それぞれの自己紹介を終え、次の話題へと進めることにした。
燐は、先程よりは幾分落ち着いた様子だが、まだ沈んだ顔で俯いていた。
私は、単純に疑問であった事を、天鳳の爺さんに尋ねる。
「そういえば、統括鬼霊対策室ってどこに置くんですか?」
関西と関東の間の中部地方か? とれとも、やはり東京か?
「その件だが、統合鬼霊対策室は、本来再編成後に、関西方面鬼霊対策室が利用する予定であったフロアを使ってもらう」
本来、統括対策室は設置される予定ではなかったからな。と爺さんがつぶやく。
「それ故、同じフロア内に、改めて関西の対策室を用意するつもりだ」なるほどなるほど
「で、その対策室の場所はどこですか?」
あんまり遠い所は嫌ですよと、思いながら尋ねる。
「ここの、地下だ」
「はぁ?」地下って、ここ京都御所ですよ?
「ここ一帯の地下には、緊急避難用の大型のシェルターがある。そちらを利用させてもらう」
シェルター? なんだか現実離れした話ではあるが、嘘ではないだろうから大人しく話を聞く。
「静夜殿、宇野浄階はあの場では話さなかったが、今回の再編成後から導入される新鋭の一手がある」
新鋭の一手? 鬼を吸引する掃除機でも作ったか? ゴーストバスターズみたいなやつ。
「その一手とは?」
「それは、後ほど改めて説明する。同じ装置が、関東方面鬼霊対策室にも設置している」
装置? じゃあ掃除機ではなさそうだな。残念。
「その装置とは?」
その装置を見ないことには、話が進まないと感じたので、速攻で急かして尋ねる。
「では、行こうか」無視かよ
天鳳の爺さんが立ち上がり、皆を見渡す。
それに応じるように、皆が立ち上がる。
私も立ち上がり、天鳳の爺さんを見やる。
「こっちだ」
建屋から外に出る。日は沈みかけていた。御所から出て御苑内を歩く。
舗装された道ではなく、しばらく林の間を抜けてゆく。そこに立派な蔵が現れる。
蔵の扉の右側に、取手の付いた小さな開け口があり、開くと小さな装置が現れた。
その装置に、天鳳のじいさんが顔を合わせると、「ガキッ」と音と共に、解錠されたようだった。
どうやら、目の虹彩で判断しているようだ。ハイテクなこって。
「行くぞ」と、皆を促す。
蔵に入ると、早速目の前に近代的な装置が現れる。エレベーターだ。
天鳳のじいさんが、エレベーターのボタンを押すと、すぐに扉が開く。
皆が乗り込み扉が閉まると、ゆっくり降下を始める。
「こんなんあったんや……」
ドン引きモードが再度発動しようとした時に、目的の階層に到着したようだった。
エレベーターの扉が開き、目の前に広いホールのような場所に出る。
「こっちだ」
天鳳のじいさんに連れられ、一つの部屋の扉を開く。
そこは、300平米程の部屋が広がっていた。
複数のデスクとPC端末が立ち並んでいる。
中でも、一番目についたのが、部屋の最奥に設置されている300インチを超える大型のモニターだった。
そのモニターの下にはいくつもの機器が並んでいた。
そんな機器の中で、一際目立つものがあった。
機器に黒色の水晶玉が埋め込まれていた。
半分は、機器に埋まり、もう半分は露出しているような状況だ。
巨大なトラックボールのようだった。
「あれは?」それを指差し尋ねる。
天鳳の爺さんは、軽く頷くと、「あれが一手だ」と答える。
皆で、装置の前まで移動する。改めて見ると通信用の無線機なども設置されている。
件の機器の前まで到着すると、天鳳の爺さんが燐さんへ声を掛ける。
「燐、起動してくれ」
「わかりました」
燐が端末のボタンを押すと、大きなファンの音と共に、起動が開始される。
しばらくすると、起動が完了しモニター上に日本全土の衛星画像が表示される。
「これは、愛宕日ノ舞大社と自衛隊が共同で開発した、鬼霊探索システム『
「鬼霊探索?」
「ああ、これを使用する事で、鬼の位置がすばやく把握できる」まじですか……
「と、言いたい所だが、そうもうまくは行かない。見ていろ」
黒い水晶玉に手を添える。爺さんが霊相を開放したのがわかった瞬間だった。
画面上に、いくつかの赤い点が表示される。
位置的に、島根県あたりに五箇所、山口県に三箇所、大分県に三箇所
あとは西日本の各県に一.二箇所程度の赤い点を確認できる。
「あの点は?」
「あれは、儂の霊相に反応した鬼の位置だ」
「!? そんなんわかるんですか?」
「正直な話、霊相によって相性があるみたいでな、現状そこまで正確には探索できてない」
どうやら、調べる人によって、結果が変わって出てくるらしかった。
そこに鬼がいることは、間違いないようだが、霊相の相性によって結果も変わってくるようだった。
「静夜殿、やってみるか? ただ、だいぶ霊相持っていかれるぞ」
「あの、私を統括室長にしたのって、これの為ですか?」
「まあ、せやな。宇野浄階は、静夜殿なら天網を使いこなせると考えている」
「…………」
燐や蓮葉、各管轄室長が見守る中で、私は機器の前に立つ。
手を黒い水晶に添えた瞬間、大量の霊相が持っていかれるのがわかった。
頭の中に、真っ暗な空間が広がり、その暗闇から少しずつ星のような光が増えていく。
数秒もすると、その光の数は百を超えていた。そして目を開け画面を見やる。