないそうです」
ああ、そうだった……お母さん、車乗れないんだ。
てことは、バス……。この熱で、バス……無理かも。
「なので、わたしが送っていきます」
……は?
先生?
「今、昼休み中なので。ちゃちゃっと行きましょう。
あ、さっきみたいにお姫様抱っこは……さすがにあれなので……歩けますか?」
――そう言って、先生がそっと手を差し伸べてくれた。
大きな手。あたたかくて、迷いのない手。
――はっ!!
後ろに……高橋がいる!!
なんでいるの!? ていうか、全部見てた!?
わたしの惚れた顔……見られてたかもしれない。
ああ、恥ずかしすぎる!!
高橋、わたしの荷物、ちゃんと持っててくれてるけど……
すごい見てる。目、めっちゃ開いてるし。
わたしは顔を真っ赤にしながら、ゆっくりベッドから降りた。