兄の剣術の練習を見て、鳥たちに囲まれた日の夕食後。
あたしは居間で父のひざの上で抱っこされていた。
周囲には母と兄姉、そしてダーウがいる。
「とーさま! おねがいがある!」
「お願い? どんなことかな?」
「けんじゅつをれんしゅうする!」
「け、剣術かい? どうして急に」
父は戸惑っている。母は「あらあら」と微笑んでいた。
「今日私の剣術訓練をルリアが見学していたので、それで真似をしたくなったのかも」
「ルリアはギルベルトの真似がしたいのね」
母はにこにこしながら、ダーウのことを撫でている。
「よのなかは、きけんがいっぱい。みをまもれないとだめ」
「それは……そうだが、護衛がいるから、怖がらなくて大丈夫だよ?」
父は優しく諭すように言う。
「でも、いつおそわれるか、わからん」
そういうと、父と母は顔を見合わせる。
兄と姉も心配そうに私の顔を見た。
生まれたばかりの頃、あたしが襲われたことを思い出しているのかもしれない。
「……でも、ルリア。女の子は剣術を学ばないものなのよ? この姉も習っていないもの」
「ねーさまもれんしゅうしたほうがいい。さらわれる。いえのなかもあんぜんではない」
姉はとても可愛い。悪い人にさらわれかねない。
いざという時に身を守れないとだめなのだ。
女だから男だからと言っている場合ではない。
敵は、こちらが弱いことを喜びはしても、弱さに配慮などしてくれないのだから。
「けんだけでは、たりない! まほうもれんしゅうしたい!」
「ダメだ!」
突然、父が大声を出したので、びっくりした。
「すまない。ルリア。でもね。魔法はダメだ」
「どして? まほうはつよい」
「ずっとダメってことじゃないよ。ルリアはまだ三歳だ。幼い子供が魔法を使うと体に良くないからね」
「そなの?」
前世の頃は五歳から、だいたい週二の頻度で、大魔法を撃ちまくっていた。
だけど、なにも問題なかったと思う。
「背が伸びなくなるよ?」
「ぬな!」
変な声が出た。確かに前世のあたしは背が低かった。
年下の従妹より、ずっと背が低かったのだ。
「……まほうの、まほうの……せいだったかー」
あまりにも衝撃的な事実だった。
魔法で背が伸びなくなるのならば、前世のあたしが小さかったのも納得である。
「? とにかく、魔法はダメだよ。大きくなるまではね」
「兄も最近やっと魔法の練習を始めたんだ。ルリアも十三歳ぐらいになるまでダメだよ」
「わかった!」
父と兄に言われて、魔法を使わないことにした。
背が伸びないのは困るからだ。
「……それで、ルリア。どうしても剣術を習いたいのかい?」
「ならいたい!」
「あなた、習わせてあげましょうよ? 魔法を陰で使われるよりはずっと安心よ?」
「かーさま、ありがと」
母が味方をしてくれた。とても嬉しい。
「うーん。そうだな。わかった。ルリア。ギルベルトの先生に一緒に教えてくれるようお願いしてみよう」
「とーさま、ありがと! あ、ついでに、もじもべんきょうしたい! ほんよむ!」
「あ、ああ、もちろん構わないよ」
「やたー」
剣術という許可を得にくいものから要求したおかげで、文字の勉強はあっさり認められた。
これが逆ならば「三歳に文字を教えるのは早いのでは?」みたいな話になりかねなかったところだ。
「るりあは、せんりゃくか……むふ」
「そうだね、ルリアは戦略家だね」
「ルリアはかわいいねー」
なぜか父と兄に頭を撫でられた。