「たたかいかた? けんじゅつならだいたい毎日やってるよ?」
「ばう!」
ダーウも「剣術ならまかせろ!」と言っている。
湖畔の別邸に来てからはあまりできていなかったが、基本毎剣術の日練習をしている。
『剣術だけでは不足なのだ。昨晩、ロア様を助けたときのことを思い出すのだ』
たしかに沢山の呪者を五歳児の剣で倒すのは難しい。
『今後強い敵にあった時、身を守るためにも魔法を使いこなす必要があるのだ』
「……でも、魔法はきんじられているからなー」
父が言うには、幼児から魔法を使うと背も伸びなくなるらしい。
『そう。そこで想像訓練なのだ!』
「…………なにそれ?」
『ルリア様も敵を想像して剣術を練習しているのだ。それを魔法でやるのだ』
確かに敵を想像して剣術訓練している。だが剣は実際に振るっているのだ。
魔法は実際に放つわけにはいかない。本当に効果があるのだろうか。
『魔法は意思の力と想像力が大事ゆえ、想像訓練の効果は高い……はずなのだ』
語るほどクロの声は小さくなった。クロ自身、有効性の確信はないのかもしれない。
「わかった。おしえて」
『……やってくれるのだ?』
「ためしてうまくいかなくても、わるいことはなさそうだし」
『ありがとうなのだ!』
お礼を言った後、クロは寝台に寝っ転がるあたしに語りだす。
『まず昨夜ルリア様が作った癒しの風についてなのだけど』
「いやしのかぜ?」
昨夜、あたしが「きえれぇぇぇぇぇ!」と叫んだ後、呪者は消え去った。
どうやら、そのときに発動したものを、クロは癒しの風と名付けたようだ。
『前世のルイサ様は精霊力を魔力に変換して魔法を放っていたのだ』
クロのいうとおりだ。そしてそれは魔法の基本中の基本である。
どんな魔導師も精霊から精霊力を借りて、それを体内で魔力に変えて魔法を発動する。
『だけど、昨日の癒しの風は、精霊力をそのまま魔法として発動していたのだ』
「ふむ? どいうこと?」
『今のルリア様は守護獣に似ている存在なのだ。だからそういうことができるのだ』
以前、クロが、あたしのことを半分精霊と言っていた。
半分精霊だから、精霊力をそのまま使えるということなのかもしれない。
『ともかく精霊力に慣れることが大事なのだ。体内で精霊力をぐるぐる回すのだ』
クロの言う通り、あたしは練習した。
意識したことはなかったけど、確かに体内を巡る力は魔力とは違う気がする。
「いしきして、はじめて気づいたけど、ルリアの魔力回路が前世とちがう?』
『……それはそうなのだ。でも普通は血管の流れと同じで、違っても気付けないのだけど』
どうして気付けたのだろう。考えているとクロが言う。
『もしかしたら前世のルイサ様が死なないように体に魔法をかけ続けていたからかも?』
前世のあたしは栄養が足りないから体内に魔力を常に流し続けていた。
病気になって死にかけたときは、身体の隅々を魔法で調べた。
それで、体内の魔力の流れを把握することに熟達したのかもしれない。
「なんとなく、精霊力をぐるぐる回すコツがわかってきた気がする!」
『さすがルリア様なのだ。こんなに速く上達するとは!』
「そかな? えへへ」
『毎日、寝る前に練習したり、暇なときに練習すると良いのだ!』
「わかった!」
そしてクロは少し考えて言う。
『でも、魔法はいざという時以外は使わないで欲しいのだ。成長に良くないし』
「やっぱり、からだにわるいのかー」
『魔法を使う時も範囲を狭めて、最小限にしてほしいのだ』
「うん、気をつける」
『癒しの風は、全方位に無制御に力を放出したけど、あんな使い方は体に悪いのだ』
クロは真面目な顔で、教えてくれる。
ぐるぐる回す練習をすることで、操作がうまくなるという。
いざ発動するときに、消費精霊力はより少なく、威力はより高くなるらしい。
『精霊力を意識せず力任せに解き放つ、癒しの風みたいなのは体に悪いのだ』
「ふむ」
『あと敵が魔法を使いそうだと思ったら、やめろって命令してみるといいのだ』
「ことばでいうだけ? いみあるの?」
『あるのだ。命令の対象は発動者じゃなくて精霊なのだけど』
「ほむー」
どんな効果があるのかわからないが、クロが教えてくれたのだから意味があるのだろう。
もし、万が一、敵の魔法を止めたいときはそうしよう。
しばらく、目を瞑って、精霊力を意識する練習をした。
クロは色々教えてくれる。癒しの風は呪者に特効があるらしい。
『あの癒しの風を、全方位ではなく指向性を持たせて使えたら効果絶大なのだ!』
「ふむふむ」
『前世を含めれば歴戦の魔導師だから、精霊力の使い方さえ理解すればいいのだ!』
クロに励まされながら、あたしはサラが起きるまで訓練を続けたのだった。