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11 兄姉

 命名の儀の翌日。

 あたしが目を覚ますと寝台の横に二人の子供がいた。


 子犬はいない。きっと隠れているのだろう。


「だーうー?(だれ?)」

「わふ?」


 子供に尋ねたら、寝台の下から子犬の声がした。

 自分が呼ばれたと思ったようだ。

 子犬はすぐに寝台の柵の隙間から顔を出してくれた。


「きゃっきゃ」

 子犬は可愛い。


 いや、今は子犬よりも子供たちだ。

 子供たちの髪色は銀で目は青い。つまり父と同じ色である。


「あ、起こしちゃったかな?」


 男の子は笑顔で、そして小声で語りかけてくる。


「ルリア。はじめまして。そなたの兄のギルベルトですよ〜」

「ぁぅ?(あに?)」


 兄ギルベルトは十歳ぐらいの男の子だ。

 父に雰囲気が似ているが、目元などは母によく似ていた。


「姉のリディアですよ、はじめまして」

「だぁぅ?(あね?)」


 姉リディアは、兄よりも少しだけ年下らしい。八歳前後に見える。

 髪と目の色こそ父と同じだが、顔立ちは母に似ている。

 兄も姉も母似と言っていいだろう。


「ルリアはかわいいね〜」

「ねえねえ、抱っこしていいかしら?」

「立ったまま抱っこしてはダメです。首がすわってからでなければ」


 姉が乳母にお伺いを立てて、断られていた。

 子供に首がすわっていない赤子を抱っこさせるのは危ないという乳母の判断だ。


「はい。残念ね」


 姉は心底から残念な様子で、私のほっぺをツンツンする。


「きゃっきゃ」

 なんか楽しくなってきた。


「僕も、リディアも、ルリアにはずっと会いたかったんだよ」

「でも、どうして命名の儀が終わらないと、兄姉は会ったらだめなのかしら」


 姉のリディアが首をかしげる。

 妹からみても、姉はとてもかわいらしい。


「それは精霊の加護の関係だよ。命名の儀の前の乳飲み子に兄姉が近づいたら、母にもらった精霊の加護を兄と姉が持っていってしまうんだ」

「そうなのね」

「リディアが生まれたときも、命名の儀が終わるまで近づかなかったんだ」

「にいさま、そのとき二歳でしょう? 覚えてるの?」

「もちろん」

「ほんとうかしら?」


 そういって、兄と姉は楽しそうに笑った。


 どうやら兄は幼いのに博識なようだ。

 だが、精霊の加護云々うんぬんというのは、前世のころにもあった迷信である。


 大昔に子供だけに流行った病があり、兄姉からうつされた乳児が死ぬことが多かったらしい。

 だから、このような風習が生まれたんじゃないかと、前世の精霊王ロアが教えてくれた。


 あたしは教育を受けさせてもらえなかったが、ロアをはじめとした精霊たちが色々教えてくれたのだ。


 そんなことを考えていると、乳母が兄と姉に言う。


「若様。リディアお嬢様。こちらにお座りになってください。長椅子に座った状態なら、ルリアお嬢様を抱っこしてもいいでしょう」

「「はい!」」


 兄と姉は嬉しそうに、近くにある長椅子に座る。

 すると、子犬も嬉しそうに尻尾を振りながら長椅子に乗った。

 これから遊ぶと思っているのかもしれない。


「レオナルド可愛いわね」


 姉に撫でられて、子犬が嬉しそうに尻尾を揺らす。

 レオナルドとはなんだろう? 子犬の名前なのだろうか。

 いやまさか、子犬はレオナルドという雰囲気では無い。


「若様。そっとですよ」

 乳母が寝台からあたしを抱き上げて、兄に手渡した。


「そうです。右手で首をささえてあげてください」

「はい」

「左手はお尻を支えて、あ、右のひじをまげて、ルリア様の頭を乗せてあげてください」

「はい」


 乳母の監視下で兄は壊れものを扱うように、あたしをそっと抱っこする。

 すると、子犬はあたしの匂いを一生懸命嗅いでいる。


「ふんふんふんふん」

 なぜそんなに子犬はあたしの匂いを嗅ぐのか。臭かったりするのだろうか。

 わからない。


「兄だよ、ルリア。いっぱい食べて、元気に育つんだよ」

「だあ〜」


 兄にしばらく抱っこされた後、姉に抱っこされる。


「ルリア。私が姉ですよ。あなたは妹なのです」

「だぅ?」

「妹なので可愛がってあげます。お世話して色々教えてあげます。私は姉なので」


 姉はとても嬉しそうに、何度も姉だと名乗る。

 妹が産まれたことが嬉しいのかもしれなかった。


「ルリア。いじわるされたら姉が守ってあげますからね」

「あ、ルリアを守るのは兄である僕の役目だよ」

「だーうー」


 仲の良さそうな兄と姉の会話を聞いていると嬉しくなった。

 前世は一人っ子だった。

 従兄姉はいたが、彼らには苛め抜かれたのでいい思い出はない。


 姉に優しく揺らされていると、安心して眠ってしまったのだった。

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