寝転んでいた俺は、条件反射的に身を起こす。
キャンプと関係ねぇもん、人差し指でくるくるさせながら近づいてきてんだけど。やべぇよ。まじやべぇって。焚き火の明かりに照らされて、いっそうの緊張感が押し寄せてくる。
「フフ、不思議そうな顔をしているな」
このシチュエーションだれも想像できないからね?
「別の日にちで教えていたのに」
「ほんと……嘘つくとか、サイッテーだな、君は。でも安心してほしい」
先輩はふふんと得意げにポケットからスマホを取り出し、俺に向けて突き出す。
「GPSでーす!」
画面には、俺のアイコンがまんまるく川辺に表示されていた。
「いやいや、え? え?」
「駿くん、前にスマホ貸してくれたじゃん? アレのときに、友達を探す機能オンにしといた☆」
にっこり。
おまわりさーん!
笑顔で言うことじゃないよ、ほんと。
「アンタ……まさか盗聴器とかも仕込むような真似はしてないっすよね?」
「んー、してないと思うけど」
ポケットの中からノイズ音が遅れてやってくる。ケラケラと笑う女。
「笑えねぇよ。ストーカーだよ」
「メンヘラヒロインみたいでいいでしょ? いまどこにいるの? 会いに行くね?」
「会いたいじゃないのかよ。フットワーク軽すぎるだろ」
俺は頭を抱えながら焚き火に小枝をくべる。火がパチパチと音を立て、静かだった夜が、急にバラエティ番組みたいに騒がしくなった。
「自力で来たんだから、偉くない?」
「……GPSの力で?」
「失礼だな、純愛だよ」
先輩はそう言いながら歩みより、傍らに置いていたコーラを蹴っ飛ばす。
「帰ってください……」
何この人。ひどくない? 中身入ってんですけど。
「でだ。見てくれ、これを。輝いているだろー?」
見てみてと、横に体育座りしてくる先輩を横目に顔を近づける。
焚き火の明かりを反射させ、光沢が真新しい手錠。やけにリアルだな。
「それ、おもちゃすか?」
「いや、18禁」
「アンタ、まだ17歳だろ」
「今年でなるからいいじゃん。成人だよ? 先生プレイもできるね?」
女子高生にしては育ちがいい。そのご立派様をを強調してくる。くそ、視界が引っ張られる。目をつぶって深呼吸だ。
すー、はー。
大丈夫。心頭滅却。
俺の脳内は、胸ばかり。
だめじゃねぇか。
ガチャ。
「逮捕」
「……」
この女……。
「使いこごち、いつもよりいい?」
「俺がいつも使ってる前提で聞くのやめてくんない?」
「いやぁー様になるね。孫にも衣装だよ」
その孫不幸すぎるだろ。
「レビュー通り。星4.5だてじゃない!」
「レビューの高さの問題じゃねぇよ」
「だってさぁ、キャンプってサバイバルじゃん? 何が起こるかわからないんだから、拘束プレイの準備は必要でしょ?」
「おかしいだろ、その発想の飛躍が!」
「え? あお」
「言わせねぇよ!」
「あおか」
「言わせねぇよ!」
何を言おうとしてんだこの女。
「漫才師のネタみたいなツッコミだね」
やれやれと彼女はため息をつく。
「前、なんでもするって言ったじゃん」
ぎく。まだ、覚えていやがった。
「ほんと嘘つきだよねー」
「……」
「少子化ポリスウーマンの羞恥心。コスプレ手伝ってってお願いしたのにさぁー」
タイトルからして、同人誌。
こんな、お願い聞けるわけがない。
ふと、先日の罰ゲームを思い出す。
『王様ゲェェーム』
それは、下宿先、「水明荘」での出来事だった。