「 陸、大丈夫?まだ恐怖症治ってないから、学校に行かなくてもいいんだよ? 」
「 大丈夫だよ、お母さん。そんなに心配しないで、それじゃあもう時間だから、いってきまーす! 」
あの事件以来幼稚園には行かず、1年間ずっとトラウマを克服するために努力してきた。その努力のおかげで今では外に出かけたり、大人の人に自分から話しかけられるようになった。
でも、後ろから話しかけられたりすると、震えが止まらなくなる。
ビクッ
外に出られるようになったとは言っても、トラウマを克服したわけじゃない。だから今でも少し震えることがある。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。周りには人はいる。ボランティアさんもいる。あの時とは違う。だから大丈夫。沢山努力したんだ。今は風太はいない、何も心配するようなことは無い。大丈夫、大丈夫……
いつの間にか学校に着いていた。よしっ!入学式頑張るぞ!
「 雨月陸さん。 」
「 はいっ! 」
たくさんの人がいるなぁ〜、緊張するなぁ〜。緊張しつつも家族の応援を受けながら、入学式は終わった。
「 えっと〜?俺の教室はー……、1年〜……
1組か! 」
早速教室に行こうとするが、
「 ………………教室って、どこ? 」
一人キョロキョロしていると、何やら騒がしさが増した。
「 見てー!超可愛いッーー。誰?あのかっこかわいい男の子は? 」
「 ほら、有名な子だよ。青葉夏木(あおばなつき)くん。有名な俳優さんの息子さんだよ。」
「 そうなんだ!俳優さんの息子さんか〜道理でかっこかわいいわけだ。今年の1年生はレベルが高い子がいるねー。 」
そう上級生の女の子達が話している。青葉夏木?その名前は!攻略対象の一人だ!
青葉夏木くんは、季節風の攻略対象の一人で、難易度が上から二番目の少し高い攻略対象だ。夏木くんは、唯一年上の攻略対象で、周りから頼られるような元気なムードメーカーだ。その元気さの裏に闇を抱えていて、実は両親が俳優なこともあって結構スパルタな人生を送っている。それに両親が厳格な人で両思いになったとしても付き合うまでいろいろと頑張らないといけないんだ。年上ってことで条件が揃わないと会えないため、難易度が高い。ちなみにその条件というのは、風太の兄である俺、陸と一定以上仲良くなることだ。実は陸は、夏木くんと親友なのだ!陸は風太と夏木くんを繋げる鍵になるわけだ。結構重要な役割なんだ。風太がもし夏木くんと知り合いたいと思うならそのきっかけになりたい。だから、俺は学校に来て、夏木くんと知り合いになりたい。あわよくばゲーム通りに親友に……それに、友達欲しい……。
「 こっちに来たよー!きゃー! 」
えっ!こっちに来てる!?やばいっ緊張してきた。ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ
あっ、向こうから、夏木くんが来た。
ふわあああああああ!やばい!小さい夏木くん可愛い!やばい超可愛い!
力強い目に優しい緑色の瞳に、燃えるような赤い髪、すごいゲームで見た通りだ!
やばい今めっちゃ顔ニヤけてるわ、こんな顔夏木くんに見せられない!!
夏木くんに背を向けて、ニヤニヤを抑えようと必死になる。
「 やだ、可愛い。クスクス。 」
なんだか後ろで女の子達がクスクスと笑ってる。
「 ねぇ! 」
ビクウウウウ
「 へっ!?なっ何っ?! 」
びっ、びっくりしたああー!何だよっ、急に後ろから話しかけるなよ……ぉ。
「 ごめんな!そんなに驚くとは思わなくてさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。 」
「 なっ、ななななな夏木くんっ!?どっ、どどどどどうしたのっ!? 」
「 ちょっ、ちょっと!落ち着きなよ! 」
「 ごっごめんっ。それでどうしたの? 」
「 それがな、実は1年の教室の場所がわかんなくてよ。お前、俺と同じ1年だろ?教室の場所を教えてほしいんだ。 」
「 ごめん、実は俺も教室の場所知らなくて、ごめん。 」
「 そっか、それならいいんだ。そうだ!お前何組?一緒に聞きに行こうぜ! 」
「 えっ?1年1組だけど、あっ、ちょっちょっと! 」
「 同じクラスじゃん!行こうぜ! 」
そう言って夏木くんは、俺の手を引く。
「 すみませーん。1年1組の教室はどこですか? 」
夏木くんは近くにいた、女子に聞く。俺は夏木くんの後ろについて行く。
「 えっえっ、あのね1年1組の教室はね、ここを左に曲がって……。」
女の子達は顔を赤らめて言う。
「 ありがとう!!おねいさん! 」
二人でそう言って夏木くんはまた俺の手を引く。夏木くんの後ろをついて行ってると、後ろから。
「 きゃー!有名な1年の二人に喋りかけられちゃった!しかもお姉さんって言われた!近くで見るとより可愛かったなー。 」
「 ずるい〜!私も喋りかけられたかった!」
俺も人気みたいだ。だけど夏木くんの方が顔がいいから俺が霞むんだよなぁ。
「 ねぇ夏木くん、あのおねえさん、俺たちを教室まで案内してくれるって言ってたのに、なんで断っちゃったの? 」
「 なんでって、そりゃあ俺、もっとお前と話したかったからさ、おねえさんがいたらお話あんまりできなかったんじゃないかなって思ったから。 」
あらヤダこの子、この歳でもう口説き方マスターしてるじゃないの。そうゆう言葉は好きな子に言わなきゃダメよ。
「 そういやぁ、なんで俺の名前知ってるんだ? 」
「 えっ!え〜、それは、そう!夏木くんはかっこいいって有名だから! 」
「 そうか?嬉しいな!でもお前もかっこいいぞ! 」
「 あはは、ありがとう。 」
「 なぁお前の名前教えてよ。ずっとお前じゃ言いにくい。 」
「 そうだね、俺の名前は雨月陸、よろしくね。 」
「 陸か、知ってると思うけど、俺は青葉夏木、夏木って呼んで、俺も陸って呼んでいい? 」
「 うん!いいよ。これからよろしくね、夏木くん! 」
「 ああ!よろしくな!陸! 」