目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

咲耶 三


四輝院家しこういんけ


 四国を拠点とし、室町時代からつづく、祓い屋の一族である。

元は都で守護についていたが、帝の勅命で四国地方の守護に就く。

刀や槍にとどまらず、薙刀や弓など、さまざまな武具を扱うことに長けている。


 自らの霊相から霊具を介して、武具を生成する事が可能だとされている。

そして、新たな当主となった燐が使用している輝刀、[明翠燐光めいすいりんこう]もそのひとつである。


 四輝院の本家は、百年前に羅刹によって凄惨な被害を受けた。

そのとき、当時の当主も討ち死し、四輝院家は壊滅寸前となる。


 しかし、それを分家である濱元家の燐の先々代から、さらに先代にあたる曽祖父が立てなおす。

その後は、形式的に濱元家が本家として四輝院家を引き継ぐ事となり、順調に体制を取りもどすことができた。


 だが、その孫である先代の燐の父親も、九十八年後となる二年前に、羅刹によって殺されてしまう。



鬼戸家きどけ


 東北地方の山間部にある小さな集落で、ひっそりとかくれるように暮らす、小さな祓い屋の一族である。

その歴史は長く、古き平安時代にはすでに存在しており、当初は呪術での暗殺を生業にしていたという。


  そんな一族には、特別な特徴がある。

祓い屋とは別に、【鬼戸神依きどかむい】という技術者集団の顔をあわせ持っている。


 鬼戸一族によって今までに、数おおくの呪具や呪物が制作されたのである。

そして、蓮葉が使用する小さな水晶玉と呪符の札で構成される呪具[獄札門ごくさつもん]。

これは、蓮葉が自らの手で制作したものだそうだ。


 現在は、東北北海道方面鬼霊対策室の室長であり、睡蓮の名をかざる鬼戸睡蓮が当主である。



◆◇◆◇




 燐の持つ輝刀の光が、どんどん輝きを増してゆく。

鮮やかな翡翠色をした刀身が、同色の綺羅びやかな燐光を纏いはじめる。

燐が待つ[明翠燐光]は、古くから四輝院家の当主へ、代々受けつがれてきた。


 戦闘のスタイルとしては、直接相手へ斬撃を与えることが、主な攻撃方法である。

だが、輝刃は刀身の長さを調整することが可能である。それ故に、スタンスにバリエーションが生まれる。

そして、霊相を大きく消費することとなるが、刃を真空波のように、飛ばすことも可能なのだそうだ。


 しかし何度見ても、とても美しい刀だと見る度におもう。まだ二度目やけど。

もちろん、それを使いこなせれば、尚ええんやけど……。

次に、蓮葉へと視線を移す。


 左手には、掌に収まるサイズのの黒い水晶玉を握っている。

そして、右手には数枚の呪符の札を、指に挟んで持っているのがみえる。


 蓮葉が使用する呪具[獄札門]は、蓮葉が自ら制作した呪術具らしい。

数種類の術を発動する札を所持し、状況にあわせて対象者へ飛ばしたり、罠として設置することが可能らしい。

そして、水晶玉へ霊相を送ることによって、己のタイミングでの発動が可能なのだそうだ。


 起こせる現象はさまざまだそうだが、まだ見たことがないので未知数である。

どちらも、シェアハウスでの共同生活初日に、ふたりから実物を見せてもらった情報である。


 サクヤが只者ではないことは、ふたりは既に本能的に理解しているのだろう。

油断はないようにみえる。そろそろ、燐が動きそうやな。

燐が、刀を構えた状態で、さらに腰を落とし一気に飛びだす。


「だんっ!!」


 三メートル程あった合間が、一気に縮まる。

一撃で終わらせるつもりなのだろう、躊躇のない本気の横薙ぎを繰りだす。


 サクヤは、微笑みながら軽く後ろへ跳び、寸のところでそれを躱す。

燐は止まることなく、さらに踏み込み、強烈な縦一文字を放つ。

サクヤは、それを体をくるりと九十度回転し、余裕で躱してしまう。


「まだまだっ!!」


 それからしばらく燐の連撃が続くが、サクヤは微笑みながら、それをことごとく躱しつづける。

燐の横薙ぎに対して、サクヤが大きく空中へ跳ぶ。


 そこへ、燐が好機とばかりに、袈裟斬りと同時に、翡翠色の光の刃を飛ばす。おお……かっけぇ……

しかし、それをサクヤは、まるで地面に足がついているかのように、体を反らして刃を躱してしまう。イナバウアーかよ。

「!?」燐の顔から驚きが出てしまう。


 トンッと、サクヤが地面へ降りてくると、同時に燐が再び走りだす。

その時、サクヤの頭上から、紫色をした光の柱が現れる。

直後、直径一メートル程の光柱が、サクヤを包みこむ。


「これは……」サクヤから、微笑みが消えた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?