目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

共同生活 一


 天網から離れ、皆の元へ戻る。皆の顔を見ると、感情は様々な様だった。

只々驚くもの、ため息をつくもの、穏やかに笑うもの、顔を紅潮させるもの。


 眼鏡を懐のポケットから取り出し掛ける。

ポリポリと頭を掻きながら「ははは……」と苦笑いを浮かべる。


 天鳳の爺さんが、再びため息をつき、呆れた顔で皆に伝える。

「まあ、色々言いたい事はあるが、ひとまず出るぞ。燐は、先程の天網の探索結果を、西方の対策室と新設される九州沖縄の対策室へ共有しておけ」


「はい、わかりました」顔を紅潮させていた燐が、顔を引き締め答える。


 燐が天網の隣にある端末に近づき、慣れた手付きで操作している。

先程の情報を、西方鬼霊対策室と新しく設立される九州沖縄鬼霊対策室へ送信している様だった。


「完了しました」

「では、出るぞ」


 対策室から出て、エレベーターへ向かいながら天鳳の爺さんに尋ねる。

「新体制は、いつから運用されるんですか?」

「うむ、そうやな。まだ色々準備があるからな、9月の中頃といったところだろう。発足式はここで行う予定だ」


 どうやら本格的に動き出すまで、まだ3週間ほど時間がかかるようだ。

「そういえば。私って通勤とかどうするんですか? 自宅からの通勤?」電車通勤かな?

「特に考えてはいなかったが、車の迎えを出すか?」

え……あのセンチュリーですか……? どこの重役出勤ですか。


「こちらで住居を借りても問題ないぞ。手当で家賃はかからない」まじですか、やべーですね。


 エレベーターで地上へ戻る。蔵から出ると、日は暮れていた。

どうやらこれで本日は解散らしく、やっと帰れるわと待機している車へ向かう。


「あの……、静夜様」


 後ろから声を掛けられる。振り向くと燐が立っていた。

「京都にお住まいになられるのであれば、私を側に置いて頂けませんでしょうか?」はい?

燐が、意味の理解できない提案を持ち出してくる。何? 同棲するって事? まじ?


「どゆことっ!?」


 盛大に動揺しながら、燐へ尋ねる。

「今後、統括対策室長の補佐役として、静夜様の身の回りのお世話を……」カァァァ……

いやいやいやいやいやいやいやいや、なんだよその展開は、ラブコメやないか。

もうこちら四十手前の、ほぼ無職やで? まぁ、新たな就職先は今日できたけど。


「実は……」ん? 何? 何?

「ここから徒歩圏内の距離に、ルームシェア専用の物件がありまして」ルームシェア?

「そちらを購入して、利用できないかと思いまして」

ブルジョワか、いやこれは経費か。 いや経費か?


「あと、できる限り早く静夜様の霊相に慣れる為にも、必要な事だと判断し進言致しました」ああ、なるほど


「あの……そんな物件の情報、どこから仕入れてきたんですか?」

私が捕まったの今日ですよ……? ドン引きモード発動か?


「役所での授与式の時と、御所の別室で、静夜様をお待ちしている時に、京都の不動産情報サイトで調べました」

行動力パないすね。もう引き込む気まんまんやん。ドン引きモート発動です。


「…………」


 ラブコメ展開なのかと思ったが、どうやらそうではないようで少し安心する。

今更、そんな甘い展開、私には重すぎる。


 二十八の時に、十年お付き合いして、結婚の約束までしていた女性にがいた。

だが、彼女の一身上の都合で振られてから、恋愛というものに一切の興味が無くなってしまった。


「まあ理屈はわかるけど、何? 二人でそこに住むって事?」

「私も、お願い致します」ん?

蓮葉が、いつの間にか燐の隣に立ち、手を上げて話に参加してきた。


「蓮葉さん? あなたも理由は同じって事でいいのかな?」

後で聞いた話だが、既に燐さんから同居の提案があったそうだ。

「はい、左様でございます。あと静夜様から指導を賜りたいと考えております」

「私も、私もお願いしますっ!!」


 指導? 人に教えるような大層なものは、私には無いんだけど。そもそも流派違うし。

まあ、鬼との戦闘技術ぐらいなら伝えることはできるかと思い、納得することにした。

伝えるのは私ではなく、サクヤだろうけど。


「わかりました。では燐さん、その物件はいつ頃に準備が整いますか?」

「はい、早速明日手続きを進めます。対策室への申請に問題がなければ、来週には入居可能だと思います」


「話は終わったか?」


 天鳳の爺さんに声を掛けられる。爺さん二人と、月季と睡蓮が少し離れた場所からこちらを見ている。

「すみません、お待たせしました」

私と、その後ろから燐と蓮葉が続き合流する。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?