休憩を終え、三人で芝生広場の中心へ移動する。
まだ時間も時間なので、広場に人は誰も居ないようだった。
念の為に、人払いと認識阻害の結界を張っておく。
「ハク」
己の中に呼びかけ、ハクを呼びだす。
「はい」ハクが姿を現すと同時に、女性二人の体が強張る。
「人払い頼むわ、サクヤ呼ぶから」
「わかりました」
ハクが、白い羽衣を生成し、それが上空に舞い芝生広場を覆ってゆく。
十秒もすると、完全に広場が包まれた。
これで、一般の人が広場に近づく事はないだろう。
「すごい……」
蓮葉が驚嘆の声を上げる。
「ハクありがとうな、しばらく維持で頼むわ」
「はい」ハクの姿が見えなくなる。
「サクヤ」
己の中にいる、恐い人を呼びだす。
「なにか用ですか?」
凛とした力強くも華やかな声が、燐たちの後ろから響く。
背後には、ひとりの女性が立っていた。
「え!?」二人が振りむいて、驚き後ずさる。
「サクヤ、出番やで」というと、サクヤはニコニコしながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
私の目の前まで近づいてくると、「ふんっ!!」といきなりボディブローをかましてきた。
「ごぉふぉっ!!」体がくの字に曲がる。
「「えぇぇぇっ!!」」燐と蓮葉が驚き声を上げる。
呼吸ができずしゃがみこむ。サクヤからの久々の一撃だった。
修行時には、嫌と言うほど食らったが……、相変わらずとんでもないボディブローやな。
顔をあげると、未だにニコニコしながらサクヤが私を見おろしてくる。
「なにか用ですか?」
「…………お力を貸してください。サクヤ様」
深緑の森の様な、鮮やかな髪色をした女性。
絹のように滑らかで光沢のある長い髪には、桜の髪飾りが揺れていた。
薄い朱色を基調に赤色をあしらった衣に、桜の柄を散りばめた山吹色の羽織を纏っている。
顔立ちもとても見目よく、本人からは花の甘い香りが漂っている。
齢は不明だが、見た目は二十代で通用するほど若くみえる。
「で、静夜? 私に何をさせるつもりですか?」
しゃがみこんでいる私に、手を差し出し立たせる。
「久しぶりに静夜から呼び出されたと思ったら、女性達とちちくり合ってるし……」
「なんでやねん」速攻でツッコんでおく。
どうやらサクヤ様は、ご機嫌斜めなようである。まぁ、いつもやけど。
「サクヤには、この二人に稽古つけてあげてほしいねん」
「稽古? 私が? なぜですか?」
今回呼び出した理由を、サクヤに大まかに説明する。
サクヤも、今は私と半身を同化している為、現在置かれている大方の状況を理解はしている。
「そうですか。でもね静夜、いつも言っていますけど、私は戦闘よりも治療が主な……」
「バーサクヒーラーやん」再び殴られ、吹っ飛び倒れこむ。
「「…………」」
顔をさすりながら起き上がり、燐と蓮葉を見やる。
「こちらが、お二人の相手をしてもらうサクヤです。私の式の中では、一番戦闘を得意としています」
二人にサクヤの事を紹介していると、サクヤが後ろから尻を蹴りあげてくる。痛いから下駄で蹴らないで。
サクヤは諦めたのか、ため息を付きながらも応えてくれるようだ。
「はぁ……まぁいいです。お相手してあげます。ですが、わたしは厳しいですよ?」
女性陣は若干引いている様で、まだ少し離れた位置で立ち尽くしている。
まあ当然の反応だろう。自分が使役している式に殴られ、足蹴にされているのだから。
だが、サクヤは他の式とは別格なのである。式と呼称してはいるが、彼女は式ではない。
「ふたり共、遠慮なく殺すつもりでやってください。本気の実力を見たいので」
私はそう述べてから、煽るように言った。
「ふたりではどう足掻いても、絶対に殺せませんから。たぶん傷一つ付けれないでしょう」
「!?」燐が目を見ひらく。
「…………」蓮葉は黙ってサクヤを凝視している。
二人は、今まで東西それぞれの対策室の室長補佐をしてきた強者といえる。
矜持もプライドもあるだろう。特に、燐は元分家とはいえ四輝院家の当主である。
二人の表情が引き締まり、霊相が開放される。
「サクヤは、相手に大怪我させない程度で頼むわ」
そう言いながらサクヤをみやる。
サクヤは、既にやる気満々なのか、黙って微笑んでいる。
さっきまで、嫌そうにため息までついてたのに。このバーサクヒーラーめ。
「…………」
やりすぎないか不安である。まあ治療はできるけど……あのバーサクヒーラーが。
「おふたりさん、いらっしゃい」サクヤが微笑みながら手招きする。
二人が近づき、サクヤと対峙する。
「よろしくお願いします」と燐が頭をさげる。
「ご覚悟を」蓮葉は、未だにサクヤを凝視していた。
ふたりは距離を取り、各々得物を取りだす。
燐は、右手に付けている腕輪から輝刀を生成し、腰を下げ構える。
蓮葉は、腰のポーチから小さな黒い水晶玉と、御札を複数枚取り出しす。
わたしは、双方の準備ができた事を確認し、開始の合図をおくる。
「はじめっ!!」