大人なら、いや、成長した五歳児ならば、二、三日食べなくても我慢できる。
実際、前世のあたしは、二、三日ごはんを貰えないときも多かったが、我慢できた。
とても辛いが、死にはしなかった。
「ロアは赤ちゃんだから。がまんできないし。びょうきになるかもしれない」
「たいへんなの」
「そう。たいへん」
あたしは考える。ロアを満腹にできる量のご飯を素早く確保しなければならない。
ヤギたちやフクロウたちにご飯を集めてもらうのも時間がかかる。
明日から、いやお昼ご飯以降ははそれでいいかもしれないが、朝ご飯に間に合わない。
「こうなったら……キッチンにしのびこむしかないな……」
見つかるリスクはあるが、それが最も確実で早い。
「おこられるかもだけど……ロアのご飯のほうがだいじ」
サラが真面目な顔でそういって、うなずいた。
「サラがしのびこむ? サラ、あしはやいよ?」
「しのびこむなら、ルリアがてきにんだ。クロのこえがきこえるからな?」
「どういうこと?」「わふ?」
「クロはルリアにしかみえない。だからていさつにさいてき」
「あっそっか!」「わふぅ!」『ふふん』
サラとダーウが感心している横で、クロはどや顔して胸を張っている。
クロは、母にも侍女にも従者にも絶対に見つからない。
だから、クロに偵察してもらって、いないことを確認してあたしが侵入すれば安心だ。
「かあさまが近づいてきても、きづけるしな?」
「……かんぺきな作戦だ」
「そう。ルリアはせんりゃくかだから」
「きゅう?」
その時、キャロがタンスから取り出したハンカチを首に巻き付け始めた。
「キャロ? ……はっ! それでご飯をはこぶのだな?」
「きゅ!」
ひと声鳴くと、キャロは窓から雨が降る外に走っていった。
あたしはタンスから大きめのタオルを取り出した。
「これにご飯をつつむと、たくさんはこべる」
「おお」
器用で小さなキャロは、誰にも見つからず、ご飯を手に入れて来るだろう。
だが、いくらハンカチで包んで運んだとしても、キャロは小さい。
ロアが満腹になる量のご飯を運ぶのは難しい。
「ルリアも、はやくむかわねば。サラちゃん、ダーウ、コルコ。ロアをたのんだ」
「わかった」「ぁぅ」
「あれ? コルコは?」
『コルコなら、さっき窓から外にでていったのだ』
「あめなのに?」
いつもの巡回に行ったのかもしれない。いや、ご飯を集めに行ってくれたのかも。
「でも、コルコならしんぱいないな」
『心配ないのだ』
「サラちゃん。もし、かあさまがこっちにきたら、ごまかしてな? すぐもどるから」
「わ、わかった」「わぁぅ」
あたしがいないことがばれたら大変だ。
サラに時間を稼いでもらっている間に、大急ぎで部屋まで戻らねばなるまい。
「では、いってくる」
あたしはタオルを腰に巻き、部屋の外へと歩き出す。
「りゃぁぁぁ」
するとロアが、サラの腕から飛び発って、あたしに抱きついた。
「どしたロア。そんなかなしそうに泣いて」
「ルリアちゃん、ロアはおいてかれるとおもったのかも」
あたしもサラのように思ったのだが、クロがロアを撫でながら言う。
『……ロア様はルリア様が心配なのだ』
「どういうこと?」
『一人で、どこかに行って敵に会ったり迷子になるかもと思ったのだ』
「そっか、ありがと。サラちゃん、ロアはルリアがしんぱいなんだって」
赤ちゃんなのに、あたしのことを心配してくれるなんて。
ロアは記憶が無くてもとても優しい。
あたしはロアを撫でながら、優しく説明する。
「だいじょうぶ。家のなかだからだいじょうぶ」
「りゃ?」
「うん。すぐもどってくるからね? サラちゃんとダーウとまってて」
『ロア様。ルリア様は大丈夫なのだ』
あたしとクロでロアを安心させてから、サラに抱っこしてもらう。
「ロア、サラといっしょに、まってようね」
「……りゃむ」
「ダーウもたのむな?」
「わふ」
ダーウは「まかせろ」と堂々と尻尾を揺らした。