-関東方面鬼霊対策室-
「すごい……獄鬼を一瞬で。あの短刀なんなんですか……」
関東方面鬼霊対策室の、天網のモニターを見ている燐が、驚愕の声を上げる。
「自由に動けない獄鬼なら、あれぐらいは当然です」
蓮葉が平然と答える。何故か、勝ち誇った表情をしている蓮葉を、燐が訝しげに見やる。
「あの短刀は、母様が制作した呪刀【
「ほうほう、それはすごいですね」燐が素直に感心している。
再度モニターを見ると、各部隊による大鬼の殲滅も完了しているようだった。
私は、濡れタオルを頭から取り椅子へ座り直す。霊相も先程よりは幾分回復し、体調も落ち着いてきた。
先程までずっとオロオロしていた千草も、今は私の隣に座って画面を見つめている。
「睡蓮さん、任務進行に問題はありませんか?」私は、睡蓮に状況を尋ねる。
「はい、問題ありません。それと静夜様、睡蓮とお呼びください」
「あ、はい」先程は、霊相切れで切羽詰まって呼び捨てにしてしまったが、どうやらその方がいいらしい。
「では睡蓮、隊列を立て直し前進を再開してください。おそらく、次が正念場になります」
正直、関東からの援軍を待ちたい所ではある。
だが、獄鬼をこのペースで屠ることができるのであれば、進軍するべきだろう。
霊相もそこそこ回復してきたので、白が紅を送るか考えたが、隊員達に影響がでる可能性があるので諦めた。
「承知致しました」
睡蓮の指示で部隊が前進を再開する。私は蓮葉に指示し、画面を頂上付近に集中させる。
頂上付近では、四体の獄鬼が争い合っているのが確認できる。
その他、峰の反対側から獄鬼となった鬼が、峰を登って来ているのが確認できる。
「あと一回ぐらい、探索した方がいいかもしれませんね」そう言って立ち上がると、二人が私へ向き直る。
「ダメですっ! これ以上は危険ですっ!」燐が怒りを表し反対する。
「燐の言う通りです。現状、鬼の位置は把握できています。無理はなさらないでください」
蓮葉も心配そうに私を見てくる。
燐が、目に若干の涙を溜めて、怒りの表情で私の前に立ちはだかる。
その鬼気迫った表情に、ヘビに睨まれたカエルの如く動くことができない。
「あうあう……」千草が再びソワソワしはじめる。
「……わかりました。もう少し養生しましょうか」大人しく椅子へ座り直す。
現状の鬼の数を確認すると、鬼百二体、大鬼四十二体、獄鬼六体とのことだった。
あくまで千里眼での目視での探索になる為、正確な数とは言えない。蓮葉に次の対敵までの時間を確認する。
「大鬼もほとんどが頂上付近にいますので、鬼を駆逐しながら進んで二十五分から三十分でしょうか」
「わかりました」机上にある冷めたコーヒーを啜り、頭の中を整理する。
三度目の天網探索から、獄鬼の数が三体しか増えていないのが気にかかるが、まずは殲滅を優先したい。
「静夜様、よろしいでしょうか? あれ、なんでしょうか?」
燐が、千里眼が映し出した画面の一点を指差している。
私と蓮葉も、燐の指の先を見る。
獄鬼が、四体争い合っている近くの地面に、異様な形の木彫りの杭が刺さっていることに気づく。
蓮葉が、拡大した映像を映し出す。
それが、木彫りの長さ七十センチメートル程の杭であることはすぐにわかった。
だが、形があまりにも異様で、鬼を模倣しているようにも見える。
「なんでしょう。杭が打ち込まれているのはわかりますが、呪術具でしょうか?」私は蓮葉を見る。
「なんとも言えません。ですが、あれがこの異常な周期で、大量の鬼を呼び寄せているのは間違いないと思います」
鬼を模した杭の周りで鬼たちが喰らいあっているのだ、関係がないわけがないわな。
「あれは仏具でしょうか? 木彫りの杭像となると、それぐらいしか考えられません」
蓮葉が、画面にかじりつくように凝視している。仏具? 仏教関連の道具なのだろうか?
「もしも、あれが鬼を呼んでいるのであれば、早急に破壊した方がいいかもしれませんね」
私は、再度蓮葉を見やり確認する。
木像とのことなの、物理的な破壊方法しか取れない為、こちらでは手が出せない。
「そうですね、部隊へ情報共有しておきます」蓮葉が、睡蓮達へ情報を送っている。
木製の鬼を模した杭。どうみても厄災を招きそうな禍々しさを感じてしまう。
なんだか嫌な予感が、胸に埋めきはじめていた。
-早池峰山頂付近-
早池峰の山道を進む睡蓮の端末に、木像杭の情報が送信される。
睡蓮が、送られた木像杭の画像を確認する。
「………見た目は異常で禍々しいですが、仏具ですね。蓮葉補佐、聞こえますか?」
通信で蓮葉を呼び出す。はい、と通信機の向こうから蓮葉の声が響く。
「指示通り、木像杭を優先的に破壊します。もう少し正確な位置情報を送ってください」
「わかりました。獄鬼が集中している箇所になります。慎重に行動してください。詳細を送ります」
端末に、追加の情報が送られてくる。
あと十五分も歩くと、目的の地点に到着する事がわかる。
十数分後、部隊がが山頂の手前百メートルの地点へ到着した。その位置からでも杭を確認する事ができた。
「静夜様、山頂へ到着致します。指示をお願いします」静夜様へ指示を仰ぐ。
「理解はしていると思いますが、絶対に死者は出してはいけません。危険だと判断したら、即時撤退してください」
「承知しております」
静代様から、声色の真剣味が一層増した声が伝わる。
「そして、もしどうしても隊員の人命に危害が加わると判断した場合は、必ず私を呼んでください」
「静夜様……?」意味が少し理解ができずにいると
「もしもの時は、私が必ず助けます。私は、その為に此処に立っています。そこだけは信用してください」
「承知致しました。蓮葉、最新の情報を共有してください」蓮葉へ指示を出す。
はい、と蓮葉が最新の情報を部隊へ共有する。
現在、頂上では六体の獄鬼が争い会っており暴風の様な風が発生していた。
それによって大量に落石が発生し、足場が不安定になっていた。
獄鬼を囲むように大鬼や鬼が屯しているが、特に大きな動きはないようだった。
「では、行きます。私が動きを制限します。丙は杭の破壊を優先して、その後は獄鬼を滅してください」
「承知っ!」各部隊には、大鬼の殲滅を指示し、皆が行動を開始する。