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ルリアたちが退室した後、アマーリアはもう一度念押しした。
「……これまで通り、ルリアのことは絶対に口外しないように」
「御意」
「トマス。ルリアが癒やした患者をそのまま帰したのは失敗でしたね」
「……申し訳ございません」
ルリアの秘密を守るためならば、返すべきではなかった。
せめて、名前や身分を聞かねばならなかった。
「……トマス。あなたは他の従者よりもルリアの秘密を知りました」
「はい、我が命にかけましても、絶対に口外いたしません」
「信用しています。今後、ルリアの護衛を頼むことが増えるでしょう。よろしくね」
「御意。身に余る光栄です」
秘密を知る者は少なければ少ない方が良い。
ならば、トマスを処罰するより重用したほうがいいと、アマーリアは判断した。
「改めてルリアが助けたという老人が誰か、調べなさい」
「ルリア様に害をなさぬよう、念のために消しましょうか?」
従者筆頭が声を潜める。
それはルリアの安全を第一に考える従者筆頭としては当然の判断だ。
「その必要はありません。そんなことをしてはルリアの行いが無駄になります」
「御意」
「ただ、口止めするだけで構いません」
そして、従者筆頭とトマスが退室し、部屋にはアマーリアとマリオン、侍女が残された。
「……ルリアは聖女かも知れないわ」
「聖女様、でございますか?」
驚くマリオンに、アマーリアは領民が直訴に来た際に起こった出来事を語る。
巨大な動物たちがルリアの言うことに素直に従っていた。
ルリアが撫でただけで、巨石が割れて雨が降り始めた。
「それにこの地に封じられていた水竜公の呪いも解いたわ」
「それは……聖女以外の何者でもありませんね」
「そうなの。困ったわ。またグラーフにも手紙を
アマーリアはため息をつく。
「グラーフが、近いうちにルリアを連れて参内しないといけないのよ」
「それは……大変ですね」
「ほんとに」
国王がルリアが聖女だと知れば、利用しようとするのは確実だ。
貴族を押さえつけるのに使うだけでなく、対教会の切り札にもしようとするはずだ。
「……ルリアの髪色と目の色を見れば、教会も黙っていないでしょうし」
ルリアは政治的争いの中心となる。
当然、利用しようと多くの者が近づいてくるだろうし、命を狙われることも増えるだろう。
アマーリアはため息をついた。
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