「ルリアちゃん。ロアがドラゴンなら……やっぱり、かうのをダメっていわれないかな?」
不安そうにサラが言う。
「……かのうせいはある。羽トカゲでごまかすしかないな?」
「ごまかせるかな?」『簡単ではないのだ』
あたしとサラとクロは、ロアの飼育許可を取るために相談する。
問題は、母が動物にとても詳しいことだ。
母も「強い生き物図鑑」を読んでいるのだから。
「むむう? ねんのためにロアのこと、かくす?」
「すぐに、ばれるの」『ばればれなのだ』
話し合っている間、ロアはあたしたちに交互に体を押し付けて甘えてくる。
そんなロアをサラとクロで撫でながら、相談を続けた。
「……ずっとじゃなくて、こう……じょじょに?」
「じょじょに?」
「そう。じょじょに、ドラゴンかいたいなーって、かあさまにおもわせる」
根回しをして、母がドラゴンを飼いたいなーと思えば、許可も出るだろう。
「さりげなくあぴーるしないとな?」
「わかった。がんばる」
サラも力強く頷いた。心強い。
『そんなに、うまくいくわけないのだ』
クロが呆れたように言うが無視をする。やってみなければわからないからだ。
それに失敗したら、そのときにまた作戦を考えればいいだけである。
甘えていたロアは、今あたしの指をちゅぱちゅぱ吸っていた。
「おなかすいたのかな? でも、ドラゴンは卵からうまれるからお乳のまない」
「のまないの?」
「うん。卵からうまれるいきものは、普通お乳のまない」
「ほえー」
サラがあたしの知識の深さに感心してくれていた。照れる。
「ともかく、ロアのご飯をかくほしないとだな?」
「うん。ご飯だいじ」
『大事なのだ。ロア様は赤ちゃんなのだし』
サラも力強く頷いた。
「ゎぁわぁう?」
ご飯と聞いて、ダーウが目を覚ました。
ダーウは起きて、すぐに「はっはっ」と息を荒くして、あたしのことを舐め始めた。
「まてまて」
「わふ?」
「ご飯はまだだ」
「ぴぃー」
ダーウは「どうしてそんなひどいことをいうの?」と鼻を鳴らして甘えてくる。
だが、虐めているわけではない。
そもそも、ご飯の用意ができていないはずだ。
ダーウには、少し待って貰わなければなるまい。
「あさご飯は、できたらじじょがくるはず」
「ぴぃ」
「それまでまつといい」
ダーウをなだめて、頭を撫でる。
「ダーウのご飯はまてばいいけど、……もんだいはロアのご飯だ」
「ゃむ?」
あたしの指を吸っていたロアが、口を離さずに首をかしげる。
「かあさまから、ロアをかくすとなると……しょくどうにつれていけないから……」
「ご飯を、こっそりかくして、もちかえる?」
「それは、にたようなことして、バレた」
サラの提案は、少し前にあたしがやって失敗したやつだ。
あたしも、おやつを隠して部屋に持ち帰ったが、すぐバレた。
「クロ。ロアって何食べるの?」
『なにって……、多分なんでも食べるのだ』
「そっか、サラちゃん、ロアはなんでも食べるらしいよ?」
何でもいいのは凄く助かる。
「そっか……でも、ロアにもすききらいはあるよ? たぶん」
「たしかに……サラちゃんのいうとおりだ。トカゲっぽいし虫とかが好きかな?」
トカゲは虫を食べる。ロアはトカゲではないが、トカゲに似ている。
ならば、きっと食べ物の好みもトカゲに似ているに違いない。
あたしはロアを撫でながら、考える。
「でも、虫はつかまえるのがたいへんだからなぁ」
カブトムシの幼虫は地中にいる。今の季節はさなぎだろうか。
掘って見つけるのも、ダーウに手伝ってもらうのも大変だ。
「虫をつかまえるのはたいへんなのに、あかちゃんは、たくさんたべないとだめだからなー」
「そうなの? からだがちいさいのに?」
「そう。ちいさいのに」
あたしが赤ちゃんだったとき、マリオンと母のお乳を一日で八回から十回飲んだものだ。
とにかくお腹が空いて仕方が無かったことを覚えている。
夜中にお腹が空いたときは、我慢した。
我慢できたのは、あたしには記憶があったからだ。
普通の赤ちゃんなら我慢できずに泣いていたことだろう。
それに、あたしにはダーウがいた。
お腹が空いていたら、ダーウが察してマリオンを呼びに行ってくれたりもした。
眠そうにお乳をくれた、マリオンに心の中で謝罪しながら、思う存分飲んだものだ。
「ルリアもお乳がでたらなぁ」
「こどもはでないの」
「まったくだなぁ」
自分たちがお乳が出ないことを嘆いていても仕方がない。
なにか良い方法を考えなければならない。