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131 ミアと覚醒するサラ

 次の日の朝、あたしが目を覚ますと、キャロはいつも通りベッドボードに立っていた。

「キャロ、ちゃんと寝た?」

「きゅ!」

 キャロは寝たと言うが、きっとあたしが寝てすぐ見張りに立ったに違いない。

「もー。じゃあ、あたしが起きている間に寝るといい」

「きゅきゅ」

「コルコは……寝た?」

 コルコは窓の近くで眠っている。

「…………こぅ」

 コルコも、ちゃんと寝たという。だが、きっとあまり寝ていない。

「ちゃんと寝た方が良いんだけど……」

 キャロとコルコが心配だ。

「……ば〜ぅ〜」

「ダーウはまだ寝てる。心配じゃないな?」

 ダーウはあたしより早く寝て、遅く起きるのだ。

 まだ、子供だから仕方がない。

「キャロとコルコも、ダーウみたいに寝ていいよ?」

「きゅ」「こっ」

「キャロは今からでも寝た方がいい。あたしが見張っててやるからな?」

「きゅ〜」

「ちょっとまってな?」

 あたしはロアを抱っこしたまま、寝台から降りる。

 サラやスイ、ダーウを起こさないように慎重にだ。

「たしかこのあたりに……」

 あたしはタンスからタオルを取り出した。

 以前、ロアのご飯をキッチンから盗みだしたときに使ったものだ。

「こうやって……」

 タオルの端を結んで、首にかけて、ハンモックみたいにする。

「キャロ、入っているといい」

 キャロを掴んでそのタオルハンモックの中に入れる。

「ルリアが見張っているから寝るといい」

 そういって、あたしは木剣を掴んでヘッドボードの上に立ち上がる。

 寝ているロアは頭の上に乗せておく。

「きゅ〜」

「遠慮するな。ちゃんと見張っているからな?」

 ヘッドボードは頑丈なので、立ち上がっても壊れないのだ。

「そうだ、ゆらしてあげよう。いいこ〜いいこ〜、キャロはいいこ〜」

 あたしが赤ちゃんだった頃、母やマリオンに揺らしてもらった覚えがある。

 揺らされると、なぜか眠くなったものだ。

「……いいこ〜」

「……ゅぅ」

 ヘッドボードの上でゆらゆらしていると、キャロは眠った。

 やはり揺らすと眠くなるらしい。

 キャロはいつも可愛いが、タオルハンモックの中で仰向けで眠るキャロは特に可愛い。

「……可愛い。ふへへ……おや?」

 あたしが、キャロの寝顔を見てにやけていると、視界の端にミアがはいる。

 ミアは光っていないが、なぜか違和感を覚えた。

「なにが……むむ? ミア、雰囲気変わったな?」

 あたしはみんなを起こさないように、本当に小さな声で囁く。

 昨日までのミアは胴体は太めの棒で、手足は細い枝というシンプルな形状だった。

 それが、今では頭は丸くて、黒い目があり、胴体は頭より少し小さい。

 そして、手足はシンプルながら、ちゃんと人形ぽくなっている。

 昨日までのミアは、知らない人が見れば木の棒と誤解しかねない姿だった。

 だが、今のミアは誰が見ても人形だと思うだろう。

「……あれだな。昨日ねえさまがサラちゃんにあげた人形に似てるんだ」

 きっと、昨日人形を見て、ミアは人形とは何か知ったのだ。

 それで、自分の姿を人形に近づけたのだろう。

「ふむ〜? さすが守護獣だなぁ」

 詳しいことはサラが起きてからクロに聞けばいい。

 とりあえず、あたしは見張りを続けた。

「これが……キャロのしていた見張り……」

 視界が高くて、少し楽しい。だが、何時間もこうしているのは多分退屈だ。

「ふむ〜?」

「え? ルリアちゃん、何してるの?」

「あ、サラちゃん、おはよう」

「……おはよう」

 起きてきたサラが、あたしを見て困惑している。

「キャロのかわりにみはってた」

「……えぇ」

 戸惑いながら、サラは体を起こして、

「あれ? ミア? 雰囲気変わった?」

 ミアの変化に気がついた。

「…………」

 ミアは嬉しそうに腕をパタパタしている。

「むむ? おはようである……お、ミア、雰囲気変わったであるな?」

 スイは起きてすぐ、ミアの変化に気がついた。

「クロ、いる?」

『いるのだ』

「ミアの雰囲気が変わったのだけど、なにかわかる?」

『木の守護獣だから、姿ぐらい変わるのだ』

「え? 木の守護獣だと姿ぐらい変わるのか?」

 サラに伝える為に、あたしはクロの言葉を繰り返す。

『うむ。ほら、木の魔物のドライアドは固いはずの枝を動かして攻撃したりするのだ』

「木の魔物のドライアドは固いはずの枝を動かして攻撃したりするのか」

『動物と違って植物は動かないのだ。でも、魔物は動くのだ。なぜかわかるのだ?』

「植物は動かないのに、魔物の植物は動くけど、理由はわかる? サラちゃん」

「あ、あの。ルリアちゃん」

 サラは困ったような表情を浮かべている。難しすぎたのかもしれない。

「うん。難しいな? 確か動く植物図鑑によると、魔物の植物は魔力で体の形を変えて——」

「ちがくて! ルリアちゃん」

「む? 違ったか。魔力じゃなかったか?」

「ちがくて……。サラ、クロがみえる」

「え? みえるの? ぼんやりと見えているんじゃなくて?」

「うん、可愛い黒猫。声も聞こえるの」

「おおー。クロ、何か話してみて?」

 クロはしばらく固まって、サラを見ていた。

『……サラ。クロなのだ。よろしくなのだ』

「サラです。よろしくです」

 どうやら、サラはクロを見ることも、クロと話せるようにもなったらしい。

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