次の日。あたしが朝目覚めると、目の前が真っ暗だった。
「むむ? くらい……ロア?」
鼻には柔らかいお腹が触れているし、口にはなにかが入っている。
「……ロアのしっぽ?」
またロアがあたしの顔にへばりついているのかもしれなかった。
そして、尻尾をあたしの口に突っ込んだに違いない。
「……りゃむぅ」
「ロアはしかたないなぁ、まったく」
そんなところも可愛い。そんなことを思いながら、ロアを剥がす。
「む?」
だが、口の中にはなにかが入ったままだ。
「……これはミア?」
目の前にサラの大切なミアがいて、その端っこがあたしの口に入っていたようだ。
寝ている間にあたしが下にずれて、いつの間にかミアを咥えていたらしい。
「……はわわ」
サラの大切なミアによだれをつけてしまった。
あとでサラに謝るとしても、とりあえず、きれいにしなければ。
あたしは寝ているロアを抱っこして、袖でミアに付いたよだれを丁寧に拭う。
「……よいしょよいしょ。スイちゃんならきれいにしてくれるかも?」
寝始めたとき、スイはあたしに抱きついて眠っていた。
だが今はサラのお腹に顔を埋めるように抱きついて寝ている。
「……スイちゃんはねぞうがわるいのなぁ」
スイの頭はちょうどミアの位置にあり、髪の毛がミアに絡まっていた。
「しかたないなぁ」
あたしはスイの髪の毛を丁寧に解いて、ミアを袖でそっと撫でる。
「……ふふ。美味しいのである、ぜんぶたべていいのであるか?」
スイはいつも何か食べている夢を見ているらしい。
スイは寝かせておいてあげよう。起きてきたら、スイにミアをきれいにしてもらえばいい。
「よいしょよいしょ」
あたしはミアに付いたよだれを拭きながら、周囲を見る。
ダーウはあたしの足元で、キャロはヘッドボードで、コルコは窓際で眠っていた。
いつもは誰かが起きていることが多いのだが、今日はみんな寝ていた。
だが、みんな夜は眠るべきなので、寝ていていい。
特にキャロはいつ寝ているのかわからないぐらい起きている。
だから、あたしはダーウたちを起こさないように静かにする。
音を出さなくても、動けば振動でダーウたちは起きてしまうかもしれない。
だから、丁寧にミアを拭う。
「ゃぅ」
寝ているロアが、ミアの端をぎゅっと手で握る。
「ロアはかわいいなぁ」
そんなことを呟いていると、ふとミアがぼんやりと光りはじめた。
「……きのせい?」
あたしは目をこする。だが、ミアは輝いたままだ。
「まるで精霊みたいだな?」
クロほどの輝きではないが、いつも周囲でぽよぽよ漂っている精霊ぐらい光っている。
「クロ、クロ、いる?」
みんな寝ているので、小声でクロを呼ぶ。
『どしたのだ?』
するとクロが床下から生えてきた。
「ミアがなんか光ってる」
『これは……まあ、光ることもあるのだ』
「きけんなことはない?」
『ないのだ。なにも問題ないのだ。……クロは眠いのだ。ルリア様も寝るのだ』
「……そっか、ならいっか」
あたしも気にしないことにした。
人形も大切にされていたら、光ることぐらいあるに違いない。
あたしはよだれを拭いたミアをサラに抱っこさせて二度寝をした。
…………
……
「ルリアちゃん、ルリアちゃん!」「ばうばうばう!」
「……どした?」
あたしはサラとダーウの声で目を覚ました。
「ミアが動いてるの!」「ばうばう!」「りゃむ〜」
「え? 動いてるの?」
あたしが体を起こすと、ミアを抱っこして寝台の上に座っているサラが見えた。
ダーウは姿勢を低くしてミアに吠えている。ロアはミアのことを興味深そうに見つめていた。
ちなみにスイはまだ眠ったままだ。
「ダーウ、こうふんしないの」
「ばう〜」
「どれどれ」
あたしは冷静に体を起こすとミアに触れた。
「おお、少しあったかい、それに昨日より柔らかくなった?」
それはロアのお腹みたいな感触だった。
「ミア、動けるようになったの?」
「…………」
ミアがぺこりと頭を下げた。
「クロ、ちょっときて」
『きたのだ』
「ミアが動いているのだけど」
『そういうこともあるのだ』
「そうなのだ?」
『えっと、守護獣は親から生まれるのと自然に生まれるのがいるっていったのだ?』
そういえば、そんなことを聞いたことがある気がする。
『ミアは自然に生まれた守護獣なのだ』
「へー」
「クロはなんて?」
サラが尋ねてくるので、通訳する。
「なんか、ミアが守護獣になったみたい」
「へー、すごい」
「守護獣になることってよくあるの?」
『そうそうあることではないのだ。極めて稀な現象なのだ』
クロは語る。
精霊力が溜った場所などに、守護獣はまれに生まれるらしい。
『でも、ルリア様が舐めたりロアやクロが抱きついたりしたのだ』
「うん。した」
『そのお陰で精霊力がすごいことになったのだ。精霊王がいるところ精霊も集まるし』
「そんなもんかー。えっとねサラちゃん。なにやら……」
あたしはサラにミアが守護獣になった経緯を説明した。
『偉大な竜であるスイもいるし、その影響もきっとあるのだ』
「そっかー」
「む! スイが偉大という話をしているのなのであるか!?」
突然目を覚ましたスイは、ミアを見るとその頭を撫でた。
「おおー、ミア、おはよう。やっと動けるようになったのであるな」
スイは全く驚いていなかった。
「スイは、ミアが守護獣になりかけてるのしってたの?」
「知ってたのである。かなり前から精霊力が溜っていたのであるからして」
「そっかー」
『ミアは植物の魔物の守護獣なのだ。マンドラゴラやドライアドの親戚なのだ』
「へー。ミアは植物の魔物の守護獣なんだって」
「そうなんだ、すごい!」
「…………」
サラが驚くと、ミアは嬉しそうに手をパタパタと振っていた。