「続きまして、昨日秋葉原で発生した通り魔事件について……」
テレビの画面には、真剣な表情のニュースキャスターの顔が映っている。
昨日の正午前、東京の秋葉原で通り魔事件が発生した。
付近にいた五名の男女が重軽傷を負い、二名の女性が犠牲となった。
犯人は、三十代のフリーターの男性だそうだ。
男性は我武者羅にナイフを振り回し、意味不明な事を叫んでいたという。
その後、路上で暴れているところを、警察にその場で取り押さえられ現行犯で逮捕された。
警察の事情聴取に対して、犯人は素直に質問に応じているようだが、証言がおかしかった。
「記憶がない、気づいたらこうなっていた。ナイフは秋葉原のショップで購入した」と証言しているそうだ。
昨日、私は実家の自室で、動画配信サイトのニュース速報でこの事件を知った。
そこで、気になるものを見つけた。事件現場付近でリポーターが、現在の最新の状況を報道する。
背後には黄色い規制線が張られているのだが、その奥に異形な存在が歩いているのが見える。
身長が三メートルを超える角を生やした鬼が、平然と歩いている。現場の人間には見えていないようだ。
おそらく上位の大鬼だろう。腰には大きな牛刀のようなものを刺している。
だが、正直今は大鬼にはあまり興味はなかった。
気になったのは、その肩に座っている夜叉だった。
見た目は八歳位の少年で、黒い着流しに身を包んでいる。
夜叉は肩の上から周りを見渡しながら、愉快そうに微笑んでいる。
大鬼は、複数体の鬼が集合することによって発生し、再構築されることによって生まれる物の怪である。
そして大鬼や、大鬼の上位にあたる獄鬼を複数体使役し、厄災を招くのが夜叉である。
夜叉の発生事例は、現代ではかなりめずらしい。
詳しいことはあまりわかっていないが、最近の鬼の大量発生に関わっているのは間違いないだろう。
ハクとコウを飛ばすか迷ったが、夜叉は流石に未知数な点もまだ多い為、やめておいた。
とりあえず、すぐにスマホを取り出し、連絡先を聞いておいた堂上月季へ連絡を取り報告だけしておく。
「わかりました。早急に確認します。夜叉がいるなら簡単には手出しできないかもしれませんが……」
月季はそう言うと、ため息をはく。
「そうですね。慎重に行動した方がいいと思います。見た感じ只者じゃないです」
「そうですか。ご助言感謝します」
「しかし、蓮葉が明日からそちらへ向かうことになってますが、少し遅くなるかもしれないですね」
「ああ、そうですね」
しばらくお互いの現状を報告し、電話を切って再びニュース速報を見やる、既に画面は切り替わっていた。
そんな事があり、現場の映像がまた映るかと思い、定期的にニュース番組をチェックしていた。
しかし、事件現場の映像は流れるが、あれ以来鬼を見る事はなかった。
「静夜様、お先にお風呂いただきました」
燐がリビングへ姿を現す。
女性陣二人が入浴を終えたのを確認し、私も風呂へ入る事にした。
湯上がりの女性は乙なものだなと、沁沁と感傷に浸りながら着替えを用意する。
脱衣所へ入り、必要ないだろうが鍵を閉めてから衣類を脱ぐ。
浴室へ入ると、四、五人は楽に入れそうな大きな浴槽が現れる。
「でかっ!!」
風呂から出ると、部屋へ戻り缶ビールを飲みながらPCの個人設定を行う。
設定が一通り完了したので、電源を落とし歯を磨きベットへ横たわる。
程よい酔いと、疲労感で瞼が重くなる。ふと、まだ湿っている髪を触りつぶやいた。
「やっぱ女性と風呂共用って、気遣うわぁ……」