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第4話 ライバルは?

 私はあれから、社会人の兄に連れられて病院に行き、風邪と診断されて二日休んだ。熱は一日ほどで下がったけど、ベッドの上でゆっくり休むことの大切さを実感した。


 うちのお父さん、昔はアスリートだったらしくて、寝具にはこだわりがあったし、健康とか睡眠の話になるとうるさいくらいだった。

 早寝早起き、よく食べ、よく運動して、よく笑う。

 ……なのに今や、小太りのオッサン。もともと背が低いから余計にね。誠也先生と、なんであんなに差がついたんだろ。

 まぁ、お母さんとラブラブで幸せそうだから、いいんだけどさ。


 昔はお父さんも痩せてたらしい。でも、ああいうスタイル良くてイケメンの、しかも年齢も近い先生なんか見たら……そりゃ、ときめいちゃうよね。


 イケメンかどうかは保護者のママたちが言ってることで、生徒の間じゃそんな噂ないし、もっと若くてかっこいい先生もいるからね。

 私は、あの細くてキリッとした先生の目が好き。笑うときに一本線になるところとか、特に。……ここ数日で気づいたんだけど。

 あと、あの背の高さ。……180はあるよね、きっと。

 あー、だめ。こんなこと考えてたら、また熱が上がっちゃう……。


 病気明け、教室に行くとクラスメイトたちが声をかけてくれた。

「大丈夫?」

「良くなってよかったー!」

「にしても、この前の誠也先生のお姫様抱っこ、びっくりしたー」

 ……やっぱりその話題、出るよね。


「明里がミニスカだったから、先生、背広脱いで隠してたよねー」

「ここ数日で誠也先生の株、めっちゃ上がった感じ〜」

 やばい、ライバル出現!?……かと思ったら、


「でもさー、年齢的にうちらの親と同じくらいだし。おっさんじゃん」

「しかも既婚者〜。まだ未婚の新任の、あの数学の先生の方が……」

「あー!私も好きなのに!狙ってたのに!!!」

 ……よかった。みんな恋ってほどじゃないみたい。ちょっとホッとしてる自分がいる。


 隣の席の高橋が、コクリと小さくうなずいて、私に一冊のノートを差し出してきた。

「お、おはようござい……ます。あの、休んだ日の……授業の、ノートです」

「ありがとう、高橋」

 目を合わせないままノートを差し出してくる。中を開くと、思いのほか綺麗にまとまっていて、ちょっとびっくりした。


「ひ、誠也先生に……た、頼まれたから」

 ……誠也先生……。


 すると、クラスメイトのひとりが私の腕をつかんで、こっそり囁いてきた。

「高橋はやめときな。弱っちいし、根暗だし、イケてないし、何考えてるかわかんないし」

 ……まぁ、そうかもしれないけど。


 そのとき、朝礼の時間になって誠也先生が教室に入ってきた。

「はーい、みんな座れ!

 お、明里さんも復活か。今日は久しぶりに全員そろったな」

 ……誠也先生……。


「今日は小雨だけど、予定通りプール開きをするぞ。楽しみだな!」

 教室中にため息が広がった。少しでも明るくしようとしてるのは分かるけど……先生、ちょっと空回ってるかも。


 窓の外を見ると、まだ薄暗い空の下、雨がしとしとと降り続いていた。

 うちの学校のプールは、運動場の奥にあるビニールハウスみたいな屋内施設にあって、そこまで行くのが面倒なのだ。

 だからみんな、いやそうな顔をしている。


 私は病み上がりってことで見学にした。……たぶん、病み上がりじゃなくても広見先生が監視してるなら、なんとしてでも休みたかったけど。

 ……よかった、熱出して。


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