晴れ渡る青空が広がっている。
春の風は、まだ少し冷たい。
今、この川辺で一人、最高なひととき。
パチパチと、小さな焚き火がはぜる音が心地よい。
隣には安物のコンビニおにぎりと、バーナーで温めたインスタントスープ。
人によっては「哀愁」とか「陰キャ」とか言うのかもしれないけど――
「これが、自由ってやつだ」
深く息を吸う。素晴らしい。
足を伸ばす。
草の匂いと、炭の匂い。遠くで川がさざめく音。
この世界に祝福を。
ソロキャンプ。
あぁ、決して女の子がキャンプしてるとか、山暮らししてるVチューバーに触発されたわけではない。
なんとなく、やり始めた。
そういうこともあるじゃないか。
理由なんて、他人が求めるものさ。
正月の短期バイトは、キャンプ用品に全額ベッドした。買いそろえた時の、下宿先の従妹からはドン引きされていた。
全く分かっていない。
……って、いや、思い出に浸るために来たんじゃない。
場所は、駅から自転車で20分の河川敷。
地元民ですらあまり来ない、小さな中州のような場所。
雑草と土の匂い。だけど、夕日が水面に反射するこの景色だけは、誰に見せても誇れると思う。
スマホが鳴った。
チッ……見なくても、誰からか想像はつく。
グループの通知。
返事をすると、また誰かが話しかけてくる。
話しかけられれば、またどこかに誘われる。
まぁ、おれは誘われたことはないんだが。
あれだよ。あれ。気を遣ってくれてるんだよ。きっと。だから、相手に気まずい思いさせないために、未読スルー。
これで、『あ、ごめーん。他の奴が誘ってると思っててさー』と言われても、いや、スマホを見てなかったと言い訳がたつ。
なんて、ジェントルマンなんだ。
これぞ、神対応。
そんな中、LIMEが盛り上がり始める。なんだ? 告白大作戦だぁ?
ぺっ! 胸糞悪い。
……。
心が寂しくなるので通知は切っておく。
うん。優しい世界。
気づけば日は沈み、空が茜から濃い藍色へと変わっていく。
風間先輩が『あとで来るかも』って言ってたけど、どうせ来ないだろう。
春休みが終わる。
高校二年、薔薇色の生活が待っているのだろう。
だが、関係ない。
俺はバッグにゴミを詰めながら、ぽつりとつぶやいた。
「……よし、今年もソロ活、守り抜こう」
──たとえ、それがどれだけ非合理でも。
俺の平穏は、俺が守るのだ。
今日は、帰らないと寮母の早苗さんには伝えてある。
未成年でも親の同意書があれば、一晩明かしていいキャンプ場。ソロ活の貴重な拠点である。
ゆっくり、まぶたを閉じて、宵闇のまどろみに沈もうとしていた。
「あ、駿くーん。手錠、買ってきたんだけどさ。試しに使ってみたいんだ。そこの枝に手を出してー!」
この先輩、頭がおかしいのかもしれない。