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咲耶 五


「次からは、私も攻撃します。覚悟してください」


 そういって、サクヤは歩きだし、二人から距離を取る。

次の手合わせからは、サクヤも手を出すみたいやな。

やりすぎんとええけど、念の為に声をかけておく。


「ほんまに、やり過ぎんなよ?」心配になる。

「死なない程度に、遊んであげます」

物騒な……さすがバーサクヒーラー。


 サクヤが、扇子を取り出し、優雅な作風で首元に構える。

燐が居合の構えを取る。蓮葉は、ポーチから札を補充し構える。

サクヤが、ふたりへ真っ直ぐに突っこむ。


 蓮葉が札を飛ばし、それが複数の紫炎の針となり、サクヤへと放たれる。

サクヤは、それを器用にかわして、燐の方向へ距離を詰める。


 燐の持つ刀の刀身が、一瞬にして倍に伸びる。

それにより、刀の間合いと、閃撃のタイミングが変更される。

一歩踏み込み、強烈な一閃が放たれる。


 しかし「キンッ!!」という音とともに、サクヤはそれを扇子でゆうゆうと受けとめてしまう。

「くっ!!」燐が、顔をしかめる。


 サクヤが、踏み込み中段蹴りを放つ。

燐は、それを寸のところで後ろへ跳んで躱す。そこへ蓮葉によって、再び重力柱が発動される。

そのタイミングで燐が、刀身を元へ戻し、袈裟斬りを放つが、やはり扇子で受け止められ、刃が通ることはなかった。


 その後は、しばらく乱打戦が続くが、二人からの攻撃が、サクヤへ当てることは敵わなかった。

サクヤは手加減しながらも、扇子を閉じた状態で攻撃し、二人へ的確にダメージを与えていく。


 二人は、一度サクヤから距離を取る。

「強すぎる……攻撃が当たる気がしませんね……」

燐が、歯をギリッっと食いしばる。


「どう考えても、桁が違いますね……」

半ば呆れたように、蓮葉がつぶやく。


「さて、そろそろ一度終わらせましょうか。休憩も必要でしょうから」

サクヤが微笑んで、そろそろ二人を一度伏すと宣告する。


 それを聞いた燐が、再度居合の構えを取る。

蓮葉が、指に複数枚の札を纏めて指に挟む。

サクヤは、先程と同じように、二人へと真っ直ぐに突っこむ。


 蓮葉が、三枚の札を同時に放ち発動させる。

扇状に紫炎の矢が、複数本放たれる。

サクヤは、上空へ飛びそれを躱す。


 そこへ燐が、居合の構えから翡翠の刃を放つ。

サクヤが初めて扇子を開き、ふたりへ向けて大きく扇を振った。

それにより、途轍も無い暴風が発生し、放った刃が粉砕される。


 ふたりは、飛ばされないように腰を落とす。

暴風によって視界を一瞬奪われてしまったふたりが、あわてて上空を確認する。

サクヤは、上空に留まり佇んでいた。


「え? 浮いてる?」燐が驚き声を上げる。

「静夜様の式なら、飛んでもおかしくないと思います。ですが、あれはおそらく防御障壁を兄元に生成して、足場にしているのでしょう。普通は、重力に逆らえずに落ちますけど」


 蓮葉が、分析した結果を燐へ伝える。


「なるほど、そんな使い方もあるんですね」

攻撃タイプの燐は、素直に感心しているようだ。


 その時だった、ふたりの足元の芝生の草が、急激に成長し両足を絡めとる。


「「!?」」


 ただの雑草とは思えない程の力で、ふたりの両足を拘束し、下半身の身動きが取れなくなる。

蓮葉が、驚き足元をみて、拘束する草を引きちぎろうとする。

「蓮葉さんっ!!」燐が叫ぶ。


 声に反応した蓮葉が、あわてて顔を上げる。

目の前に、サクヤが微笑みながら立っていた。

「くっ!!」手に持つ札を、放とうと腕を上げる。


 サクヤが、それを左手で掴んで動きを止める。

そして右手を、蓮葉の鳩尾へ撫でるように添える。


「ドンッ!!」という音と共に、とてつもない衝撃の波が蓮葉を襲う。

足元を、草により拘束されているため、衝撃を受け流す事ができずに、全衝撃を内臓に食らってしまう。


「ガハァッ!!」と、蓮葉が崩れ落ち、悶絶する。

ああ、手加減しているとはいえサクヤの勁をモロに食らってしもうたな。あれではしばらく動けへんな。


「何、今の……」

サクヤが、一瞬で留まっていた上空から、ノーモーションで蓮葉の目の目へ移動したのが、理解できないようだ。


 おそらくは、足場の障壁と同じものを、蓮葉の方向へ直角に生成し、踏み台にしたのだろう。

燐が、あわてて足元の草を刀で切り、己の体制を整える。

ああ、あれ霊体以外も切れるんや。便利やな、どういう仕組なんか明日聞いてみよう。


 サクヤが、ゆっくりと微笑みながら、燐へと歩いてゆく。優雅なその立ち振舞は、姫様そのものだった。

燐が刀身を伸ばして、横薙ぎに振るう。それをサクヤは、再度上空へ跳んで躱す。

そこへ、燐が上空へ全力の翡翠の刃を放つ。しかし、サクヤはそれを蹴りで粉砕する。


「蹴り……嘘でしょ……」燐が愕然とする。

(まずい……蓮葉さんの時と同じように、一瞬で距離を詰めてくるっ)

すぐに後ろへ飛び、サクヤから距離を取ろうとする。しかし、背中に硬い何かが当たる。


「え?」


 うしろを振りむくと、そこには、ありえない現象が起きていた。

つい先程までは、そこにはなかった立派な樹木が、不自然に生えていた。


「…………」


 燐は、あまりの事象に、呆然とすることしかできないようだ。

そんな燐が前をむくと、サクヤが微笑み、目の前に立っている。


「はは……」燐は、あまりに実力の差がありすぎて笑ってしまう。

あわてて横へ移動しようとするが、サクヤに襟元と腰を捕まれ動けない。


「休憩しましょうか」


 サクヤがそう言うと同時に、燐は見事な背負投げを食らい、背中から地面へ落下する。

「ガァッ!!」燐が悶絶し震えている。


 あまりにも流動的な素早い投げだったため、燐はどうやら受け身は間に合わなかったようである。

サクヤが、私をみやり扇を開く。己を仰ぎながらいった。


「静夜、休憩しましょう」

「そうやな。サクヤは、ふたりをある程度戻してあげて」


 私は倒れているふたりをみやり、サクヤへふたりの治療をお願いする。

サクヤも、同じくふたりを見やる。


「そうですね」


 扇子を、燐と蓮葉へ振るう。すると、穏やかな風と共にふたりの傷が消えてゆく。

「すごい……痛みが引いていく……」燐が、驚いてあわてて体を起こす。


「あなたは、本当に何者なのですか……常軌を逸しています……」蓮葉が、服を叩きながら立ちあがる。

そんなサクヤは、「ふふんっ」と微笑みながら、胸を張り答えた。



「神様ですっ!!」



序章 完



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