「それとルリア。お屋敷でも言ったけど、部屋の中で鳥たちと暮らしたらダメよ?」
「うん。わかっていけど。でも……雨がふりそうだしなー」
「鳥小屋も、今日中に建ててもらうから」
「おー」
「だから、ダメよ? 糞と
「わかった」
その後、あたしが鳥たちに、一匹ずつ芋虫食べさせていたら、
「……もう集めさせたらだめよ? 逃げさせないようにね」
と念押しして、母は部屋から出ていった。
「かあさま、しばらく部屋で、ルリアをみはるとおもったのだがなー」
なんと、母は扉もしっかり閉めて出て行った。
活動しやすいので好都合ではあるがとても意外だった。
「たぶん、扉をしめたのは、芋虫がにげださないようにかな?」
「なるほど?」
万一芋虫の籠をひっくり返しても、扉が閉まっていれば被害は最小限に抑えられる。
「それに、……いもむしを食べているところをみたくなかったんだとおもうの」
「ふむ?」
改めてとりたちの様子を見る。
フクロウは芋虫をクチバシでバラバラにして、小鳥たちに分けてあげていた。
「たしかに、すこしあれかもしれないなー」
芋虫がバラバラになっているところは、あまり気持ちの良い光景ではない。
なんにせよ、母を誤魔化せたのは良かった。
あたしの演技力と誤魔化し力も成長しているのだろう。
「ほっほう?」
フクロウが「もういいかな?」と聞いてくる。
「ちょっとまってな? クロ、かあさまは?」
『うん。一階に降りていったのだ』
「ほかのひとは?」
『にかいには、ほかにだれもいないのだ』
「ありがと。クロはしばらくけいかいしておいて」
クロに見張りをしてもらえれば安心だ。
『まかせるのだ!』
「ありがと、クロ。サラちゃん、かあさまはとおくにいったみたい」
そういうと、フクロウたちは、芋虫を食べるのを止めた。
かあさまの前で演技する必要がなくなったからだ。
それに、このまま食べ続けたら、ロアが食べる分がなくなってしまう。
「すまぬな?」
「ほっほう」
あたしは鳥たちを順番に撫でていく。
「みんなありがとう。すごくたすかった。コルコもありがと」
「ほほう」「ぴぃっ」「こっこ」
鳥たちのことを、サラと一緒に撫でていると、窓の外に気配感じた。
「む?」
窓に視線を向けると、ダーウが一瞬見えた。
「え、ここにかい……」
サラが驚いて固まっている。また、ダーウの顔が一瞬見えた。
「ダーウ!」
あたしはサラと一緒に窓に駆け寄る。
「わふっ」
なんと、ダーウはぴょんぴょんと飛んで、窓から顔を出していたようだ。
「す、すごい」
サラが驚いて息を呑む。
ダーウは大きいが、二階の窓までダーウの体長一・六メトルの倍近くあるのだ。
「ダーウ、凄いな?」
あたしは窓を全開にする。
すると、ダーウは前足で窓枠にしがみついた。
「はっはっはっはっ」
「のぼれる?」
「わふっ」
前足でしがみつき、お尻を振って、苦戦しつつもダーウはもぞもぞと部屋の中に入った。
それは、あたしが生まれたばかりの頃、寝台に登った時のようだった。
「おお……、さすがダーウ」「ダーウ、すごい」
「わふわふぅ」
顔を押しつけてくるダーウを、あたしとサラは撫でる。
「ダーウ。いいはんだんだった。たすかった」
「わふ」
ダーウが屋外に走って行かなければ、ロアがかあさまに見つかっていたかもしれない。
「サラもありがとうな? じかんかせいでくれて」
「サラ、やくにたった?」
「すごくやくにたった。たすかった」
「えへ、へへへ」
あたしがサラを撫でると、
「りゃ?」
ロアが、ダーウの首元のモフモフした部分から顔を出す。
「ロアも、しずかにしててえらかったな?」
「りゃ〜」
あたしはサラと一緒にロアを撫でた。
「ロア、おなかすいたな?」
「りゃぁ」
「コルコととりたちが、いもむしをとってきてくれたよ」
「りゃ」
あたしは、ロアを抱っこして、芋虫の入った籠の横の床に座る。
「たべるといい」
ロアの口に芋虫を近づけると、パクリと食べた。
「おいしい?」
「りゃむ!」
ロアの尻尾が元気に揺れる。
芋虫を気に入ってくれたらしい。
そんなロアを、囲むようにして、みんなが見守る。
サラ、ダーウとコルコとキャロだけでなく、フクロウたちも見守ってくれている。
きっと、鳥たちもロアのことは大好きなのだ。
「あ、そうだ。キャロ。キッチンからとってきたごはんをもってきて」
「きゅっきゅ」
「てつだうの」
キャロが走ると、その後ろをサラが追いかける。
そして、パンとナッツ、ウインナーを包んだハンカチとタオルを持ってきてくれた。
「ルリアちゃん、たまごもあるよ?」
「たまごは後でルリアがはこぶから、今はいいかな」
卵はポケットに入れて運んだので、タオルでくるまれていない。
だから、ポケットがないと持ち運びしにくい。
「ありがと。サラちゃんもロアにごはんあげるといい」
赤ちゃんにご飯をあげるのは楽しいものだ。
ついつい、全部自分であげたくなってしまうが、我慢しなけれならない。
「サラがあげていいの?」
「もちろんだ。サラちゃん。ロアを抱っこしてあげて」
「うん。えへへ。ロア、食べる? かわいいねぇ」
サラは床に座ってロアを抱っこすると、ナッツを手に取ってロアの口元に持っていく。
「りゃむ!」
ロアはナッツを食べて、尻尾を揺らす。
「ルリアちゃんたべた!」
「うむ。たべるところもかわいいよなー」
「うん。かわいい」
あたしは、サラに抱っこされたロアの頭を撫でると、卵を取るためにタンスに向かう。
あたしの服にはサラの服よりもポケットが多いので、卵を運びやすいのだ
「ロアは芋虫とナッツどっちがすきかな〜」
ポケットに取って来た卵を四個全部をポケットにつめながら、サラに語りかける。
「どっちかな? どっちも美味しそうに食べてる。あ、パンも美味しいみたい」
「りゃぁむ〜」
ロアは余程お腹が空いていたのだろう。
その小さな体に、どうやったら入るのかと不思議になるほど、すごい勢いで食べていた。