「ルリア? その棒は何?」
「かっこいいぼう」
「……虫の卵がついているとかではないわよね?」
「ついてない」
「ならいいわ」
母に棒を所持する許可を貰ったので、あたしは棒を持ったまま、別邸の中に入る。
別邸を使うのは数年ぶりという話だったが、非常に綺麗だった。
「まいにち掃除してくれていたの?」
「そうよ。管理人は、赤痘がうつらないように、今はいないのだけれど」
「そっかー」
「さて、ルリア、サラ。こちらにいらっしゃい」
「わかった」「……」
母が侍女と一緒にどんどん進む。
その後ろをあたしとサラ、ダーウがついていく。キャロはあたしの肩の上だ。
しばらく歩くと、母と侍女は部屋に入った。
追いかけて中に入ると、そこは書斎兼談話室のようなところだった。
壁には本棚があり、たくさんの本があった。
机や椅子、長椅子などもある。
「お茶を淹れますね」
「ありがとう。お願いね」
侍女はすぐ隣の部屋へと移動していく。
談話室の隣にはお茶を淹れる設備もあるらしい。
「ルリア。棒は床においておきなさい。行儀が悪いわ」
「あい」
逆らって没収されたら困るので、格好良い棒を大人しく椅子に立てかける。
「さてさて、ルリア、サラ。何も心配することはありません」
「してないよ」「はい」
「ですが、いつもとは勝手が違います。従者たちは護衛や本邸との連絡で忙しいので、身の回りの世話をしてくれるのは侍女が一人だけです」
そういって、母はあたしとサラを優しく見つめた。
「そだなー。自分でいろいろしないとだな?」
「その通りです。とはいえ、私もルリアも、そしてサラも不慣れですからね」
「ルリア、できるよ?」
「それはすごいわね。……心がけるべきは、侍女の負担を減らすということ。わかるわよね」
「わかる」「はい」
ダーウとキャロも真剣な表情で聞いている。
「とはいえ、あなたたちは子供だから、あまり難しく考えなくて良いわ」
「わかった!」「はい」「ばうばう!」「きゃう」
ダーウとキャロは「任せろ」と言っていた。
「そんなご配慮していただかなくても……」
お茶を淹れた侍女が戻ってくる。
「お嬢様方、お菓子もどうぞ」
「ありがと! サラもたべるといい」
「ありがと」
サラは両手でお菓子を持って、もそもそ食べる。
まるで小鳥のように、少しずつだ。
「ふんふん」
ダーウは机の上に大きな顎を乗せる。
自分もお菓子を食べたいというアピールだ。
「ぴー」
ダーウは哀れっぽく鼻を鳴らす。
「しかたないなぁ」
あたしは自分の分のお菓子を半分に割って、ダーウにわけた。
「わふ」
ダーウは一瞬で食べて、嬉しそうに尻尾を揺らす。
「…………きゅぅ」
キャロはあたしの肩から机の上に降りて、こちらを見ている。
目で「当然くれるよね?」と訴えていた。
「しかたないなぁ」
あたしはキャロにもお菓子を分け与えた。
「きゅうきゅう」
キャロは両手で持ってお菓子を食べる。
その姿はサラに少し似ていた。
「おいしいな?」
「わふ」「きゃう!」
「おいしいの。えへ、えへへ」
どうやら、サラはうれしいと変な声で可愛く笑うらしい。
お菓子を美味しく頂いていると、侍女が張り切って言う。
「お任せください。本邸の支援もありますし、私一人でも不便は感じさせないようにします!」
「あら、無理をしてはいけないわ」
侍女には侍女のプライドがあるのだろう。
だが、おもちゃを片付けたり、着替えたりなど、自分でやれることはやるべきだろう。
足をぶらぶらさせると、椅子に立てかけた棒に足が当たった。
「あ、サラ! たんけんしよう!」
棒が探検家が使う杖のように見えたのだ。
「たんけん?」
「そう。どこになにがあるのかしらべる! かあさま、いい?」
「屋敷の外に出たらダメよ?」
「もちろん」
「当然、窓から出てもダメなのよ?」
「と、とうぜんしない」
先ほど窓から出入りしたので、少し驚いた。
母には見られていないはずなので、たまたまだろう。
「それと、入ってはいけない場所が、色々あって……」
「はいったらダメなばしょとは……?」
すごく気になる。
「そうね。それも口で説明するより見た方が早いでしょう」
「むむ?」
「従者の方々にダメと言われた場所には入ったらダメよ?」
「わかった!」
「それならばいいわ。ダーウ。キャロ。ルリアとサラをお願いね」
「わふわふ!」「きゅる〜」
母の許可を貰ったので、
「サラ、いこ」
「あい」
あたしは右手で棒をもち、左手でサラの手を取って部屋を出る。
サラは左手に棒の人形を持っている。
「サラ。ここがきちだ」
部屋を出たところで、母がいる談話室を棒でさして言う。
「きち?」
「うむ。はぐれたり何かあったら、もどってくる場所だ」
「わかったの」
探検の最初に基地を作るのは大切だ。
そう本に書いてあった。
「うむ! では出発する。サラたいいん」
「たいいん?」
「たんけんたいだからなー。たいちょうはルリア」
「わかった」
真面目な顔でサラは頷く。
「ダーウとキャロもたいいんだ」
「わふ」「きゃう!」
隊員に選抜されたダーウとキャロは誇らしげだ。
あたしが先頭になって、別邸の中を歩いて行く。
別邸は二階建てで、全体的に長方形の形をしているようだ。