その大量の芋虫は、コルコがロアのために集めたものだろう。
ロアのご飯をどうしようか、相談している最中、コルコは外に出ていった。
話を聞いて、ロアが食べられそうな芋虫を捕ってきてくれたのだ。
本当に優しくて賢いにわとりだ。
「ルリア? これはどういうことかしら?」
だが、母が激怒していた。
「ええっと……ごはん?」
「ごはん? だれの?」
「えっと……とりたち?」
ちらっとフクロウをみると、
「ほう!」
フクロウは芋虫のところに歩いて行って、パクリと食べた。
「な?」
「な? じゃないです。芋虫は——」
——バサバサバサ
窓から鷹と雀が合わせて五羽はいってきた。
その鳥たちはみな、芋虫を咥えている。
「ぴょ〜」
「ちょっとまって……」
顔を引きつらせる母を気にせずに、鳥たちは鳴きながら籠の中に芋虫を入れていく。
「これは……ルリアがやらせているの?」
「そう。ルリアがやらせている」
「そうよね、籠も用意しているし……」
籠はきっとコルコが用意したのだろう。
コルコが、部屋の中から芋虫を入れるのに丁度良い籠を探しだし、寝台の陰に置いたのだ。
だが、あたしは「コルコや鳥たちが勝手にやったことだ」とは言えない。
コルコも鳥たちも、ロアのためにやったのだ。
怒られる者がいるならば、それはあたしだ。
あたしは「こっちおいで」と鳥たちを集める。
コルコと、フクロウ、鷹、そして雀たちを順番に撫でた。
「ありがとうな」
「……ルリア。どうしてこんなことしたの?」
母のいる場所はあたしの背後。
だから、表情は見えない。だが怒っていることは声音でわかる。
「……とりごやがなくて、ご飯がたりなくなるからなー」
「ルリアが……食べようとしているわけではないのね?」
「そんなことしない。でもルリアがやらせた」
「そうなのね」
食べるつもりで集めたのではないと言うと、母の言葉から怒気が消えた。
「鳥たちのご飯を運んでもらうことにするわ。だから芋虫を集めさせるのを止めさせなさい」
「……うーん、でも」
「ルリア?」
「わかった」
これ以上抵抗すれば。母はあたしを監視下におくために、ここで仕事をしかねない。
芋虫は貯めずに鳥たちから直接受け取ってロアにあげることにしよう。
「もう、芋虫を集めさせたりしたらだめよ?」
「わかった」
母は、あたしをぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれた。
「ここぅ!」
コルコがどこか満足そうに羽をバサバサさせると、体を押しつけに来る。
芋虫のおかげで、傷んだ服の肩の部分とフクロウとの剣術訓練がうやむやになった。
コルコはそれを狙って、かあさまのいるときに芋虫を持ってきたのかもしれない。
もしそうならば、コルコは、あたし並の戦略家である。
「ふむー。コルコはすごいなぁ」
「ここ」
あたしはコルコのことを優しく撫でた。
「芋虫は……」
「きゅっきゅ!」
母が芋虫の処遇について語り出そうとすると、キャロが走ってきてすかさず一匹たべた。
「はっ!」
あたしは戦略家なので気づいた。これもキャロの作戦だ。
母は「芋虫を捨ててきなさい」と言うつもりだったに違いない。
だから、あたしはそう言われないために動く。
「キャロ。いもむしは鳥たちのご飯だからな?」
あたしは、母から見えないように気をつけながら、キャロにこっそり片目をつぶって合図する。
「きゅう〜」
キャロは両手で芋虫を掴んで食べながら、頷いた。
「ご飯をとるのがにがてな、鳥たちのご飯だ」
鳥たちのために芋虫は必要だと母にアピールした。
「だから、ちゃんとご飯をもらっているキャロは食べたらだめ」
「きゅ」
「鳥たちのごはんが、届くまでは、大切なご飯だからなぁ〜」
ちらりと見ると、母は「ふぅ〜」と大きく息を吐いた。
「わかったわ。ルリア。お昼までに急いで鳥たちのご飯を運ぶように指示を出すわね」
「ありがと!」
ご飯が届けば、鳥たちの食糧事情が改善する。
そうなれば、ロアは鳥たちのご飯を分けて貰うこともできるだろう。
「よかったね、ルリアちゃん」
「うん、よかった」
ずっと緊張していたサラがほっとしたようだ。
あたしが叱られるのでは? と心配してくれていたらしい。
『どうなるかとおもったのだ』
クロも胸をなで下ろしていた。
「かあさま、このいもむしはルリアがせきにんをもつ」
「責任? 具体的には?」
「いっぴきも、にげないようにする」
「そうね、それは大事ね?」
「ちゃんと、ぜんぶみんなにたべさせる」
「そうね。それも大事。でも、もう一つ大切なことがあるわよね」
「…………む?」
なんだろうか。
「あっ、ルリアはたべない?」
「も、もちろん、それも大事。でもそうじゃないわ」
あたしの答えを聞いて、母は少し慌てた。
いつもあたしが虫を食べることを警戒しているのに、想定外だったとは意外なことだ。
「あたしが食べないこといがいで……むう」
「ルリアがたべないのは、当然のことよ? 食べたらダメよ? わかったかしら?」
「わかってる」
母は何度も念を押してきた。
「もう一つ大事なことは。これ以上集めさせないこと」
「えー」
「えー、じゃありません。お昼には鳥たちのご飯が届くのだから、集める必要はない。そうよね?」
「そう」
母の圧がつよくて、認めるほかなかった。
「これ以上、芋虫を集めさせない。いいわね?」
「わかった」
「芋虫は?」
「あつめさせない」
「そう、それでいいわ。わかっていると思うけど、毛虫も当然ダメよ?」
「わかった」
芋虫と毛虫が良くなくとも、カブトムシなら良いかもしれないと思ったのだが、
「もちろん、カブトムシとか蝉もダメよ?」
「わ、わかった!」
母は鋭くて困る。