冬が近づいている。
「きょうはさむいな!」
「わふ」
今日も今日とて、ダーウと一緒に、中庭で木の剣をふる。
あたしは春に生まれた。そして三歳の誕生日のすぐ後ぐらいから剣術の練習を始めたのだ。
だから、もう半年以上、ほぼ毎日剣を振っていることになる。
「いいうごきになってきた?」
「ばふ」
ダーウもいい動きだと言ってくれているようだった。
中庭で休憩していると、鳥たちとプレーリードッグが駆け寄ってくる。
「…………みんな……さむくないか?」
「くるっぽー」「ぴぃぴい」「きゅいきゅい」
みんな、いつもより体を押しつけてくる。
冬だから寒いのかもしれない。
「むう……」
寒いのはつらい。
前世では隙間風がひどい家畜小屋で、ぼろきれのような服一枚しか貰えなかった。
毛布など当然貰えるわけもなく、冬は死にそうなほど寒かった。
精霊魔法で室温を上げて、ヤギたちが囲んで暖めてくれたから生き延びることができた。
「……やぎたちのおかげ」
「わふ?」
「とりたちもさむいな? るりあのへやにはいれるようにおねがいしにいこう」
「ぴぃぴぃ」「ほっほお」
母から「何かを部屋に連れ込むときは絶対に教えてね」ときつく言われているのだ。
「ぷれーりーどっぐも、はいりたいな?」
「きゅい」
「うむ。じゃあ、みんな、ついてくるといい」
剣術の練習が終わったので、プレーリードッグを抱っこして、ダーウの背に乗り母の元へと向かう。
鳥たちはぴょんぴょん跳ねてついてくる。
「お、お嬢様!?」
「だいじょうぶ。かあさまにきょかをもらいにいく」
途中で出会った者が慌てているので、安心させた。
母の部屋に付くと、一気にドアを開けて飛び込んだ。
「かあさま!」
「ルリア、どうしたの……か……しら」
母は私の後ろに付いてきている大量の鳥を見て固まった。
「とりがさむがっているから、つれてきた」
「あ、食べるわけではないのね」
「ぴ、ぴぃ」
鳥たちが驚いている。
「ともだちをたべるわけない」
「そ、そうよね、私、てっきり……」
母はたまに突拍子も無いことをいうのだ。
「かあさま。ふゆがくる。とりがさむい。だからるりあのへやにすむ」
「うーん、そうねぇ。難しいかもしれないわね」
「だめか?」
「ぴぃ……」「ほう……」
母から許可を貰えなそうだと思ったのか、鳥たちもしょんぼりしていた。
鳥たちが凍えないように、説得しなければならない。
「さむいとかなしい。とりたちがかなしいと、るりあもかなしい」
「うーん。母も意地悪で言っているわけではないの」
「うむ?」
「鳥と一緒に住むとなると、問題点がいくつかあるわ」
「……もんだいてん」
母は丁寧に説明してくれた。
鳥は体の構造上、うんこを我慢できない。だから部屋中がうんこだらけになる。
それに鳥は、種類によっても違うが、脂粉と呼ばれる粉を出す。羽も落とす。
だから、部屋の中が糞と粉と羽だらけになる。
「一羽ならまだしも、大量の鳥と一緒に過したら、大変よ?」
「るりあはだいじょうぶ!」
「大丈夫ではないわ。ルリアが病気になりかねない。だから許可はできません」
「むむう」
窓を開けていたら勝手に入ってきたという体で、なし崩し的に認めさせようか。
私は戦略家なので、そんなことを考える。
「しかたない」
「あ、ルリア。まさかと思うけど、窓を開けていたら勝手に入ってきたとか、そういう言い訳が通用すると思っているのかしら?」
「ち、ちがう」
「そう? それならいいのだけど」
母はそういってにこりと笑った。作戦が見破られてしまった。
この作戦は使えないかもしれない。
新しい作戦を考えていると、
「そうね……。屋敷の外に鳥小屋を作ってもらいましょうか? それならルリアも心配じゃないでしょう?」
近くに鳥小屋があれば、会いたいときに会いに来てくれるだろう。
鳥たちは夜は小屋の中で眠れるし、雨や雪が降っても風邪を引かない。
だが、鳥小屋付きの王族の屋敷など聞いたことがない。
「……いいの?」
「いいわよ。だってそうしないと、ルリアはこっそり部屋の中にいれちゃうでしょう?」
「そ、そんなことしない」
「そう? それならいいのだけど」
母はそういって、頭を撫でてくれた。
「あの! とりごやは、あったかくして?」
「暖かくね。大工さんにおねがいしておくわね」
「うん!」
本当に寒いのはつらいのだ。そんな思いを鳥たちがするのは悲しい。
「あ、かーさま。このこは?」
「きゅぴい」
「プレーリードッグ?」
「そう。うんこがまんできるし、しふんもださない!」
プレーリードッグは鳥ではないので、鳥小屋に入れたら可哀想だ。
鳥とプレーリードッグは、快適な環境自体違うのだから。
「そうね……、ちゃんとおトイレできるの?」
「きゅいきゅい!」
「といれ、できるって」
「本当に、できるって言ったのかしら……」
母はプレーリドッグを撫でながら、しばらく考えた。
「ルリア、ちゃんと責任もって飼えるの?」
「かえる!」
「トイレもルリアが教えるのよ?」
「わかった!」
「じゃあ、飼ってもいいわ」
母から許可が出た。
「よかったな!」
「きゅぷい」
プレーリードッグも嬉しそうだった。
「でも、洗わないといけないわ。おねがい」
「はい、畏まりました。お嬢様、失礼しますね」
侍女は私が抱っこしていたプレーリードッグを抱き上げて、どこかに連れて行った。
「きゅうぃ〜」
「だいじょうぶだよ! あとでね」
不安そうになくプレーリードッグに声をかけた。
「これでいいかしら?」
「ありがと! むふー。かあさま。どうぶつにくわしい?」
「そうよ。少しだけ詳しいわ」
やっぱり、母は凄いと思う。
今度、ヤギについても聞いておこう。そう思った。