あたしは一心不乱に木剣を振る。
まるで物語の勇者になったかのように、気持ちよく木剣を振るう。
「とあああ!」
『きゃっきゃ!』『もっともっと!』
「ばうばう!」
「ふんふんふんふんふん!」
一体どれくらい剣を振っていただろう。
「ふうふうふうふう」
「はっはっはっはっ」
あたしは疲れた。少し腕が痛いぐらいだ。
飛び跳ねまくっていたダーウも舌を出して、はあはあしている。
「す、すごい」
「む? コンラートいつのまに?」
コンラートが中庭にいた。目を輝かせて、あたしを見つめている。
その後ろには我が家の侍女が一人立っていた。
「ルリアは、剣術の達人なのか?」
「……達人かもしれない」「わふわふ」
ダーウは「そしてダーウはルリアを乗せる達人」と自慢げだ。
そこにサラたちがやってきた。
サラとコンラート以外にも、ロアを抱っこしたスイもいるし、キャロとコルコもきた。
もちろん、ミアはサラに抱っこされている。
「ルリアちゃん! お水!」
サラも中庭にやってきてくれていた。
水をコップに入れて、差し出してくれる。
「ありがと、サラちゃん。ふうふう」
あたしはダーウの背中からぴょんと飛び降りた。
「その水はスイが出したのである!」
「スイちゃんもありがと。ふうふう」
スイの出した水はとても美味しかった。
「ダーウも水を飲むとよいのである。ほれほれ」
スイはダーウの為に、右手の指先に水球を出す。その水球はあたしの頭ぐらいあった。
「わふわふ〜」
ダーウは喜んですごい勢いで水を飲む。
スイは、ダーウが飲んだ分、水を新たに出すので水球は小さくならなかった。
「み、水が出た……、お前は魔導師なのか? 名は何という?」
「あ? なんであるか? こやつは? 無礼であるな?」
スイが睨み付けるので、コンラートはビクリとした。
王嫡孫のコンラートは、無礼とか言われたことが無いのだろう。
きっと「お前は誰だ?」と尋ねれば、恭しく自己紹介されると思い込んでいるのだ。
「あ? お前。人に尋ねる前に名乗るべきであろう? ぼこぼこにされたいのであるか?」
スイは、尻尾をバシンバシンと地面に叩きつけて威嚇している。
「ご、ごめんな……」
「だから名乗るといいのである」
「ぼ、僕はアゲート子爵コンラート・オリヴィニス・ファルネーゼ……です」
「ほう? 例のワルガキか? ルリア、ぼこぼこにしておくべきであるか?」
「ひぃ」
スイは本気でぼこぼこにしようと思ってはいない。
昨日、サラがされたことを、聞いたので怒って脅しているのだ。
ちなみに、コンラートの悪行については、あたしもサラも姉と兄には言っていない。
だが、スイには精霊たちが、報告したのだ。
あたしも口止めしなかったので、精霊たちは悪くない。
「スイちゃん、そんなに驚かさなくていい。許してあげて?」
「ふむ。ルリアがそういうなら、許してやるのである。ルリアにお礼をいうのである!」
「あ、ありがとうございます。ルリア」
ビクビクしているコンラートに、あたしは笑顔で言う。
「この子はスイちゃん。竜だ。ふう」
「竜!」
「そうであるぞ? ただの竜では無く水竜公という偉い竜である。水竜公閣下と呼べ」
そういって、スイは胸をはる。
「そして、この子はロア。ロアも竜であるぞ? くれぐれも態度に気をつけるのである」
「わ、わかりました、水竜公閣下、ロア様」
「りゃ〜」
そんなやりとりを見ながら、あたしはスイに言う。
「スイちゃん、水のおかわりちょうだい」
「ん」
「ありがと」
あたしはスイに入れてもらった水を一気に飲み干す。
やっと息が整った。
「ふう。コンラートや。竜には王も礼儀正しくしないとダメだ」
「王も?」
「よかったな? コンラート。子供で」
「そうであるな? お前が王なら気まぐれに国を滅ぼしていたかもしれないのである」
スイは尻尾をもぞもぞさせながら脅す。
「王になるなら、忘れたらダメ」
「わ、わかった」
コンラートは真剣な表情で頷いた。