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81 ロアのご飯

「それとルリア。お屋敷でも言ったけど、部屋の中で鳥たちと暮らしたらダメよ?」

「うん。わかっていけど。でも……雨がふりそうだしなー」

「鳥小屋も、今日中に建ててもらうから」

「おー」

「だから、ダメよ? 糞と脂粉しふんと羽で大変なことになるのだから」

「わかった」


 その後、あたしが鳥たちに、一匹ずつ芋虫食べさせていたら、

「……もう集めさせたらだめよ? 逃げさせないようにね」

 と念押しして、母は部屋から出ていった。


「かあさま、しばらく部屋で、ルリアをみはるとおもったのだがなー」


 なんと、母は扉もしっかり閉めて出て行った。

 活動しやすいので好都合ではあるがとても意外だった。


「たぶん、扉をしめたのは、芋虫がにげださないようにかな?」

「なるほど?」


 万一芋虫の籠をひっくり返しても、扉が閉まっていれば被害は最小限に抑えられる。


「それに、……いもむしを食べているところをみたくなかったんだとおもうの」

「ふむ?」


 改めてとりたちの様子を見る。

 フクロウは芋虫をクチバシでバラバラにして、小鳥たちに分けてあげていた。


「たしかに、すこしあれかもしれないなー」


 芋虫がバラバラになっているところは、あまり気持ちの良い光景ではない。

 なんにせよ、母を誤魔化せたのは良かった。

 あたしの演技力と誤魔化し力も成長しているのだろう。


「ほっほう?」


 フクロウが「もういいかな?」と聞いてくる。


「ちょっとまってな? クロ、かあさまは?」

『うん。一階に降りていったのだ』

「ほかのひとは?」

『にかいには、ほかにだれもいないのだ』

「ありがと。クロはしばらくけいかいしておいて」


 クロに見張りをしてもらえれば安心だ。


『まかせるのだ!』

「ありがと、クロ。サラちゃん、かあさまはとおくにいったみたい」


 そういうと、フクロウたちは、芋虫を食べるのを止めた。

 かあさまの前で演技する必要がなくなったからだ。

 それに、このまま食べ続けたら、ロアが食べる分がなくなってしまう。


「すまぬな?」

「ほっほう」


 あたしは鳥たちを順番に撫でていく。


「みんなありがとう。すごくたすかった。コルコもありがと」

「ほほう」「ぴぃっ」「こっこ」


 鳥たちのことを、サラと一緒に撫でていると、窓の外に気配感じた。

「む?」

 窓に視線を向けると、ダーウが一瞬見えた。


「え、ここにかい……」


 サラが驚いて固まっている。また、ダーウの顔が一瞬見えた。


「ダーウ!」

 あたしはサラと一緒に窓に駆け寄る。


「わふっ」

 なんと、ダーウはぴょんぴょんと飛んで、窓から顔を出していたようだ。


「す、すごい」


 サラが驚いて息を呑む。

 ダーウは大きいが、二階の窓までダーウの体長一・六メトルの倍近くあるのだ。


「ダーウ、凄いな?」


 あたしは窓を全開にする。

 すると、ダーウは前足で窓枠にしがみついた。


「はっはっはっはっ」

「のぼれる?」

「わふっ」


 前足でしがみつき、お尻を振って、苦戦しつつもダーウはもぞもぞと部屋の中に入った。

 それは、あたしが生まれたばかりの頃、寝台に登った時のようだった。


「おお……、さすがダーウ」「ダーウ、すごい」

「わふわふぅ」


 顔を押しつけてくるダーウを、あたしとサラは撫でる。


「ダーウ。いいはんだんだった。たすかった」

「わふ」


 ダーウが屋外に走って行かなければ、ロアがかあさまに見つかっていたかもしれない。


「サラもありがとうな? じかんかせいでくれて」

「サラ、やくにたった?」

「すごくやくにたった。たすかった」

「えへ、へへへ」


 あたしがサラを撫でると、

「りゃ?」

 ロアが、ダーウの首元のモフモフした部分から顔を出す。


「ロアも、しずかにしててえらかったな?」

「りゃ〜」

 あたしはサラと一緒にロアを撫でた。


「ロア、おなかすいたな?」

「りゃぁ」

「コルコととりたちが、いもむしをとってきてくれたよ」

「りゃ」


 あたしは、ロアを抱っこして、芋虫の入った籠の横の床に座る。


「たべるといい」

 ロアの口に芋虫を近づけると、パクリと食べた。


「おいしい?」

「りゃむ!」


 ロアの尻尾が元気に揺れる。

 芋虫を気に入ってくれたらしい。


 そんなロアを、囲むようにして、みんなが見守る。

 サラ、ダーウとコルコとキャロだけでなく、フクロウたちも見守ってくれている。


 きっと、鳥たちもロアのことは大好きなのだ。


「あ、そうだ。キャロ。キッチンからとってきたごはんをもってきて」

「きゅっきゅ」

「てつだうの」


 キャロが走ると、その後ろをサラが追いかける。

 そして、パンとナッツ、ウインナーを包んだハンカチとタオルを持ってきてくれた。


「ルリアちゃん、たまごもあるよ?」

「たまごは後でルリアがはこぶから、今はいいかな」


 卵はポケットに入れて運んだので、タオルでくるまれていない。

 だから、ポケットがないと持ち運びしにくい。


「ありがと。サラちゃんもロアにごはんあげるといい」


 赤ちゃんにご飯をあげるのは楽しいものだ。

 ついつい、全部自分であげたくなってしまうが、我慢しなけれならない。


「サラがあげていいの?」

「もちろんだ。サラちゃん。ロアを抱っこしてあげて」

「うん。えへへ。ロア、食べる? かわいいねぇ」


 サラは床に座ってロアを抱っこすると、ナッツを手に取ってロアの口元に持っていく。


「りゃむ!」

 ロアはナッツを食べて、尻尾を揺らす。


「ルリアちゃんたべた!」

「うむ。たべるところもかわいいよなー」

「うん。かわいい」


 あたしは、サラに抱っこされたロアの頭を撫でると、卵を取るためにタンスに向かう。

 あたしの服にはサラの服よりもポケットが多いので、卵を運びやすいのだ


「ロアは芋虫とナッツどっちがすきかな〜」


 ポケットに取って来た卵を四個全部をポケットにつめながら、サラに語りかける。


「どっちかな? どっちも美味しそうに食べてる。あ、パンも美味しいみたい」

「りゃぁむ〜」


 ロアは余程お腹が空いていたのだろう。

 その小さな体に、どうやったら入るのかと不思議になるほど、すごい勢いで食べていた。


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