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第14話 遠足前日

「 いよいよ明日は、遠足かー、楽しみだなー。 」


「 楽しみにしてないやつもいるけどな。 」


「 あばばばばばばばばばばばばば。 」


「 大丈夫かー?夏木ー。 」


「 だっ大丈夫だ!平気さ、動物なんて、HAHAHA☆ 」


     夏木くんは声をふるえさせながら言う。そんなに動物苦手だったのか。


「 大丈夫そうじゃないけど……。」


「 だだだ大丈夫だ! 」


     以外と頑固だな。


「 みんなもう準備できてるー? 」


「 俺は当然できてるぞ! 」


「 えっ準備……?やってない……。 」


「 えっまじ?早くやらないと焦ってやるから忘れ物とかできるぞ。とりあえず早く帰って準備しないとだめだな。 」


「 わかった!!今から走って帰るよ!ごめんね、夏木くん、優志、じゃあまた明日!! 」


「「 また明日なー。 」」


     まずいまずい。完全に忘れてた!もうすぐ風ちゃんのテストだから準備すっぽかして勉強手伝ってたらもう前日にイイイイイイイ!!

     急いで帰らないと!


「 はぁっはぁっはあっ。 」


     俺はダッシュで家に帰り急いでドアを開けた。


「 お母さんやばい!明日の遠足の準備すっぽかしたあああああ!! 」


「 ええっ!なにか必要なものとかある?!無いものは買いに行かないと、遠足の前日だからお昼までの授業だったし今からなら間に合うよ! 」


     空は家でまったりしていたところを急にドアを勢いよく開けて入って来た俺にびっくりしながら答えてくれていた。

     なぜ空が家にいるかだが、今日は空の仕事が休みだったらしい。本当に一体なんの仕事をしているのか……。何度聞いてもはぐらかされた。


     空視点


「 本当にごめんなさい。俺が忘れてたから……。 」


     車に乗りながら陸は言う。


「 大丈夫だよ。僕もプリントを貰ってたのに忘れてたしね。ごめんね陸。海なら忘れなかったと思うんだけど。それに、風太の勉強の手伝いをしてくれてたでしょ?陸の教え方はわかりやすいって風太が言ってたよ。ありがとう。 」


「 でも、前日でこんなこと、迷惑だったでしょ。 」


     陸は大人っぽい子だ。本当に12歳かと疑うほどた。なんなら僕よりも大人っぽいかもしれない。


「 そんなこと気にしなくていいの!誰にでもミスはあるよ。さ、買うものを整理しよ。 」


     僕は陸をなだめながら話を変える。


「 うっうん、えっとね、買うものはレジャーシート、雨具、その他もろもろ……。 」


「 なるほのなるほど、ふんふん。 」


     僕たちは買い物に来た。僕は陸の買い物リストを聞いて、ポンポンと買い物カゴに入れていく。慣れてるしね。


「 よしよし順調だね!えっとー、あとはー?あれっ?もうこんな時間、そうだ!陸、みんなには内緒になんか食べよっか? 」


     気がつくと3時をすぎていた。


「 わぁ、ほんと!やったあ! 」


「 ちょうどあそこにアイス屋さんがあるし、食べようか。 」


「 うん! 」


     陸は目を輝かさせて元気よく返事をする。大人っぽいと思ってたけど、やっぱり子供だな。あの日以来陸は暗くなった、好奇心旺盛だった陸の姿は見る影もない。僕はずっと後悔していた、あの日僕は何も出来なかった。秋斗くんと海がすごく的確な判断で物事を進めてくれて陸と風太を無事に助けることができた。いや、正確には風太を無事に助けることが出来た。風太と陸は密閉された暗い部屋にいた。大人がたくさんいて、風太を取り囲っていた。警察は風太の傍に駆けつけ風太の周りにいる男たちを拘束した。風太は無事だった、傷一つなく……。


「 陸にぃ!陸にぃ!しっかりして! 」


     今でも秋斗くんの叫び声が頭に響く。陸は辺りを血に濡らしながら壁際に倒れていた。


「 陸っ! 」


     僕は頭が真っ白になった。視界がぐるぐるとしておぼつかない足取りで、陸に駆け寄った。風太は警察と海に任している。


「 陸っ、陸っ!ああぁ……、陸っ。 」


     血が止まらない。顔色が悪い。気絶しているのか全く起きない。きっと陸は風太を守るためにあの男たちに立ち向かったんだ!


「 ああ!そんなっ!陸、陸、死なないで陸! 」


「 落ち着いて!空、今すぐ救急車を!安心しろ陸!必ず助けるから! 」


     海は慎重に陸の応急処置をして慎重に陸を抱き抱える


「 何やってる、警察!早く救急車を呼べえ!空!風太と秋斗くんを頼む! 」


     海は警察に怒鳴り、警察は慌てて救急車を呼ぶ。僕は何も出来ず、ただへたりこんで、海たちを見ていた。

     何もできなかった、僕は何もできなかったんだ。悔しかった。学生時代は平穏な時間なんてなかったのに。すっかり今の平穏な生活に慣れてしまっていた。いざとなったら何も出来ないなんてっ、陸はボロボロになるまで戦っていたのに僕は混乱して何も出来ないなんて、親失格だ。


「 ん〜♡美味しーい! 」


     隣で陸がアイスを食べている。僕は少し頬が緩む、本当に帰ってきてくれて良かった。確かに暗くなったけど、まだこの子の光は失われてない。この子の笑顔は失われてない。僕は陸に手を差し伸べる。陸は上目遣いで僕を見てニコッと笑って手を繋ぐ。可愛いな、普段は大人っぽいけどふとした時に子供っぽい仕草や表情をする。それがたまらなく可愛い。


( ( あぁー、可愛い……。) )


     陸はこちらを見ながら、なんだか愛おしそうに僕を見ている、陸はたまにこんな目で人を見ている時がある、1番多いのは風太だったな。


「 お母さん、ありがとぉ。 」


     唐突に陸はそんなことを言う。きっとアイスのお礼だろう。でも少しだけ救われたような気がする。

     陸は手を繋ぎながらるんるんとしている。僕はそんな陸を見つめる



     今度こそ必ず守れるように僕は絶対にこの手を離さない。

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