「ふえ?」
「森に入ったことも、サラを巻き込んだことも、従者に従わなかったことも良くなかったわ」
「うん」
「でも、倒れていた人を助けたことは立派なことです。偉かったわね」
「……うん、えへ」
「きゅーん?」
ダーウが体を半分起こして、あたしと母を見て首をかしげていた。
「もちろん、貴族の令嬢としては褒められたことではないわ」
「れいじょうなら、どうするの?」
「使用人にやらせなさい。今回で言えば、トマスに命じて任せればいいの」
「ふむ?」
普通の令嬢は治癒魔法を使えないので、それが正しいのだろう。
「令嬢として正しいふるまいではなかったけど、人としては正しいわ」
「そう?」
「そう、母はルリアを誇りに思います」
「へへ。えへへへへ」
「それにトマスをかばうために、叱られることを覚悟して説明しに来たことも偉かったです」
「そかな? えへへへ」
「なかなかできることではないわ。ルリア、頑張りましたね」
そして母はサラを見る。
「ルリアをかばってくれてありがとう。そして巻き込んでごめんなさいね」
「んーん! サラはまきこまれてないよ!」
「そう、ありがとう」
母はサラのことも抱きしめて、頭を撫でた。
「はっはっはっは」
ダーウは行儀良くお座りしながら母を見つめて、尻尾を揺らしている。
褒められるのを待っているのだ。
「ダーウも、ルリアの言うことをよく聞いて偉かったわね」
「わう〜」
母はダーウを撫でながら言う。
「ルリアをかばうのも、そうそうできることではないわ。忠犬ね」
「わふ!」
ダーウは誇らしげだ。
「よかったな! ダーウ。ありがと」「えらいえらい」
「わふ〜」
あたしとサラはダーウのことを撫でまくった。
「……さて、ルリア。ところで……」
「ん? おやつか?」
「わふわふ」
褒められた後に食べるおやつは格別だ。
おやつと聞いて、ダーウの尻尾の揺れが激しくなった。
「違うわ」
「え?」「わふ?」
衝撃をうけるあたしとダーウに向けて、母は言う。
「ルリア。治癒魔法を使えるの?」
「……えっと」
「それも瀕死の患者を治せるほど?」
「……えっと、それは」
「ルリア? 正直に言いなさい」
「はい。つかえる」
あたしは母の圧に負けて、正直に話してしまった。
「それで治癒魔法は誰に習ったの?」
「だれ? えーっと……クロ?」
「クロ? それはだれ?」
「えっと、この子なんだけど」
『そんなこといっても、かあさまに、クロはみえないのだ』
ふわふわと近くにやってきたクロが言う。
「見えないけどここにいるの。精霊だって」
「…………そう。信じがたいといいたいけど、信じるしかないわね」
「信じてくれるの?」
「実際、治癒魔法を使えるんだから信じるしかないでしょ?」
「そっかー」
ほっとするあたしに、真剣な表情で母は言う。
「ルリア。治癒魔法を使えることは隠しなさい」
「わかった!」
「……ずいぶんと素直ね。理由は聞かないの?」
「うーん。クロも隠せっていってたし?」
「そう。クロさん。ルリアをよろしくおねがいしますね」
『わかったのだ』
「わかったって!」
母はなにもない方向に頭を下げる。
クロは母の正面に移動して『こちらこそなのだ』と呟いた。
「クロが、こちらこそだって」
それから、母はマリオンと侍女、トマスと従者筆頭にも言う。
「ルリアが治癒魔法を使えることは絶対に誰にも言わないように」
「「「御意」」」
「部下にも、上司にも、親や子供にも、そして国王陛下にも言ってはいけません」
「……御意」
みな神妙な顔で頭を下げた。
「サラもおねがいね?」
「わかった! 内緒にする」
「偉いわ」
サラは母に頭を撫でられて、「えへへ」と笑った。