あたしはサラ、ロア、ダーウに見守られながらペンを手にする。
「まずは……ヤギたちのことから書こう。えっと……」
『きのう、りょうみんがきました。すいろがいわでふさがってこまっていましたが——』
そのような情報はとっくに父のもとに報告が上がっているだろう。
だから、大事なのはこの先だ。
『ヤギはすっごくでっかくて、ウシとイノシシもとてもおおきかったです』
「あとは、ヤギたちが活躍したことを書いて……」
『ヤギたちをかいたいです。いいこなので、やくにたつので、かいたいです』
「これでよしっと」
サラに字を教えるためにも、あたしは書きながら音読しながら書いていった。
一応、岩が割れたら嫌な気配が消えて雨が降ったとかも書いておく。
これだけかけば、父なら、きっと調べてくれるだろう。
「いよいよ、ほんだいだ。えーっと『ドラゴンの子をひろいました』……いや、ほごがいいな?」
あたしは『ひろいました』を線で消して『ほごしました』に訂正する。
拾った子ならともかく保護した竜の子を捨ててこいとは、父も言いにくいに違いない。
あたしは、自分で自分の戦略家ぶりに、感心した。
「これでよしっと。かあさま。これをとおさまにとどけて!」
「はいはい。ちゃんと届けますよ」
母に任せれば安心だ。
ふと、あたしは窓の外を見る。雨はどんどん激しくなっていた。
「そとで……遊びたいところではあるのだけどなー」
「お外は危ないし、雨だからやめましょうね」
そのとき、サラが笑顔で言う。
「ルリアちゃん、おにんぎょうであそぼ」
サラの尻尾は元気に揺れている。
「そだね。あそぼっか」
昨日から、姉から貰った人形で、遊びたいとサラは言っていた。
昨日は手紙を書いた後に遊ぼうとしていたら、領民がやってきたのだ。
ちなみに人形は、昨日のうちにあたしたちの部屋に運んである。
「そだな。かあさま、部屋であそんでくる」
「はい。もうわるいことしちゃだめよ?」
「わかってる!」
あたしたちは、自室へと走って戻った。
自室に戻ると、サラは机の上に姉から貰った人形を並べていく。
しっかりと木の棒の人形もサラは並べた。
サラが並べる人形をダーウは近くにお座りして、ロアは机の上から見つめていた。
ちなみにキャロは寝台のあたしの枕の上で寝ているし、コルコは窓際で外を見張っていた。
「ルリアちゃんが、おきゃくさまね?」
サラに人形の一体を渡された。
「わ、わかった。おじゃましまーす。とことこ」
「わー、よくいらっしゃいました」「りゃ〜」
サラは棒の人形を操って、出迎えてくれる。
「おみやげにパンをもってきた」
「まあ、ごちそうね! いっしょにたべましょ」
ダーウが「パン?」と反応したが、とりあえず無視しておいた。
「どうぞ、おちゃです」
「わかった。うまい。ぐびぐび」「りゃむりゃむ」
すると、ロアも一緒に飲むふりをする。
ロアは赤ちゃんなのに、あたしたちの言葉がわかっているのかもしれなかった。
とても賢い赤ちゃんである。
「わふ?」
あたしとサラが食べるふりをすると、そのたびにダーウが口の匂いを嗅ぎに来る。
本当に食べているのか確認しているらしい。
もし食べているなら、自分にも分けて欲しいと考えているに違いない。
「おちゃが、パンにあう!」「りゃ」
遊んでいるうちにあたしも楽しくなってきた。
いつの間にかクロや精霊たちが周囲に集まってきている。
『おちゃのむ!』『ぱんがうまい!』『おひるねをさせてもらおう』
精霊たちも一緒に遊んでくれる。
だが、残念ながら、サラには、精霊たちの声は届かない。
「こちらのモサモサのおきゃくさまが、おちゃをおいしいとおおせだ」
「まあ、おかわりもありますの」
あたしが通訳して、一緒に遊ぶ。
クロは遊びに参加せず、キャロの隣で眠っていた。
「まあ! 赤ちゃんがおもらししてしまいましたわ」
「りゃむ?」
どうやらロアが赤ちゃん役に就任し、お漏らししたことになったらしい。
本当は漏らしていない。ロアはお茶を飲むふりをしていただけである。
「おしりをふかないと!」
「おしめをしないといけないわ」
あたしとサラはロアを仰向けにして、タオルでお尻を拭く。
「りゃっりゃ!」
「きれいになりましたねー。おしめしますよー」
「りゃ〜」
あたしとサラがタオルをロアの腰に巻くと、ロアは嬉しそうに尻尾を揺らす。
ロアには立派な尻尾があるので、うまく巻けないが、まあいいだろう。
その後、赤ちゃんロアと人形で、一時間ぐらい遊んでいたら、サラがうとうとし始めた。
「おひるねのじかんだ!」
「まだ、だいじょぶ……」
あたしはサラを抱っこして、寝台へと運ぶ。
サラと抱きあう形で、お尻を支えて抱っこして歩いていく。
「ふぬー」
サラは重いが、あたしは剣術訓練をしているので、抱っこすることができるのだ。
サラを寝かせた後、その横に木の棒人形と赤ちゃんロアも寝かせる。
あたしも寝台に入ろうとすると、クロが言う。
『少し話があるのだ』
「む? なに? サラ、いいこいいこ」
あたしはサラの柔らかい髪を撫でながら、クロを見る。
『昨日、みんなで考えたのだけど……。ルリア様に戦い方を教えるのだ』
クロは真剣な表情でそう言った。