あたしたちが母の部屋から、自室に戻ると、
「すー……すー……」「りゃぁ……ゃぁ……」
まだスイとロアは気持ちよさそうに眠っていた。
相変わらずスイの顔にロアがへばりついている。
「いいこいいこ」
サラが、スイとロアの頭を撫でる。
「スイちゃんとロアは、ミアのことが気に入ってるみたいだね」
「そだね! えへへ」
スイはサラの棒人形ミアをしっかりと抱いているし、ロアは尻尾の先をミアに絡めている。
そんなスイとロアを見てサラも笑顔になった。
「キャロとコルコ、おるすばんありがと」
キャロとコルコは寝台の上で、スイたちを見守ってくれていた。
「きゅ」「こっ」
小さく鳴きながら、あたしに体を押しつけにくる。
「いいこいいこ」
あたしはキャロとコルコのことをぎゅっとしてから、優しく撫でた。
「むむ?」
「どうしたの? ルリアちゃん」
「ミア、少しかわった?」
「かわってないと思う」
「そっかー、気のせいかな」
いつも抱っこしているサラが変わってないというなら、変わってないのだろう。
あたしはミアのことも撫でた。
「ルリアちゃん、なにしてあそぶ?」
「そだなー」
「ぁぅぁぅ!」
『ダーウダメなのだ! ルリア様は安静にしないとなのだ!』
ダーウが庭で遊ぼうといい、クロに止められた。
「ばう〜」
ダーウは不満げに伏せをする。
「ダーウだけ、にわをはしる?」
「あうあう」
ダーウはあたしと一緒が良いらしい。
「そっか。じゃあ、ダーウもいっしょに精霊な——」
『精霊投げはダメなのだ。めちゃくちゃ走り回るのだ!』
クロからストップがかかった。
精霊投げは、ほわほわの精霊をポンポン投げて、部屋中を走り回る遊びだ。
『クロのお勧めは精霊力の訓練なのだ!』
それは体内をぐるぐる精霊力を回す訓練だ。
訓練とは言え、結構楽しいのであたしは好きだった。
「精霊力の訓練は楽しいけど、安静にしないといけないんじゃないの?」
さっき、おじいさんを助けるのに魔法を使ったばかりだ。
さらに訓練などしたら、疲れ果てて、背が伸びなくなるかもしれない。
『それは問題ないのだ!』
「そうなの?」
『そもそも、体内で精霊力を動かすだけなのだ。運動した後に体操するようなものなのだ』
「あー、あれかー」
なんとなくあたしはクロの言いたいことがわかった。
「にいさまも、剣術訓練の後、体操しているものな?」
『それなのだ!』
兄ギルベルトは剣術訓練で汗だくになった後、毎回ゆっくり筋肉を伸ばしている。
そうすると、疲れが取れやすくなったり、筋肉痛になりにくくなったりするらしい。
クロの声が聞こえないサラは、独り言のようなあたしの言葉をじっと聞いていた。
「クロが精霊力の訓練をしようっていってるの? サラも好きだよ? いっしょにする?」
「いいの?」
「うん!」
少し前にサラとロアと一緒に、精霊力の訓練をしたことがあった。
サラの場合、体内で回すのは精霊力ではなく魔力だが、魔力でも訓練効果は高いらしい。
『復習なのだ! お腹の奥に魔力が溜まっているのをイメージするのだ!』
「復習からだって! お腹のおくに魔力がたまっているのをイメージして!」
あたしがクロの言葉を通訳しながら訓練をする。
「むむ〜〜」「ばうぅ〜」
サラの隣で、ダーウも一生懸命練習していた。
キャロとコルコはそんなダーウを見つめていた。
「ふむぅ〜」
あたしも通訳しながら、訓練する。
「む? なにしてるのであるか?」「りゃ〜?」
するとスイとロアが起きた。
スイの顔には、相変わらずロアが仮面のようにへばりついている。
「クロに教えてもらいながら精霊力の訓練。サラちゃんは魔力の訓練」
「おお、我もやるのだ」「りゃむ!」
起きてきたスイはロアを顔に張り付けたまま、あたしの隣に座る。
「あ、サラちゃん、ミアを貸してくれて、ありがとうである」
「ん、いいよー」
棒人形ミアをサラに返すと、スイは「うんうん」唸り始めた。
依然としてロアを顔に張り付けたままだ。
「……スイちゃん、だいじょうぶ? それだと前がみえないな?」
「ん? 大丈夫である!」「りゃ〜」
スイはそういうが、息がしにくそうだ。
「ロア、こっちおいで」
「りゃむ?」
ロアを呼ぶと、ぴょんと跳んで、あたしの顔にへばりついた。
ロアのお腹はしっとりしていて、柔らかくて温かかった。
「ロアは、本当に顔がすきな?」
「りゃむ〜」
「だけど、前がみえないからな?」
あたしは顔から剥がして、お腹の前で抱っこする。
「ロアもいっしょに練習しよ」
「りゃむ〜〜」
しばらく訓練していると、マリオンが部屋にやってきた。
「あ、ママ!」
サラがマリオンに抱きつきにいく。
それをみたスイが、あたしにぎゅっと抱きついた。
「あらあら。おやつを持ってきましたよ」
マリオンはクッキーを持ってきてくれていた。
「やった! マリオンありがと!」「わふわふ!」
「我も食べるのである!」「りゃあ〜」
そして、みんなで美味しいクッキーを食べたのだった。