「次からは、私も攻撃します。覚悟してください」
そういって、サクヤは歩きだし、二人から距離を取る。
次の手合わせからは、サクヤも手を出すみたいやな。
やりすぎんとええけど、念の為に声をかけておく。
「ほんまに、やり過ぎんなよ?」心配になる。
「死なない程度に、遊んであげます」
物騒な……さすがバーサクヒーラー。
サクヤが、扇子を取り出し、優雅な作風で首元に構える。
燐が居合の構えを取る。蓮葉は、ポーチから札を補充し構える。
サクヤが、ふたりへ真っ直ぐに突っこむ。
蓮葉が札を飛ばし、それが複数の紫炎の針となり、サクヤへと放たれる。
サクヤは、それを器用にかわして、燐の方向へ距離を詰める。
燐の持つ刀の刀身が、一瞬にして倍に伸びる。
それにより、刀の間合いと、閃撃のタイミングが変更される。
一歩踏み込み、強烈な一閃が放たれる。
しかし「キンッ!!」という音とともに、サクヤはそれを扇子でゆうゆうと受けとめてしまう。
「くっ!!」燐が、顔をしかめる。
サクヤが、踏み込み中段蹴りを放つ。
燐は、それを寸のところで後ろへ跳んで躱す。そこへ蓮葉によって、再び重力柱が発動される。
そのタイミングで燐が、刀身を元へ戻し、袈裟斬りを放つが、やはり扇子で受け止められ、刃が通ることはなかった。
その後は、しばらく乱打戦が続くが、二人からの攻撃が、サクヤへ当てることは敵わなかった。
サクヤは手加減しながらも、扇子を閉じた状態で攻撃し、二人へ的確にダメージを与えていく。
二人は、一度サクヤから距離を取る。
「強すぎる……攻撃が当たる気がしませんね……」
燐が、歯をギリッっと食いしばる。
「どう考えても、桁が違いますね……」
半ば呆れたように、蓮葉がつぶやく。
「さて、そろそろ一度終わらせましょうか。休憩も必要でしょうから」
サクヤが微笑んで、そろそろ二人を一度伏すと宣告する。
それを聞いた燐が、再度居合の構えを取る。
蓮葉が、指に複数枚の札を纏めて指に挟む。
サクヤは、先程と同じように、二人へと真っ直ぐに突っこむ。
蓮葉が、三枚の札を同時に放ち発動させる。
扇状に紫炎の矢が、複数本放たれる。
サクヤは、上空へ飛びそれを躱す。
そこへ燐が、居合の構えから翡翠の刃を放つ。
サクヤが初めて扇子を開き、ふたりへ向けて大きく扇を振った。
それにより、途轍も無い暴風が発生し、放った刃が粉砕される。
ふたりは、飛ばされないように腰を落とす。
暴風によって視界を一瞬奪われてしまったふたりが、あわてて上空を確認する。
サクヤは、上空に留まり佇んでいた。
「え? 浮いてる?」燐が驚き声を上げる。
「静夜様の式なら、飛んでもおかしくないと思います。ですが、あれはおそらく防御障壁を兄元に生成して、足場にしているのでしょう。普通は、重力に逆らえずに落ちますけど」
蓮葉が、分析した結果を燐へ伝える。
「なるほど、そんな使い方もあるんですね」
攻撃タイプの燐は、素直に感心しているようだ。
その時だった、ふたりの足元の芝生の草が、急激に成長し両足を絡めとる。
「「!?」」
ただの雑草とは思えない程の力で、ふたりの両足を拘束し、下半身の身動きが取れなくなる。
蓮葉が、驚き足元をみて、拘束する草を引きちぎろうとする。
「蓮葉さんっ!!」燐が叫ぶ。
声に反応した蓮葉が、あわてて顔を上げる。
目の前に、サクヤが微笑みながら立っていた。
「くっ!!」手に持つ札を、放とうと腕を上げる。
サクヤが、それを左手で掴んで動きを止める。
そして右手を、蓮葉の鳩尾へ撫でるように添える。
「ドンッ!!」という音と共に、とてつもない衝撃の波が蓮葉を襲う。
足元を、草により拘束されているため、衝撃を受け流す事ができずに、全衝撃を内臓に食らってしまう。
「ガハァッ!!」と、蓮葉が崩れ落ち、悶絶する。
ああ、手加減しているとはいえサクヤの勁をモロに食らってしもうたな。あれではしばらく動けへんな。
「何、今の……」
サクヤが、一瞬で留まっていた上空から、ノーモーションで蓮葉の目の目へ移動したのが、理解できないようだ。
おそらくは、足場の障壁と同じものを、蓮葉の方向へ直角に生成し、踏み台にしたのだろう。
燐が、あわてて足元の草を刀で切り、己の体制を整える。
ああ、あれ霊体以外も切れるんや。便利やな、どういう仕組なんか明日聞いてみよう。
サクヤが、ゆっくりと微笑みながら、燐へと歩いてゆく。優雅なその立ち振舞は、姫様そのものだった。
燐が刀身を伸ばして、横薙ぎに振るう。それをサクヤは、再度上空へ跳んで躱す。
そこへ、燐が上空へ全力の翡翠の刃を放つ。しかし、サクヤはそれを蹴りで粉砕する。
「蹴り……嘘でしょ……」燐が愕然とする。
(まずい……蓮葉さんの時と同じように、一瞬で距離を詰めてくるっ)
すぐに後ろへ飛び、サクヤから距離を取ろうとする。しかし、背中に硬い何かが当たる。
「え?」
うしろを振りむくと、そこには、ありえない現象が起きていた。
つい先程までは、そこにはなかった立派な樹木が、不自然に生えていた。
「…………」
燐は、あまりの事象に、呆然とすることしかできないようだ。
そんな燐が前をむくと、サクヤが微笑み、目の前に立っている。
「はは……」燐は、あまりに実力の差がありすぎて笑ってしまう。
あわてて横へ移動しようとするが、サクヤに襟元と腰を捕まれ動けない。
「休憩しましょうか」
サクヤがそう言うと同時に、燐は見事な背負投げを食らい、背中から地面へ落下する。
「ガァッ!!」燐が悶絶し震えている。
あまりにも流動的な素早い投げだったため、燐はどうやら受け身は間に合わなかったようである。
サクヤが、私をみやり扇を開く。己を仰ぎながらいった。
「静夜、休憩しましょう」
「そうやな。サクヤは、ふたりをある程度戻してあげて」
私は倒れているふたりをみやり、サクヤへふたりの治療をお願いする。
サクヤも、同じくふたりを見やる。
「そうですね」
扇子を、燐と蓮葉へ振るう。すると、穏やかな風と共にふたりの傷が消えてゆく。
「すごい……痛みが引いていく……」燐が、驚いてあわてて体を起こす。
「あなたは、本当に何者なのですか……常軌を逸しています……」蓮葉が、服を叩きながら立ちあがる。
そんなサクヤは、「ふふんっ」と微笑みながら、胸を張り答えた。
「神様ですっ!!」
序章 完