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128 コンラート再び

 あたしは一心不乱に木剣を振る。

 まるで物語の勇者になったかのように、気持ちよく木剣を振るう。

「とあああ!」

『きゃっきゃ!』『もっともっと!』

「ばうばう!」

「ふんふんふんふんふん!」

 一体どれくらい剣を振っていただろう。

「ふうふうふうふう」

「はっはっはっはっ」

 あたしは疲れた。少し腕が痛いぐらいだ。

 飛び跳ねまくっていたダーウも舌を出して、はあはあしている。

「す、すごい」

「む? コンラートいつのまに?」

 コンラートが中庭にいた。目を輝かせて、あたしを見つめている。

 その後ろには我が家の侍女が一人立っていた。

「ルリアは、剣術の達人なのか?」

「……達人かもしれない」「わふわふ」

 ダーウは「そしてダーウはルリアを乗せる達人」と自慢げだ。

 そこにサラたちがやってきた。

 サラとコンラート以外にも、ロアを抱っこしたスイもいるし、キャロとコルコもきた。

 もちろん、ミアはサラに抱っこされている。

「ルリアちゃん! お水!」

 サラも中庭にやってきてくれていた。

 水をコップに入れて、差し出してくれる。

「ありがと、サラちゃん。ふうふう」

 あたしはダーウの背中からぴょんと飛び降りた。

「その水はスイが出したのである!」

「スイちゃんもありがと。ふうふう」

 スイの出した水はとても美味しかった。

「ダーウも水を飲むとよいのである。ほれほれ」

 スイはダーウの為に、右手の指先に水球を出す。その水球はあたしの頭ぐらいあった。

「わふわふ〜」

 ダーウは喜んですごい勢いで水を飲む。

 スイは、ダーウが飲んだ分、水を新たに出すので水球は小さくならなかった。

「み、水が出た……、お前は魔導師なのか? 名は何という?」

「あ? なんであるか? こやつは? 無礼であるな?」

 スイが睨み付けるので、コンラートはビクリとした。

 王嫡孫のコンラートは、無礼とか言われたことが無いのだろう。

 きっと「お前は誰だ?」と尋ねれば、恭しく自己紹介されると思い込んでいるのだ。

「あ? お前。人に尋ねる前に名乗るべきであろう? ぼこぼこにされたいのであるか?」

 スイは、尻尾をバシンバシンと地面に叩きつけて威嚇している。

「ご、ごめんな……」

「だから名乗るといいのである」

「ぼ、僕はアゲート子爵コンラート・オリヴィニス・ファルネーゼ……です」

「ほう? 例のワルガキか? ルリア、ぼこぼこにしておくべきであるか?」

「ひぃ」

 スイは本気でぼこぼこにしようと思ってはいない。

 昨日、サラがされたことを、聞いたので怒って脅しているのだ。

 ちなみに、コンラートの悪行については、あたしもサラも姉と兄には言っていない。

 だが、スイには精霊たちが、報告したのだ。

 あたしも口止めしなかったので、精霊たちは悪くない。

「スイちゃん、そんなに驚かさなくていい。許してあげて?」

「ふむ。ルリアがそういうなら、許してやるのである。ルリアにお礼をいうのである!」

「あ、ありがとうございます。ルリア」

 ビクビクしているコンラートに、あたしは笑顔で言う。

「この子はスイちゃん。竜だ。ふう」

「竜!」

「そうであるぞ? ただの竜では無く水竜公という偉い竜である。水竜公閣下と呼べ」

 そういって、スイは胸をはる。

「そして、この子はロア。ロアも竜であるぞ? くれぐれも態度に気をつけるのである」

「わ、わかりました、水竜公閣下、ロア様」

「りゃ〜」

 そんなやりとりを見ながら、あたしはスイに言う。

「スイちゃん、水のおかわりちょうだい」

「ん」

「ありがと」

 あたしはスイに入れてもらった水を一気に飲み干す。

 やっと息が整った。

「ふう。コンラートや。竜には王も礼儀正しくしないとダメだ」

「王も?」

「よかったな? コンラート。子供で」

「そうであるな? お前が王なら気まぐれに国を滅ぼしていたかもしれないのである」

 スイは尻尾をもぞもぞさせながら脅す。

「王になるなら、忘れたらダメ」

「わ、わかった」

 コンラートは真剣な表情で頷いた。


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