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ソロキャン ②

 寝転んでいた俺は、条件反射的に身を起こす。

キャンプと関係ねぇもん、人差し指でくるくるさせながら近づいてきてんだけど。やべぇよ。まじやべぇって。焚き火の明かりに照らされて、いっそうの緊張感が押し寄せてくる。


「フフ、不思議そうな顔をしているな」


 このシチュエーションだれも想像できないからね?


「別の日にちで教えていたのに」

「ほんと……嘘つくとか、サイッテーだな、君は。でも安心してほしい」


 先輩はふふんと得意げにポケットからスマホを取り出し、俺に向けて突き出す。


「GPSでーす!」


 画面には、俺のアイコンがまんまるく川辺に表示されていた。


「いやいや、え? え?」

「駿くん、前にスマホ貸してくれたじゃん? アレのときに、友達を探す機能オンにしといた☆」


 にっこり。


 おまわりさーん!


笑顔で言うことじゃないよ、ほんと。


「アンタ……まさか盗聴器とかも仕込むような真似はしてないっすよね?」

「んー、してないと思うけど」


 ポケットの中からノイズ音が遅れてやってくる。ケラケラと笑う女。


「笑えねぇよ。ストーカーだよ」

「メンヘラヒロインみたいでいいでしょ? いまどこにいるの? 会いに行くね?」

「会いたいじゃないのかよ。フットワーク軽すぎるだろ」


 俺は頭を抱えながら焚き火に小枝をくべる。火がパチパチと音を立て、静かだった夜が、急にバラエティ番組みたいに騒がしくなった。


「自力で来たんだから、偉くない?」

「……GPSの力で?」

「失礼だな、純愛だよ」


 先輩はそう言いながら歩みより、傍らに置いていたコーラを蹴っ飛ばす。


「帰ってください……」


 何この人。ひどくない? 中身入ってんですけど。


「でだ。見てくれ、これを。輝いているだろー?」


 見てみてと、横に体育座りしてくる先輩を横目に顔を近づける。

 焚き火の明かりを反射させ、光沢が真新しい手錠。やけにリアルだな。


「それ、おもちゃすか?」

「いや、18禁」

「アンタ、まだ17歳だろ」

「今年でなるからいいじゃん。成人だよ? 先生プレイもできるね?」


 女子高生にしては育ちがいい。そのご立派様をを強調してくる。くそ、視界が引っ張られる。目をつぶって深呼吸だ。


すー、はー。

大丈夫。心頭滅却。

俺の脳内は、胸ばかり。

だめじゃねぇか。


 ガチャ。


「逮捕」

「……」


 この女……。


「使いこごち、いつもよりいい?」

「俺がいつも使ってる前提で聞くのやめてくんない?」

「いやぁー様になるね。孫にも衣装だよ」


 その孫不幸すぎるだろ。


「レビュー通り。星4.5だてじゃない!」

「レビューの高さの問題じゃねぇよ」

「だってさぁ、キャンプってサバイバルじゃん? 何が起こるかわからないんだから、拘束プレイの準備は必要でしょ?」

「おかしいだろ、その発想の飛躍が!」

「え? あお」

「言わせねぇよ!」

「あおか」

「言わせねぇよ!」


 何を言おうとしてんだこの女。


「漫才師のネタみたいなツッコミだね」


 やれやれと彼女はため息をつく。


「前、なんでもするって言ったじゃん」


 ぎく。まだ、覚えていやがった。


「ほんと嘘つきだよねー」

「……」

「少子化ポリスウーマンの羞恥心。コスプレ手伝ってってお願いしたのにさぁー」


 タイトルからして、同人誌。

こんな、お願い聞けるわけがない。


ふと、先日の罰ゲームを思い出す。


『王様ゲェェーム』


それは、下宿先、「水明荘」での出来事だった。







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